ポテトサラダと食材探し
翌朝。僕たちは起きると関所にいた。スレイプニルさんが気を使ってくれて、起きる時間を考えて動いてくれたらしい。うーん、本当に気が利くなぁ。
お礼に朝ごはん作ってあげないとね!
うーん、何作ろうかな。昨日、アークさんから余った材料はもらったんだよね。小麦粉に牛乳、クルミにハチミツ。クルミぱんをまた作るのはちょっと芸がないよね。
でもパンを作るのが一番なので、普通のパン生地を作っておいた。
「俺はいももちでも構わないんだがな」
なんて話をしてたら、フィブリアさんは朝の支度をしながらいってくれた。
フィブリアさんも気を使ってくれてるんだよね。でも、やっぱりダメだと思う。
「それじゃあ彩りもないし、栄養も偏っちゃいますし。それに、ずっと同じもの食べてたら飽きちゃうじゃないですか」
「そうなのか?」
「……魔族の人って、基本的に何を食べてるんですか?」
「干し肉と固焼きパン。後は骨と種だな。狩りに出る時はそのまま生肉を齧るが」
「アゴと胃が鍛えられそうなメニューですね……」
というか、すごくストイックというか、アグレッシブというか。
「魚も食うぞ。面倒だからそのまま丸呑みするが、やはり肉の方がいいな」
「分かりました。市場にいったら美味しいお肉も仕入れましょう」
「人間界の肉か、気になるな」
あ、フィブリアさんが興味を示してくれた。やっぱりお肉好きなんだなァ。
よし、じゃあ頑張ってみますか。
僕も市場はとても興味があるんだよね。兄さんの話じゃあ屋台とかも出てるらしいし。僕も屋台を始めたいから、色々と参考にさせてもらわなきゃ。
「さて、通過するぞ。私が手続きするから、お前は中に入っていろ」
「はい」
僕は素直に従う。
フィブリアさんって本当に慎重というか、頼りがいがある。あと、怒らせたら怖い。
そっと馬車の中のロフト部に移動させてもらって、僕は小さい窓から関所を通過するのを眺める。フィブリアさんは笑顔で門番の役人と数回会話を交わして、あっさりと通行許可をもらった。
通行手形もあるんだろうけど、さすがだ。
「さて、もういいぞ」
フィブリアさんの許可が出たので、僕はさっと出た。
「手際いいですね、フィブリアさん」
「若い頃は潜入調査もやっていたし、訓練もしていたからな。お手の物だ」
「へえ、潜入調査、なんかカッコいいですね!」
「また目をきらきらさせて……子供みたいな反応するんだな、君は」
ちょっと呆れたようにフィブリアさんは微笑んだ。あれ、なんで?
「そうですか? カッコいいじゃないですか。あれですか、こう、ゴーグルつけたりして、全身黒いパツパツのタイツとか」
「どこの怪盗だそれは。むしろそれは逆に目立つだろう」
「いわれてみればそうですね。ちょっとやってみたかったんですけど。ほら、男子の夢」
「男子の夢なのか」
「男子の夢ですね」
きっぱりといいきると、フィブリアさんは物凄く不審そうに首を傾げた。
しばらくブツブツいって、何度も頷いてからまた僕を見る。な、なんだろう。
「一応きいておくんだが、その、服を持ってたりはしない、よな?」
「え? 持ってますけど」
「けろっと当然のようにいうんじゃない! 捨てろ、そんなもん!」
がーん!
「ええええ、そんなぁ!」
「いっとくけど、着ようとしたら絶対に阻止するからな。その場で燃やしてやる」
「そこまでいわなくても……」
「男子の夢だろうがなんだろうが知ったことではない」
「うぅぅ……」
「それよりも、お腹がすいてきたな」
お腹をさすりながらフィブリアさんが呟く。
そういえば、確かに朝ごはんがまだだったなぁ。朝日がのぼりはじめると同時に関所を抜けたから。ここから目的地の東の町まではちょっと時間がかかる。朝ごはんには遅くなっちゃうんだよね。
「朝ごはんにしましょうか。ちょっと材料まだ少ないですけど」
「ん? 足りないなら調達してくるけど?」
「あ、じゃあ僕もいきたいです。もう国外だから大丈夫ですよね?」
「まぁ、少しくらいは……そこに森があるな。スレイプニル。悪いが少し森に入ったあたりで止まってくれるか?」
やった! 外に出られる!
ちょっとしぶってたけど、許してくれてよかったー! なんかわくわくする。だってもう、ここは異国の大地。何があるんだろうなー!
フィブリアさんのお願いをきいて、スレイプニルさんはすぐに森へ向かってくれた。
到着して、すぐに僕は飛び降りた。
「静かないい森ですね」
「そうだな。草も少ないし、木々の密集度も高くなくて、歩きやすい。動物の気配はすごくあるけど、魔物とかの類の気配は、近くにはないな」
いたとしても、ゴブリンくらいだと思う。
フィブリアさんが一通りの安全を確認してから、探索開始! っていっても時間をかけてられないんだけどね。とりあえず近辺だけってことで。
えーと、あ、あの木の根っこの辺りにあるつる草、これ……キュウリだ!
こんなところで出会えるとは思わなかったなぁ!
朝ごはんにはぴったりだからいただこう。
他には……あ、キノコがある。僕はすぐに駆け寄ってじっと観察した。キノコって毒があるのもあって、中には触るだけで大火傷しちゃうのもある。注意しないと。
これは食べられるタイプのやつだ。
臭みが強いから、そのままは食べられないけど、乾燥させて戻す時にでる出汁がたまらないくらい旨味があるんだ。
ふふ、これもゲット、と。
おお、あれってレモンの木だ! いい感じのがいくつかあるから、これもいただこう。
「そこそこ手に入れたんだな。こっちは卵だ。無精卵だったからいただいてきた。それと、タマネギもな。あ、これも捕まえたぞ」
「わ、って、これは……?」
嬉しそうに見せてきてくれたのは、肉だった。すでに血合いを済ませてあって、毛皮も綺麗に剥ぎ取られてる。な、なんとなくフォルムで想像するしかないんだけど……。
「ホーンラビット?」
「そうだ。うまいと思うんだが」
「そうですね。熟成させたら美味しくなると思います。すぐには食べられないです」
「そうなのか……」
あからさまに肩を落とすフィブリアさん。でもここは我慢してもらわないと。美味しいお肉を食べるために。
「肉は無理ですけど、色々と集まりましたし、早速作りましょう」
フィブリアさんを励ましてあげないとね、美味しいご飯で。
早速キッチンに戻って、僕は準備をする。
まずはジャガイモを茹でて、と。その間にサクサクっと作っていこう。
用意するのは卵。そこにレモンの絞り汁と、塩、を入れてよーくかきまぜて、と。
カカカカ、と音を立てながらまぜていく。
「目にも止まらない速さだな?」
「もったりするまで混ぜないといけませんからね。混ぜがコツなんですよ」
うん、いい感じだ。次にオイルを少しずつ入れながらまぜていく。一気にやると失敗するからね。少しずつ、少しずつ、クリームみたいになっていくまで、しっかりとね。
しばらく頑張っていると、見る間に綺麗な黄色を発色する、もったりしたソースができた。うん、とろみも完璧。
「これは?」
「マヨネーズです。調味料ですよ」
珍しいよね。僕もそう思う。
味見させてあげたいけど、後のお楽しみにしてもらおう。
次に、キュウリ。
まずはイボイボを軽くとって、さっと洗ってから細く千切り。そこに塩を揉みこんで、浅漬け風にしつつ、ぎゅっとしぼって水分を抜く。よーく抜いておかないと、しゃばしゃばさせちゃう原因になっちゃうからね。
あとはタマネギ。スライスして水にさらして、と。辛味が取れたら、こっちも水分を拭き取っておく。
「芋がゆであがったようだな」
「ありがとうございます。塩コショウして、マッシュして滑らかにしますね」
棒を使って、と。でも、芋感を残すために潰し過ぎないようにするのがコツ。
粗熱を取ったら、具材を混ぜて、マヨネーズとよくあえる。リッチなコクを出したいなら卵黄をいれるといいんだけど、マヨネーズが新鮮だし、たっぷりコクがあるから、今回はナシの方向で。芋の味も楽しみたいし。
それに、品数を増やしたいしなぁ。
よし、できた!
次にスクランブルエッグ。ちょっとコツがいるから、真剣に。
卵を泡立つくらいによーくかきまぜて、塩を入れて、と。後はフライパンにちょっと多めのバターを入れて熱する。
卵を入れたら、火を弱くして、ゆっくりかき混ぜながらふわふわにさせる。
この混ぜ方も優しくするんだ。
さぁ、これも完成だ!
お、ちょうどパンも焼き上がったね。
卵液を塗って焼いたから、表面がぱりっと仕上がってる。これは美味しいぞ。
アツアツのままだとポテトサラダが溶けちゃうので、ちょっと冷ましてから、盛り付けをして、と。うん、いい感じだ。
「できました」
「みててずっとお腹がなっていた。まるで魔法のようだった」
「ふふふ。魔法かもしれませんね」
料理って、原材料からは想像もつかないものになる時あるもんね。
さて、食べますか。
僕は牛乳をカップに注いで、テーブルに並べる。いつのまにかフィブリアさんがテーブルクロスも用意してくれてた。おしゃれだし、はえるなぁ。
「いただきます」
二人とも手を合わせて、早速食べる。
「んっ」
ちょっとひんやりした舌ざわり。
けど、舌が触れただけで仄かな甘みと小麦の風味が伝わってくる。楽しみながらはむっと噛み切ると、ポテトサラダの出番だ。
ほくほくっ、しゃきしゃきっ。
んー、美味しいっ。
ほっぺがじゅわーんってする!
「美味しいな、芋のほくほく感と、キュウリの塩気にシャキシャキ感、タマネギもそうだが、こっちは逆に甘い。それをまとめるのがマヨネーズか。すごいクリーミーなコクだな。それに爽やかな酸味が気持ちいい」
「ツンとしないのがいいですよね」
「うむ。まろやかだ。パンに合うな。それにスクランブルエッグもすごい」
スプーンでとろとろになったスクランブルエッグを綺麗にすくい、一口。
「ふわふわでとろとろだ。あっという間に口から溶けて消えてしまう」
「不思議でしょう?」
「こんなに噛まないでいいモノもあるんだな」
フィブリアさんは口をすこしだけぽかんと開けながら関心していた。
うんうん、喜んでくれてよかった。
スレイプニルさんにも同じものを作って渡してある。美味しそうに平らげてくれたので、こっちもよかった。うん、みんなを笑顔にできるって、気持ちいいな!
後片付けを始めると、馬車が動き出した。
この辺りの街道は広くてのどかだ。
右側は森で、左側は畑と草原。高低差がちょっとあるけど、スレイプニルさんのおかげで何一つ気にならない。うん、陽射しもきもちいいなぁ。
「それで、町についたら店を開くのか?」
「ええ。どんなお店があるのか調べて、仕入れられるものとかも確認してからメニューを考えるつもりです」
「そういうところはしっかりとしてるんだな」
「少しでも多くの人に食べてもらいたいですから」
素直に返すと、フィブリアさんは「違いない」と同意してくれた。
さて、後片付けも終わり、と。
「――おい、そこの馬車! 止まれ!!」
怒号のような大声が響いたのはその時だった。
スレイプニルさんが驚いて止まる。同時にフィブリアさんの表情が険しくなった。
そっと覗くと、まだ少年って感じの男二人組が街道で通せんぼしている。格好は、どう見ても品のいいものじゃない。というか荒々しい。
どうしたんだろう。
首を傾げると、すごい勢いでフィブリアさんが飛び出した。
「はは、女か! これは楽勝だな。おい、悪いことはいわねぇ、痛い目にあいたくなかったら有り金をぜんぶだしゃあっ」
「断る」
「て、てめぇ! 不意打ちかよ! くそ、下手に出てりゃいい気になりやぶみっ」
「いつ下手になった、貴様ら。B級のセリフを吐くな」
うわー。二人とも一撃。
容赦ないかもしれないけど、フィブリアさんちゃんと手加減してる。もし本気だったらちょっと言葉に言い表せないようなスプラッタになってただろうし。
下半身が地面にめりこむぐらい、まだマシだよね。
「でも……なんでこんな子供が?」
「さぁな。予想だが、家に反発して家出したら、野盗に脅されて使いパシリにされたってところだろう」
「え、そうなんですか? それだったら説得して家に帰してあげなきゃ!」
僕がそう提案すると、フィブリアさんが肩をがっくり落とした。
「そうか、そうくるのか……」
と。
あれぇ?
「と、とりあえず、この二人を引っこ抜きましょう」
「そうだな」
僕の提案に、フィブリアさんは疲れた声で返事をした。
ポテトサラダは本当にアレンジがききますよね。
今後も出していきたい食材です。
次回の更新はお昼頃です。
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