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異界の巫女  作者: ハル
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番外編:メイドのお仕事

「おやすみなさいませ、アーシャ様」


 ここ最近の出来事により心身疲弊しきった主人に挨拶を終えてから、その部屋の扉を閉めた。

 アーシャ様の学園で事件が起きたのは一週間前。その日のアーシャ様の帰りはとても遅い時間だった。

 話を聞けばアーシャ様は容疑者として取り調べられたものの、証拠不十分で釈放されたとか。

 あの日の憔悴しきったアーシャ様は見ていられなかったほどだ。


 あぁ、何てこと!今すぐにでもアーシャ様を傷付けた奴らを八つ裂きにしてやりたいわ!!アーシャ様が殺人犯!?冗談じゃないわ!アーシャ様がそんなことするわけないし、仮にあったとしてもバレるようなヘマをするわけないじゃないの!本当のアーシャ様を知らないくせに、好き勝手を言うのは絶対に許せないわ!!あの女神の如く美しい笑顔をここ最近は見せてもくれないし!そうなった原因を私は徹底的に排除するわ!!


 コホン。

 少々取り乱したわ。

 だけど分かって欲しいのです。私のこのアーシャ様を愛する気持ちを。




 アーシャ様と初めて出会ったのは六年前。

 私がメイドとしてバレリアナ家に奉公しにやってきた日でした。

 他にも数人のメイドがいる中、私たちがお世話をなさるお方はお二人。それはもうとても可愛らしい双子のリーシャ様とアーシャ様でした。

 けれど話を聞くとアーシャ様のお世話は一人で、残りは全てリーシャ様付きのメイドになるということ。ここへ来る前からお二人の噂を聞いていたけれども、その差が酷くて軽く驚いたのは今でも覚えている。

 けれども私はただのしがないメイド。そんなことは思っても、口にはもちろん顔にも出すことさえ許されない。

 メイドは全てを主人のために捧げ、そのためなら命さえ惜しまない。私にメイドの仕事を教えてくれた人からはそう教わったもの。

 そして私たちメイドは二人のお嬢様と対面した。

 明るくハツラツとしたリーシャ様と、暗く俯き加減のアーシャ様。正反対の双子だった。

 誰がどちらのメイドに着くかを決めるのはリーシャ様だった。彼女が自分のメイドを選び、残った一人がアーシャ様のメイドとなる。

 そんな単純のやり取りを私は心にもなく眺めていた。

 正直どちらでも良かった。私は命を捧げる主人を探してるのであって、それに足りない主人であるなら誰でも良かったのだ。機を見て辞めるくらいどうとでもなる。

 そう、あの瞬間までそう思っていた。

 ふとした時にアーシャ様が顔を上げたのだ。理由なんて分からない。リーシャ様がメイドを選んでいる最中だった。

 私もまたアーシャ様の様子を伺っていた時、その視線が交わった。

 今でも覚えてる。あの時の震え上がる喜びを。

 その眼はとてもではないが少女が持つようなものではなかった。むしろ何かを決意したような、とても強い人が持つ眼だったのだ。

 私はその眼に惹かれるように、リーシャ様の言葉を遮って自らアーシャ様のメイドになりたいと自分から発言していた。

 それはもう不敬罪と取られてもおかしくはなかった。なにせリーシャ様の発言を遮っての言葉だったからだ。

 けれど私は後悔なんてしていなかった。これを逃せばアーシャ様のメイドになれる機会を逃すかもしれなかったのだ。

 そんな私の想いが伝わったのかは分からなかったが、リーシャ様は何かを考えるような仕草をしたあと、私をアーシャ様のメイドになることを認めてくれた。

 その時のアーシャ様の顔といったら、今でも思い出したら笑みが零れるわ。

 それから私は献身的にもアーシャ様へと仕えた。

 アーシャ様もだんだんと私にも心を開いてくださり、本来のお姿を少しずつ曝け出してくれた。

 その度にやはりこのお方はとつてもないのだと理解する。そして何かを懸念するように深い溜息を吐くのも見逃しはしなかった。




 そして時は現在へと移る。

 アーシャ様は未だに私のことを全面的に信用ならないのか、もしくは私を巻き込みたくないのか、その全てをお話下さることはなかった。

 その理由が前者なら悲しいものだが、後者であるならば嬉しさに身が震えるものだろう。

 アーシャ様が冒険者であり、その実力が学院でもトップクラスであることは私はすでに知っている。もちろん私が知っていることはアーシャ様は知らないはずだ。

 それを隠す理由は私には知る由もないが、それでも私はアーシャ様のために動き続けるのだ。

 あの時に感じた直感は決して間違っていなんかないと。私だけがそれを知っている。


「……ごきげんよう。貴方がモルガン嬢の裏にいた貴族で間違いないですわね?」


 考え事をしていた間、私はアーシャ様の元を離れ、今ある人物の目の前にいた。


「……!?誰だ、貴様は!?」

「……あら、私はただのメイドですわ」


 この男はアーシャ様を陥れたマララ=モルガンの裏にいた貴族の当主。

 もちろんこのことを知っているのはほんの一握りの人物だろう。むしろ私がここへと辿り着けたのも、よく知る情報屋のおかげである。


「メイドだと……?」

「えぇ。私はただのメイド。さて、貴方にはその意味がお分かりでしょうか?」

「……ッ!!」


 そう、私はただのメイド。

 主人を守る盾となり、矛にもなる。

 この意味を知る者はあまり多くはない。


「アーシャ様を傷つける者は誰であろうと許さない」


 傍からみればただのメイドである私。

 けれどその身体には数えきれない暗器が仕込まれているのを知っているのだろうか。

 目の前で震える男にはもはや興味もなかった。

 こんな小物が本物の黒幕であるわけはない。けれど、私にも情報屋にもその後ろを追うことはできない。ならばこの男には責任を負ってもらおう。

 なにせ私の大切な主人を傷つけたのだから。


「死になさい」


 メイドの仕事。

 それは全てを主人のために捧げ、そのためなら命さえ惜しまない。

 そして主人を守るべく、敵対する者を闇夜に葬る。

 それこそが、真のメイドの仕事である。


 アーシャ様

 貴女を害する者は、一人残らず私が葬ります

 だから貴女は前だけを見てください

 後ろの敵は全て葬りますから

 だから、貴女は前だけを、前だけを見続けて――


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