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異界の巫女  作者: ハル
ゲームスタート
22/56

ウィンダリア家

 全員が円卓へ着席すると、少ししてから新たに一人の青年が入室してくる。

 白い髪を腰まで伸ばす長髪に、服は上下一体のローブを身に着けている。人よりも細い目をしており、だけど穏やかな印象を受ける。

 ゲームで何度か見たことはあったが、現実で見るのは初めてだ。

 クラウス=ウィンダリア。

 残る五大貴族の一つであり、占星術士の家系である彼の一族はこの国の中でもとても異質なものだった。そして何より、彼こそが主人公を呼び寄せた張本人なのだ。

 クラウスは齢28にしてウィンダリア家の当主を務めており、ウィンダリア家は占星術によって古来からレヴァリア王国の未来を占ってきた一族である。それはウィンダリアなくしてレヴァリア王国は小国ながらここまで存続できなかったと言っても差し支えない。

 それ故、彼らは表舞台には立たず、常に裏から様々な場面で助言をしてきた。同じ五大貴族といえど、そう簡単に目に叶う人物ではないのだ。

 ゲームでの彼の役割は、主人公を召喚した立場から全面的に彼女へのサポートに当たる存在だ。攻略対象との恋愛度を占ったり、主人公の悩みを聞いたりとプレイヤーにとっては大活躍だ。その大らかな存在故、隠し攻略キャラではないかと疑われたほどだ。人気も高かったので続編では見事攻略対象に格上げされたのだが、それはまた別の話だろう。


「皆さまお待たせいたしました」

「いえ。それでクラウス殿、我々を集めるほどの何かが起きたのでしょうか?」


 あの王子でさえ、クラウスには下手に出る。それだけでウィンダリア家の凄さも知れるというものだ。


「……はい。これは我が国の……引いてはジェーバニア大陸の危機にも繋がるものです」


 その言葉に全員が緊迫とした空気を見せる。


「先日の星読みによって、近く魔王の復活が示されました」

「何だと!?」

「魔王……!?」

「そうです。恐らくは一年以内に……いえ、もしかしたらすでに復活しているかもしれないのです」

「そんな……!」


 魔王の復活。それが意味することは王子たちにも伝わったのだろう。

 私としては魔王と言われても正直ピンと来ない。ゲームでも言葉だけで一度も現れなかったのだからなおさらだ。


「ですがまだ時間の猶予はあります。魔王が完全に復活するまでに、かの者を討伐しなければなりません」

「魔王を……討伐……」

「はい。そしてそれを出来るのは異世界より現れる巫女なのだと星が伝えたのです」

「異世界……?」


 突然そんなことを言われれば誰だって戸惑うだろう。それはここにいる者たちも例外ではないようで、その普通の感覚に私は少しだけホッとした。


「ここではない別の次元に存在する世界。そこから現れる巫女こそ、魔王を討伐出来る唯一の存在なのです。そしてそれを知ると同時に、我々は陛下の指揮のもと……巫女を召喚することに成功しました」

「……!?」


 今まで以上の衝撃がその場を走る。異世界から人を呼び寄せるなんて聞いたこともないし、そんな技をウィンダリア家が持つことすら初耳なのだ。

 それは王子も同じであり、そこに父が関わっていたことにも信じられない気持ちだった。


「現在彼女はウィンダリア家の屋敷で保護しています。しかし彼女の力はまだこの世界に慣れずに弱い。そこで一年王立学院で力を学ぶこととなりました。……そこで貴方がたへと頼みがあるのです」

「……我々にその巫女の面倒を見ろと……?」

「その通りです。彼女はウィンダリア家の養子として入学いたしますので、同じ五大貴族の貴方がたは彼女のことをサポートしてあげてもらいたいのです」


 想像以上の大きな出来事に、王子を筆頭に誰も言葉が出てこなかった。けれど答えるべきは一つだということは誰もが分かっていた。

 少しの時間を置いた後、皆は揃ってクラウスの言葉へと頷いた。


「……感謝いたします。くれぐれも、他の方々へは内密にお願いいたしますよ」


 その言葉を最後にクラウスは足早に退室していく。

 それを見送った王子たちはしばらく呆然としていたと言っていいだろう。







 そのまま小一時間ぐらいは経とうとしていた。もしかしたら僅かの時間かもしれない。

 けれどそう思ってしまうくらいには長い時間を誰もが無言で過ごしていたのだ。

 こんな重苦しい空気を前に帰りたいなどと言えるわけもなく、誰かが動き出すのを今かと待ち続けていた。


「クラウス殿の話は衝撃すぎたがいつまでもここにいるわけにもいかないな……」


 初めに動いたのはエルンスト王子だった。私は内心でガッツポーズをする。

 だけどその後に続けられた言葉に耳を疑う。


「どうだ、みんな。せっかくだから小さいがパーティーでも。みんな集まるのも久しぶりだしな」

「それはいい考えですね」

「楽しそうだわ」


 有無を言わせないよう王子の言葉に真っ先に頷いたのはウィラクスと姉だ。

 その言葉に左右から次々と賛成の言葉が行き交う。

 え?嘘でしょ?


「お前たちはどうする?」


 気付けば黙ったままなのは私とルクスだけだった。

 この時ばかりは周りのみんながどう思ってるのかいまいち分かりづらい。恐らく王子の誘いを断るなという思いと、お前みたいなのが来るなという思いがあるのだろう。主にウィラクスとカインの間で。


「私は……」


 何て言って断ればいいのだろう。こんな集まりは絶対行きたくないし、向こうとてやっぱり来て欲しくもないはずだ。

 少しの間逡巡していると、別のところから声が聞こえた。


「悪いが俺はゴメンだ」

「ルクス!?そんなこと言わないで一緒に行こうよ」


 ルクスは誰が相手だろうと基本的にその態度を崩さない。それは王子も含めたここにいる相手も例外ではない。

 そしてそんな言葉に眉を顰めるのはやはりウィラクスだ。逆に正面から庇うのはヨハンだけで、さすがの姉も王子や他の面々前には表立ってルクスを擁護することはないのだ。


「王子の誘いを断るのですか?」

「……ただの体裁だろう。お前たちだって俺みたいなやつには来て欲しくもないだろ」


 睨み合うウィラクスとルクス。この二人は仲がとても悪い。

 というかウィラクスが従うのは王子だけだし、ルクスなんて誰とも仲良くしないのだから当たり前だ。


「……分かった。ルクスがそう言うのなら仕方がないな」


 王子は特に引き止めもせずにルクスの言葉を受け入れる。多分内心はルクスの言う通りなのだろう。それくらいにルクスという存在は私以上に疎まれているのだ。

 それは何も突然貴族になったからでもなく、人を受け入れないルクスの性格のせいでもない。全ては彼が無属性たる所以だ。

 それでいてルクスに光属性が宿ったらみんな手のひらを返すのだから、それはもう人間不信になるのは当たり前だろう。そんな彼を救ってあげて欲しいと、実は私は主人公の相手はルクス推しだったりする。

 責任転嫁なのは自分でも分かってるけどね。


「アーシャ、お前は……」


 王子は次の矛先を私に向けてきた。横目からはルクスが退室しようとしているのが見えた。

 私のことも疎ましく思っているのだ。何とか理由をつけて断ろうとしたが、思わぬところから助け船が入る。


「アーシャ、貴女はルクスを追いかけてあげて」

「うん、本当はアーシャ姉様とも一緒にいたいけどルクスのことが心配だから」


 ああ、本当にヨハンは天使、いや神として崇めたいわ。後姉にも感謝ね。


「分かりました……。殿下、申し訳ございませんが私も今回は辞退させていただきます」

「……今回も、だろ」


 そうだっけ?

 王子の言葉が少し気になったが、私は一礼するとルクスの後を追って同じように退室した。

 その帰り道、私たちは一緒に帰ることとなったが、その道中会話が発生することは一度もなかった。


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