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異界の巫女  作者: ハル
ゲーム本編前
9/56

幸せのひと時

 順調に日々は経過し、私が記憶を取り戻してから二年の月日が経った。

 私は8歳になり、二年前よりかはそれなりに大人っぽくなったと思う。

 相変わらずユアンからは魔法の練習を受けていた。


「そうじゃないって。もっと自分の中の魔力を感じて」

「こう……?」

「違う違う。アーシャ、君の中には大きな魔力があるんだ。それを制御するのは難しいかもしれないけど、君なら出来るよ。もっと自分を信じてやりなよ」

「オッケー、師匠!」


 実は意外と師弟仲は良好だったりする。

 最初はどうなることかと思ったけど、ユアンはどうやらひねくれてるだけのようだ。そうと分かれば、こちらも相応の接し方をすればお互いに打ち解けるのに時間はいらなかった。


「お?お?出来た!?浮かんでる!?」

「へぇ……まぁ最初にしてはいいんじゃないかな」


 自分の足元を見れば十センチぐらいだが浮いていた。

 ただいま浮遊の魔法の特訓中だ。


「ま、基礎が出来たなら後は反復練習だね。そのうちこれくらいは出来るようになるよ」


 そう言ったユアンは胡坐をかきながらグングンと上へと浮いていた。その高さにして数十メートルはあるか。

 恐るべしSランク魔道士。


「ふふっ、魔法の訓練はそれぐらいにして次は弓の訓練にしましょうか」


 一区切り終えたからか、今度はシャリーさんが弓を持って私の前まで来た。

 実は去年から魔法に加えて弓まで教えてもらうことになったのだ。しかも教えてくれるのはシャリーさんで、これがまた意外にもノリノリなのだ。何でも私のことを娘のように思っていてくれてるらしい。それを聞いた私はちょっぴり涙してしまった。


「よろしくお願いします、シャリーさん」


 弓といっても、私はまだ身体が小さいので子供が扱う練習用の弓だ。それでも大きな練習にもなり、私の腕には日々弓が馴染んでいくようだった。

 ユアンから魔法を、シャリーさんから弓を教えてもらい、毎日が私を強くさせている実感が湧いている。

 ちなみにアークさんからは戦闘における座学を教えてもらっている。最初は戦いを教えるのに反対されていたものの、二人が私に教えることに一人のけ者に感じていたみたい。

 国に十人ともいないSランクの冒険者。その三人に戦いを教えてもらってるって、今思えばすごいことだ。

 これはもう、死亡フラグなんて余裕で回避できるかな?

 なんてわけにはいかないか。どんなことが起こるか分からない。その時には万全の状態で挑みたいものよ。


「おーい、そろそろ休憩にしよう」


 アークさんが頃合いを見計らって声を掛けてくれた。

 訓練を中断してお茶タイムだ。

 私はこの時間がとても好き。


「あ、ユアン!私の分のお菓子取ったでしょ」

「さぁな。食うのが遅かったんじゃねぇの?」

「もう!」

「おい、ユアン。アーシャを苛めるなよ」

「苛めてませーん。これはれっきとした師弟愛でーす」

「嘘つきユアン」

「あらあら。本当にユアンがこんなにアーシャちゃんと仲良くなるなんてねぇ」


 自惚れではなく、私はこの三人からちゃんとした愛情を貰っている。家族の錯覚さえ思わせた。

 アークさんがお父さんで、シャリーさんがお母さんで、ユアンが兄だ。

 こんな幸せがいつまでも続いていて欲しいと願うが、実際にそこにいるポジションは私なんかではない。

 ギルドへと連れてこないから忘れそうになるが、アークさんとシャリーさんにはちゃんとした息子がいるのだ。親バカなくらい、二人は息子の話をよくする。なぜ連れてこないかと聞いたこともあるが、ギルドは図体のでかいおっさんたちが多いし酒臭くもある。そんなとこにまだ幼い子供を連れてきたくはないそうだ。

 それが大して気にならないのは私だけなのだろう。


「おいおい、またお前たち一緒なのか?アーシャはすっかりアークたちに懐いたな」


 突然第三者の声が割り込んできたが、それがギルドマスターの声だとすぐに分かった。


「はい!」

「ハハッ、いい返事だ。……それよりアーク、あの話聞いたか?」

「あの話?」

「南のブルスターグ山の話だ。何でも魔物の動きが凄く活発になっているらしい」

「マスター!……アーシャの前だ。それ以上は向こうで聞こう」

「……すまん、俺としたことが」


 ブルスターグ山?

 私はその話の内容に混乱した。

 凄い、とつてもない嫌な感じがする。


「アーシャ?」

「ねぇ、ユアン。魔物が活発って……」

「あぁ、大丈夫だよ。街道まで降りてきたっていう話は聞いてないし、討伐にもギルドから何人か出てる。すぐに噂はなくなるよ」

「でも……」

「何だよ、アーシャ。もしかして魔物が怖いのか?」


 私はまだ魔物を見たことがない。

 魔物は魔王の眷属であり、街の外を縦横無尽に徘徊している。といってもその数は決して多くなく、山や洞窟など人が手入れしてない場所に住み着いているほどだ。

 けれど日本で生まれ育った私としては魔物の存在はやはり怖い。だけど今恐れているのはそんなことではないのだ。


「そうじゃない……!私が怖いのは……」


 この幸せを失うこと。

 アークさんたちが死んでしまうこと。


 今でこそアークさんは健在だが、ゲーム本編ではすでに亡くなっている。

 その事件は作中でも描かれている。十年前に起きた出来事で、仕事へ出かけた際に失敗して魔物にやられたという話だ。

 場所はブルスターグ山。

 ゲーム本編の十年前。それは今年に起きる出来事で間違いない。

 その過去のイベントと今日のマスターの話。繋がっているのは明白だ。


「大丈夫よ、アーシャちゃん。そんなに恐れないで」

「シャリーさん……」


 慈愛に満ちた笑顔で私を宥めてくれる。普段はからかってくるユアンもどこか心配そうに私を覗き込んでいた。


 あぁ……やっぱりこの幸せを、彼らを失いたくない。


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