大切な二人
「アーシャ!遅かったじゃない!」
学園の中庭へ向かうと、すでにそこにはナギとフィデルが待っていた。
今日は二人と遊ぶ約束だ。なのにミスジーン先生の居残りで大幅に時間が削られてしまった。
「ま、一応はアーシャも貴族だもんな。しかも淑女学のミスジーン先生に目付けられてるし」
「……ホント、毎度嫌になるわ……」
「そんなに大変なの?淑女学って」
ナギからしたらその大変さは分からないのだろう。ううん、分からない方がきっと幸せだ。
それくらいにミスジーン先生の授業は堪えるからね。
「ナギも受けた方がよかったんじゃねぇ。そうすりゃそのがさつな面も少しは良くなるかもな」
「フィデルゥ!?」
「っいて!殴んなよ、おい!」
全く……フィデルも少しは素直になればいいのに。
まあ仲が良いことには変わりないけれども。
「とにかく待たせて悪かったわ。今日は城下町で買い物よね。さぁ、行きましょ」
「そうね、アーシャ。優秀な荷物持ちもいるし、今日はたんと買いましょう!」
「おいおい、荷物持ちって俺のことじゃないよな?」
「何言ってんの、あんた以外にいるわけないじゃない」
「……へいへい」
まあそれもいつものことだ。
フィデルには申し訳ないけど、甘えさせてもらおう。
それから私たちは城下町へと歩き出す。
他愛もない談笑をしながら、校門へと近づいた時、目の前にはこちらへと向かってくる人物がいた。
誰もが彼に対して道を空ける様は、さながらモーゼの十戒のようだった。
それほどまでにみんながあの男に対し、本能で恐怖や威圧感を感じているのだと思う。
「おや、奇遇ですね。こんな場所で貴女と出会うなんて」
「……ウィラクス様……」
理知的な視線を鋭くしながら、私を睨みつけるように射抜く。
しかし何でこうもこいつにはこんなに嫌われているのか。
そりゃまあ演じているアーシャは好かれるような人間でないのは確かだけれど、だからってここまで敵意剥き出しなのも珍しすぎる。ほとんどの人が私には無関心を装うというのに、こんな視線を向けるのはウィラクスとカインくらいだ。カインに関しては理由が分かるから納得できるんだけどもね。
「……アーシャ様。こんなことを口にするのは忍びないのですが、貴女は五大貴族の一員であることを自覚していますよね?」
「……それはいったい……?」
「五大貴族の一員であるのなら、付き合う相手は選んだ方がいいのではないですか?アーシャ様のことですからお優しい慈悲をもってのことだとは思いますが、周囲の目もありますからね」
そう言って、ウィラクスは視線を私の隣にいるナギとフィデルに向けた。その目は明らかに平民である二人を見下したようなもので、私の中には不快感が込み上げる。よくもそんなことを言えたものだわ。
二人も貴族であるウィラクスに逆らえるわけもなく、ムカついているはずなのに視線を下げて堪えていた。その姿が見ていられなく、気付いたら私はウィラクスへと口答えしてしまう。
「……私が誰を友人に選ぼうとウィラクス様には関係ないんじゃないですか」
「……ッ!」
私が反論するなんて思いもしなかったのか、ウィラクスは眼を丸くして驚いていた。
珍しいものを見たわ。それだけでも言った価値があるってもんかしら。
「……確かに私には関係ないですけどね。ですが、貴女の振る舞いは仕える王家への評判に繋がるのです。その意味が分からないわけじゃないですよね?」
「…………」
王子至上主義のウィラクスにしたら、それが納得できないというのか。本当にこの堅物は頭が固すぎて話にもならない。
やっぱり一発殴ってやったほうがいいのかな。
無意識に私は手をきつく握りしめていた。それに反応したのはウィラクスでなく、隣にいるナギとフィデルだった。
何よ、そのギョッとした表情は。
「申し訳ありません、ウィラクス様!私たちが勝手にアーシャ様に付き纏っているだけなんです!」
「えっ!?何言ってんの、ナギ……」
「馬鹿、お前は黙ってろ!」
突然馬鹿なことを口にするナギに私は抗議しようとしたが、なぜかフィデルからもウィラクスに聞こえない声で制止される。
何なの、二人して。二人がそこまでする必要なんてないじゃない。
「……なるほど。ならば、逆に貴女がたにも伝えますが……貴族と懇意にしたいのでしたら相手をもう少し選ばれた方がいいですよ」
「…………ッ!!」
「失礼、失言でした。……アーシャ様、くれぐれも王子の評判を落とすようなことだけはないようにお願いしまね」
馬鹿にしたような響きを持たせたその言葉は、私たちの神経を逆なでた。
あぁ、本当にこいつだけはムカつくわ。
去っていくウィラクスの後ろ姿を睨みながら私は行き場のない怒りをため込むだけだった。
「ごめんね、ナギ、フィデル」
「ばーか、お前が気にすんなよ」
「そうそう、どうせあたしらは貴族様に馬鹿にされるなんて慣れっこだし」
二人は乏しめられたというのに、笑って何でもないといってくれた。
本当は悔しいわけがないはずなのに。
「それにね、アーシャ。貴女が私たちのために怒ってくれたのが一番嬉しいのよ」
「つーか、焦ったぞ。お前、今すぐにでもウィラクス様に殴りかかろうとしてたからな」
「……だって、許せないもの。二人を馬鹿にされて……」
「あぁ、もう!アーシャったらホント可愛いわね!」
ナギが勢いよく私に抱き着いてきたのを慌てて受け止める。
その温もりが優しくて、とても暖かく思えた。
「……私、二人と親友になれて幸せものね」
「何言ってんだ。そりゃ俺たちのセリフだって」
「うんうん。アーシャの魅力が分からないやつなんて気にしなきゃいいのよ」
ありがとう、ナギ、フィデル。
二人は親友で大切だからこそ、巻き込みたくないと思ってる。
だけど、いつかは……全て打ち明けられたらいいのにな。




