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異界の巫女  作者: ハル
ゲームスタート
53/56

真意はどこに

 姉からの情報を手に入れたところで、私が何かを出来るわけはなかった。

 マララ=モルガンという生徒のことは確かに気がかりであるが、だからといってアーシャという人物が積極的に動くわけにもいかない。

 この件に関しては、完全に姉たちに任せるのが一番だろう。今でさえ、王子とウィラクスは眼を光らせてユキさんの周りを囲んでいるのだ。ユキさんも申し訳なさの中に、嬉しそうな感情も見え隠れしている。少なくとも二人への好感度はきっと上がってるはずだ。

 個人的にはルクス推しなんですがね。

 まあそれはいいとして、今現在問題なことがある。それもこれも目の前で尻尾を振っているこの大型犬と、それが気に喰わないようで私をあからさまに睨む飼い主だ。

 またの名をデコボココンビという。


「でね、でね!その時の兄さんときたらホントにカッコよかったんだよ!アーシャ先輩にも見せてあげたかったな。そしたらきっと先輩も兄さんのこと惚れ直すのも間違いないよ!」

「……そ、そう……」


 ディーンが興奮気味に語るのは、先日の休みに騎士団の訓練を見学したときのデューク様の活躍だった。

 靡く金髪のせいもあってか、ディーンの笑顔はとても眩しい。そんな嬉しそうにそれを私に向けないで……。

 そしていい加減に後ろから睨むカインに気付いてちょうだい!


「あぁ、ホントカッコよかったな。俺もいつか兄さんみたいになれるかな?アーシャ先輩はどう思う!?」

「え?……えっと……ディーンならきっとなれるんじゃないかしら……?」

「そうかな!?アーシャ先輩にそう言われたら俺頑張るしかないよ!あ、そういえばさ、その時はアンナ様も一緒にいたんだけど、あの人も女の人なのにカッコいいよね。カインもそう思うよな?」

「は?」


 マシンガントークのディーンとは正反対に、カインの機嫌は更に下降していく。ディーンは本当に何も気づいてないの?ほら、カインの周りはブリザードが吹いてるのよ!

 なんでこの二人が仲良いのか本当に謎だわ。


「でも安心して、アーシャ先輩。兄さんの隣に相応しいのは先輩だけだから!そりゃアンナ様も美人だけど……やっぱりアーシャ先輩の方がしっくりくるんだよね」

「ディ……」

「お前、僕に喧嘩売ってんの?」

「え、カイン!?何怒ってんの!?って、あぁ!!ごめん!!」


 何なの、この茶番は。

 ディーンはようやく自分の失言に気付いたようで、カインに平謝りしていた。仮にもディーンも五大貴族の一員だ。その事情は知っているはずなのに。

 まあそれでも誰もディーンを憎めないのが、彼の人柄の表れなのだろう。カインとて、今さらそんなことでディーンに怒りをぶつけることもなかった。むしろそれは私に向いているのは気のせいではないだろう。


「……別にいいよ。ディーンの馬鹿はいつものことだし」

「えー、そりゃ俺は馬鹿だけどさ、いつもってひどいじゃんか」

「本当のことだろ。……それより、さっきオルガスト様がディーンのこと探してたぞ」

「父さんが!?えぇ、何だろう。俺また何かしたっけなぁ?まあいいや。とりあえず行けば分かるかな。それじゃあ、アーシャ先輩。またね!」


 私が答える間もなく、ディーンは嵐のように走り去っていった。

 取り残される私とカイン。

 当然私たちの間に、会話が生まれるわけはなかった。通常ならば。


「……全く、あいつはどこまで単細胞なんだか」


 あまりにも不自然なディーンの追い出し方に、嫌々ながらもカインは私へ話があるのだろう。正直二人でいるくらいならすぐに私もこの場を去りたいとこだが、私の方もカインへ聞きたいことがある。

 もちろんそれはこの前の件だ。


「で、あんたは俺に聞きたいことでもあるの?」

「……それは……」

「まぁ言いたいことは分かるけどね。どうせ、この前の巫女の机にあったゴミのことでしょ。なんでエルンスト様たちが知らないのかってね」


 やはりカインもその話だったのだろうか。

 私は何を返すでもなく、ただカインの続く言葉を待ち続けた。


「……そんなの決まってるでしょ。僕が何も言ってないからだよ」

「どうして、ですか……?」

「……さぁね。それを馬鹿正直にあんたに教える義理はないよ」


 カインは何かを含めた言葉を紡ぎながら、私を馬鹿にするように視線をやった。

 なぜだろう。その視線は鋭く、私の心を突き刺す。

 カインの考えていることが何も分からなかった。


「これで聞きたいことはもうないよね?それじゃあ僕はもう行くよ。あんたとこれ以上顔を合わしてるのも嫌だからね。ただでさえ、ディーンのせいで嫌な想いをしてるっていうのに……」

「……カイン様……」

「本当に姉上が気の毒でならないよ……」


 最後の言葉だけは本当の気持ちを込めていたのが分かる。それだけ普段のカインから想像できない切ない響きを持っていたからだ。

 すぐさまカインは私から顔を背け、一刻でも早く離れたいかのように歩き出す。私はその背中を黙って見送ることしか出来なかった。







「あら、アーシャ様。紅茶が進んでいなくてよ?今日の紅茶はミレイ様お気に入りのローズヒップティーなのですから」

「もしかしてアーシャ様のお口には合わなかったのでしょうか?」

「さすがは五大貴族ともあろうお方ですわ。下級貴族が嗜むものは口に付けないのですね」

「……いえ、そんなことは……」


 嫌味の応酬が繰り広げられるこの場は、今まさにカタリナが開くお茶会の真っ最中であった。

 週一で開催されるこのお茶会に、毎回ではないが私は度々にお誘いがあり参加させられる。

 なぜよ。カタリナの考えていることが分からない。

 それに今日はそんな優雅に紅茶を美味しく頂ける気分ではないのだ。

 決してこのローズヒップティーが不味いわけではない。むしろ美味しいとは思う。まあ強いて言うなら、確かに好んで飲みたいとは思わないけど。

 そんな私に時折話しかけるカタリナに、それを面白く思ってないであろうミレイとアンリ嬢たち。この二人が私に話しかける時は必ずと言っていいほど棘がある。

 いやまあ、それが本来普通であるべきなのだけど。

 むしろそういう意味で一番おかしいのはカタリナなのだろう。


「そうですわ。ミレイ様にアンリ様、あまりアーシャ様を苛めるのはお止めになって」

「あらまあ、別に私たちはそんな意図はないですわ」

「そうですわ。ただアーシャ様が私たちに依然と心を開いてくださらないから」


 あぁ、本当にこの時間は憂鬱でたまらない。


「……まあ確かにお二人の言うことは最もですわ。アーシャ様も早く私たちをいろいろと頼ってくれてもいいのですよ?」

「そんな……私はみなさんのことを頼りにしていますわ……」

「そうでしょうか?アーシャ様には他に頼りにしている人物がいるのではなくて?」

「まさか……。そんな人は決しておりませんわ」


 まただ。何かにつけてカタリナは私の繋がりを聞こうとしている。いったい何なのか。

 カタリナなんかにギルド関係がバレでもしたらそれはもう大変なことになるだろう。このお茶会はそういう意味でも気が抜けないのだ。

 とりあえず、ひとまずは話を逸らすことが重要だ。


「それよりも、最近耳にしたことがあるのですが……あのユキ様が嫌がらせを受けているみたいです」

「ユキ様が?」

「はい……みなさんは何かご存知でしょうか?」


 それとなく探りもいれるつもりで尋ねる。


「なるほど。道理で最近エルンスト様もウィラクス様も、彼女に近いのね。あぁ、何てことなの!」

「嫌がらせだなんて言って、自分を可哀想に演出しているのですね。許せないわ!」

「けれどいったい誰がそんな幼稚な真似をなさるのかしら?まあ正直に申しますといい気味でいますけどね」

「あら、アンリさん。悪いお顔ですわよ」


 どことなく嬉しそうに話す三人の後ろからは、扇子で口元を隠して高笑いしている姿が錯覚するように見えた。

 うん、やっぱり彼女たちは悪役令嬢だわ。

 とはいえ、真偽は分からないが、少なくとも三人は黒幕ではないということか。カタリナなんかは本当に黒幕だったら絶対この場で言うはずだ。


「そういうアーシャ様は何かご存知でないのかしら?仮にもリーシャ様の妹君であられるのだから」

「いえ、私は何も知らされていなくて……」

「まあそうですのね。リーシャ様からも頼りにされていないなんて、さすがはアーシャ様だわ」


 嫌味のような言葉も慣れたものだ。笑いながら軽やかに受け流しておく。

 マララ=モルガンという人物のことを伝えるべきか迷ったものの、ここでその名を口にするのは避けた。

直感でしかないがやはりこの三人は今回の事件には関係ない気がするのだ。本来のゲームであれば彼女たちこそが黒幕のはずなのだが。

 つまり三人の代わりにマララ=モルガンという人物が現れたということ?

 やはりこの世界はゲーム通りにことを運ぼうとしているのだろうか。

 そんな考え事をしながらも、お茶会の時間は少しずつ過ぎていく。

 その間、カタリナから不躾な視線が向けられていたのはきっと気のせいなんだと思う。

 ……そう思わせて。


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