マイエンジェル
私が街に降りてアーク様たちと出会ってから数か月。
週二、三ぐらいのペースで私は街へと降りて、順調にユアンさんから戦い方を教わっていた。
戦い方と言っても、その実魔力の制御などが中心でまだまだ攻撃魔法などほど遠い。しかしユアンさんの教え方は意外と上手で、私は結構魔力が強くなっている自覚が少しずつあった。
Sランク恐るべし。
ちなみに城下町への塀は冒険者ギルドに売っていたとある道具を用いて越えられるようになった。スパイの人が良く使う塀の上に金具を引っ掛けて紐を伝って上るやつだ。我ながら忍者に転向もいいかなーと思ってしまった。
今日は屋敷での勉強の日だった。最近少し大きくなったからか、私たち姉妹に対して家庭教師をつけるようになったのだ。
内容は主に教養やマナーなど、貴族の女性として過ごすためのものだった。前世の記憶がある分勉強は得意だと思っていたけれども、正直これは苦手だ。上達もなかなかに遅い。
対する姉の方は素質もあるのだろう。みるみると立派なレディへとなりつつある気がする。やはり私とは大違いなのだろう。最もそれに対して特に劣等感を持つことはない。
「ふぅ……やっと終わったわ」
こんないらない授業で半日も潰された。
これが大人になるまで続くなんて憂鬱でしかない。
私は自室へ戻ろうと歩いていると、後ろから何やら熱い視線を感じる。
あ、天使だ。
「姉様……」
天使、もとい弟は私と一定距離を保ちながらこちらを見つめる。
え?もしかして遊んで欲しいのかな。
純粋に可愛い弟とは正直いって遊びたい。構い倒したい。あの柔らかそうなほっぺを堪能したい。と、欲望まみれなことはとても思っている。
けれど、内気(を装う)な私としても、将来悪役となる弟とそこまで親しくなるわけにもいかないのだ。
ここは心を鬼にして……
「それは……!!」
そこで私は弟が持つものに目を奪われた。
キャンディー!
キャンディーだよ、ちょっと!それ絶対甘いものよね!?何それ、食べる気なの!?
「ダメよ、ヨハン!」
私はすかさず弟のもとまで走ってそのキャンディーを手に取った。
「姉様?」
普段ならば来ないであろう姉が来ることに驚いているのか、ヨハンは少しだけビックリしていた。
そんなことお構いなしに私はヨハンのキャンディーを手に取った。
「ヨハン、これは何かしら?」
「キャンディーだよ。姉様も食べる?」
あぁ、可愛い。私はヨハンを食べたい。
……じゃないじゃない。
「ダメよ、ヨハン」
「……?」
私はもう一度同じ言葉を繰り返す。これからする説得はヨハンの一生を左右する。
真剣な声でヨハンへと語りかけた。
「いい、ヨハン?このキャンディーはとても甘くて美味しいかもしれないけど、その中には甘い毒が入ってるのよ。その毒はヨハンの身体の中に入ると少しずつ少しずつその身体を膨らませてくの。それでも気にせずに食べ続けたらやがて身体が耐え切れなくなって……」
「なって…………?」
「パアアアアアアアン!!……って破裂しちゃうのよ」
「…………」
ヨハンは泣きそうになりながらしきりに頷いている。
「だからいい?これからはキャンディーみたいに甘いものは食べちゃダメよ。ケーキもクッキーもダメ」
「……絶対にダメ?」
「そうね……ほんの少しだけだったら大丈夫よ。だけどちょっとでも多く食べたら毒が入ってしまうわ」
「……分かった。僕、もう甘いもの食べない」
ごめんなさいヨハン。こんな嘘つきな姉を許して……。でもこれも貴方のためなのよ。
確か公式ではヨハンの好きなものは甘いものだったけれど、これで変わるかしら。
そもそもにストーリーが微妙に変化したらどうしよう。
いやいや、そんなものよりこの天使が醜くなる方が重要よね。
どうかこれでヨハンが太らずに成長しますように。
お姉ちゃんはいつでも見てるわ。だから誘惑に負けずに頑張ってね、ヨハン。




