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異界の巫女  作者: ハル
ゲームスタート
49/56

少しずつ狂うストーリー

 翌日の土曜日。残るは商業学の授業だけだった。

 いつものように教室の後ろの方でナギとフィデルと三人で陣取っていた私たち。話に花を咲かせながら、ビート先生を待つだけだったのだが、扉が開いてそこに現れたのはビート先生じゃなかった。


「え、なんで……?」

「……どういうことだよ、間違えたのか?」

「……嘘でしょ……」


 現れた人物に動揺したのは私たちだけではない。教室にいるみんながズカズカと教卓の前まで歩く人物から目が離せずにいた。

 やがて彼は教卓の前に着くと、不機嫌そうに顔を歪めながら私たちを見回す。


「……残念ながらビート先生は急用があり今日は来れなくなった。代わりに今日の商業学は私セイム=グランドリアが担当する」


 わーお。


「おいおい、セイム先生ってあれだよな?学院長だっていう噂の……」

「そこ!私語は慎め!」

「はいッ……!」


 地獄耳なのか、小声で話そうとしたフィデルにすぐさま怒鳴りつける。

 いやほんと、恐ろしいわ。

 普段から私語をしてるのは何も私たちだけではない。至るところで少なからず私語が飛び交う商業学だというのに、今すでに誰も一言も発せずにいた。

 こんな緊張に包まれた授業が今まであった?政治学は毎週こんななのかしら。だとしたら男性諸君は尊敬するわ。

 そんな余計なことを考えていたのが悪かったのか、セイム先生はそのまま視線を私の方へと移す。


「……ほう。噂には聞いていたが、まさか君がここにいるとはな。アーシャ=バレリアナ」


何言ってるの、この人。こっちを見ないでくれないかしら。

 とりあえず口を開いたら怒られそうだし、かかわりたくもないので、不自然極まりないが下を向いて俯いた。

 まあそんなことセイム先生に伝わるわけもないんだけど。


「貴族の者が商業学を選択するなんて、どれだけぶりだろうな。それはもう、昔以来で今となっては珍事でもあるか。個人的に、ぜひその理由を教えてもらいたいな」


 さすがは学院長。学院の歴史を古くから知っているということなのか。

 適当に誤魔化したかったけど、セイム先生は私から視線を外さない。

 あぁ、やっぱり変なフラグが立ったってことなの……?

 だけど、もしそうなら全力でたたき折らないと。


「……私はただ純粋に商業学に興味があるだけで……深い意味なんてありません」


 まあ嘘だけど。

 とにかくセイム先生にはこれ以上興味を持たれたくない。

 

「ふむ……。それは失礼した。生徒の考えを疑いたかったわけではない。しかしそれにしても……噂に聞いていたアーシャ嬢と、ビート先生から聞いていた話は大違いの印象があるな」

「……ッ!!」


 アハハハ。嫌だわ、この人何言ってるのかしら。

 なんて現実逃避したい思いに駆られる。

 この商業学は私が学院の中で唯一素にもなれる時間。ナギとフィデルがいるし、ビート先生は私の素も受け入れてくれている。他の生徒たちだって貴族と関わりたくないのか、私のことなんて気にもしない。それをいいことにこの授業の間だけは、もう素が出るのが当たり前になっていたのは事実。

 まさかビート先生が私のことをこの人に話していたなんて。


「まあいい。生徒の守秘義務を守るのも教師の務めだ。……それでは授業を開始する」


 セイム先生の考えが全く分からない。

 商業学の授業が開始されたものの、時折セイム先生の視線は私に向けられる。しかも名指しで指名すらしてくるし。

 あぁ……もう頭の中で警鐘も鳴っている。この人は決して逆らってはいけない人物だ。

 そんな人に私の本性を見破られてしまったかもしれないのだ。

 いったい何なのよ、もう……。







 悪夢のような時間が終わった時、もはや私の精神はギリギリのようにすり減っていた。

 ナギとフィデルですら今の私の状況に声を掛けることもなく、私が一人になりたいと言うと空気を読んで先に帰ってくれた。


「学院長……もう二度と会いたくないわ……」


 セイム先生は政治学の担当。今日みたいなイレギュラーがない限りはそうそう出会うことなんてないはずなのだ。

 とりあえずあの人は私の中で要注意人物のトップリストにランクインしたのは間違いない。

 一人学院に残って落ち着いた後、私は忘れ物がないか確認しに教室へ向かった。

 時刻はもう夕方に差し掛かり、土曜日とあってか、学院に残ってる生徒はほとんどいない。

 教室にも誰もいないと高を括って扉を開けると、そこには一人の女生徒が驚いたように振り向いた。


「……誰!?」

「……貴女は……?」


 女生徒は何やら慌てたように私を睨みつける。

 まさか教室に人がいると思わなかった私も半ば混乱に陥るものの、目の前の女生徒が何者なのか警戒を抱いた。

 彼女が同じAクラスの者ならば警戒すら抱かなかったが、彼女はこのクラスの人間ではない。ましてやおそらく三学年の者ですらない。更に言えば、彼女が何かをしていたのは、ユキさんの机の前だった。全く見覚えのない人だ。


「……ちっ!」


 数秒視線が絡んだものの、彼女はなぜか舌打ちをして私を突き飛ばして教室から走り去っていく。

 いったい何なの?

 何が起こったのかはよく分からなかったが、彼女が何をしようとしていのかは何となく察しがついた。

 ユキさんの机。それにあの風属性の魔力。

 疑いたくはなかったが、ユキさんの机を調べればそこには切り刻まれたゴミクズが放り込まれていた。


「……よくもまあこんな古典的な……」


 ゲームのシナリオでは主人公であるユキさんはイジメに会う。だけど当然そんな内容は詳しくゲーム画面に出てくるわけもない。それがこんな古典的なものなんて、驚きだ。とはいえ、登校してすぐにこんな机に座りたくもないが。

 しかしさっきの女生徒はいったい誰?

 カタリナたちがこんな姑息な真似をするようにも思えないし、何より逃げて行った女生徒がまったく見知らぬ者だったことも気がかりだ。


「あんた、そこで何をしてんの?」

「……ッ!?」


 唐突に降るツンとした声。なんでこんな時に。

 失態だ。予想外の出来事に考えていた私は、こいつの接近に気付きもしなかった。


「……カイン様……」


 私を睨むようにカインは教室の扉口の前で眼光を鋭く光らせていた。


「……急に現れた悪意ある魔力を辿ってみたんだけど……まさかこんな場面に出くわすなんてね……」


 まだ少し頭が混乱している。

 カインは教室の扉口で睨むように私を見ている。そして悪意ある魔力を追ってきたと言った。

 そして私は?

 ユキさんの机の前で、ゴミクズを眺めている状況だ。我ながらなんてシュールな光景。

 しかし、何てことだ。明らかにカインの目は私を疑っている。とりあえず誤解だけは解いた方がいいかしら。


「……で?陰湿なあんたはいったいそこで何をやっているの?そこは巫女の席だったと思うけど」

「私はただ……忘れ物を取りに来て……そしたら見知らぬ女生徒がここにいたんです……」

「ふーん。それで確認したらそんなゴミがあったって?」

「……はい……」

「面白い話だね。あんたにしては上手い作り話だと思うよ」


 ああ、これは完全に信じてない目だわ。

 多分カインは私が何を言っても信じやしないんだろうけどね。


「とりあえずあんたはどっかにいきなよ。こんなとこを見つけて、そのままってわけにもいかないからね」

「あ……片付けなら私も……」

「いいよ。あんたは邪魔だから。それとも証拠隠滅でもするつもり?」

「ちがっ……!」


 馬鹿にしたような笑みを浮かべて、カインは私を嘲っていた。

 本当にカインにはとことん嫌われているようだ。

 まあそれも仕方ないし、別にいいんだけどもね。

 そのまま私はカインの圧力に耐えかねるように教室から出た。

 多分カインは王子たちにこのことを報告するだろう。そうすれば私はもう加害者の烙印を押されることになる。

 悲しいと言えば嘘にはなるだろう。

 けれどこれも未来に繋がるというならば仕方ない。

 ただ、一つ気がかりなことがあるとすれば、あの逃げた女生徒だ。

 ゲームのストーリーでは、カタリナが主人公を苛め、その責任をアーシャへと押し付ける。

 けれど現実ではカタリナは主人公へ文句を言うものの、少なくとも私が知る限りでは苛めを行うなんて発言はなかったはずだ。

 だが、今の状況は?

 見知らぬ女生徒がいて、おそらくユキさんへの苛め。そしてそこにいた私――アーシャ。

 ……これもまた、ゲームの運命の強制力だというの?


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