25話 TODO:ネガイカナエタマエ
最後に締まらなかった告白劇があった数日後、彰介はサッサと2人で一緒の場所に住んでしまおうと考え、決断も早く、ルビーカフェの上にある居住区域に引越す事に決めた……勿論、由里と相談した結果である。
そして引越しが完了し、数日経ったとある日。彰介は自宅のベッドで目を覚まして起き上がると、ふと浮遊感を感じて瞬きをしてみる。次に目を開けた時には、そこは何もない真っ白な世界が広がっていた。
「あー、これは……お久しぶりですね。神様、お呼びですか?」
振り返ってみると、この間見たのと全く変わりない笑顔で佇んでいる、その人……天之御中主神が手を振って、そこに佇んでいた。
「うん、久しぶりだねー。どう? 2つの世界の生活は?」
「えぇ。まぁ、色々はありましたけど、楽しくやらせてもらってます。」
「それは何よりだよー。随分と、由里ちゃんとヨロシクやってるもんねー。」
「ちょっ!?」
「ホントさー、彰介君ってウジウジ悩みすぎだよねー。そういえばさぁ、あの時は、とても良いタイミングの雨だったでしょー? あの時の覚悟の決め方は、格好良かったねー。」
「……やっぱり、あれは神様の仕業だったんですね?
っていうか、何、一から十まで、しっかり見てやがんだ、この野郎。」
「え!? そりゃ、面白いからに決まってるじゃーん。」
何も間違ってないよ、と言わんばかりに驚いたような表情を浮かべつつも、悪びれる事もなくニコニコと笑顔を浮かべながら答える神に対して、ドッと疲れが出る彰介だった。
とりあえず彰介は、神を問い詰めるのは諦めて、感謝している事については伝える事にした。
「まぁ、それはいいですけど……とりあえず異世界の方でも、だいぶ実力が付きました。それに地球の生活なんて、小さい喫茶店を構えたいっていう昔からの夢だったものが叶いましたからね。まさか、この歳で実現できるとは思ってませんでした。本当に、ありがとうございました。」
「僕だけの力じゃないでしょー。彰介君が、異世界でも頑張ってお金稼いだ結果じゃーん? そうやって、健気に頑張ってくれる姿を見せてくれるのは、こっちとしても嬉しいよー。」
御礼を伝えて頭を下げる彰介に対して、肩をポンポンと叩きながら労う神様。
2人の関係性を知れば、実際には有り得ないような組み合わせではあるが、この場面だけを見てしまうと、よくある会社の上司、部下のやり取りのように見えてしまうのは、神様が余りにもフランクな性格だからなのかもしれない。
「そういえばさー、異世界での活躍を陰ながら観……応援してたんだけどさー。」
「今、観察って言おうとしてましたよね?」
「そんな事無いよー。」
疑いの目を神様に向けてる彰介だったが、神様は特に意に介さず、手をひらひらと振りながら否定する。
「そんな事はどうでも良いとしてー。彰介君さぁ、かなりヤバかった時あったよねー。」
「そんな事は、って……あぁ、そういえばっ!? あの時は、本当にありがとうございました。あの時の奇跡みたいな力のお陰で、何とか無事に倒す事が出来ました。
そういえば、あの時に聞こえた声って、やっぱり神様の声だったんですか?」
「ううん、違うよー。」
「え?」
「神として、力を与えすぎたりすると世界が崩れるからねー。悪いとは思うんだけど、そうそう力を貸す事ができないから、見てるだけだったんだよねー。それにしてもさー、
何があったのかな?」
ビクン、と身体を震わせる彰介。
流石は主神、といった所か。彰介に向けられた、今の一瞬の殺気――いや、神気とでも言うべきか? その気に当てられてしまい、彰介は身動きが取れなくなってしまった。
大いにステータスが上がったにも係わらず、だ。
しかし、それはごく一瞬の事で、気配は直ぐに和らいだ。少し前の彰介であれば、腰を抜かして尻餅を付いていただろうが、何とか踏ん張って立ち続ける事は出来た。
「あ、ごめんねー。思いっきり神気をぶつけちゃったねー。でも、よく耐えたねー?」
「流石は神様ですね。
……それでも、立ってるのがやっとなんですけど、ね。」
「いやいや、立っていられるだけでも凄い事なんだよねー。ここまでの神気をぶつけちゃったら、下級の神でも立っていられないんじゃないかなー。」
「……マジ、ですか?」
「うん、マジ。
で、何があったのかなー?」
「いや、何があった、と言われましても……あの時は、俺は例え力尽きる事になったとしても、由里とユーリだけは絶対に守ってみせる、と思ったら、「ソノネガイ、カナエヨウ」っていう言葉が頭に響いてきて、その後、斬られた腕が元に戻って、力も湧いてきたんです。」
「ふぅーん、そっかー…………
まぁ、いいかぁー。」
神は一瞬何かを考えたのか、今まで見た事も無いような真面目な顔を見せたが、それも一瞬の事で、直ぐにニコニコした笑顔に戻っていた。
「えっ!? いいんですか?」
「いやねー、悪意の力によるものが働いたのかなー、って思ったんだけど、そうじゃないみたいだから、まぁいっかー、って思ったんだー。」
「悪意の力、ですか?」
「うん。まぁ、よくある話でさー。世界を創り出したり、秩序をもたらして安定を保つのが神の仕事だとしたらさー、悪意を糧にして僕等に対抗しようと地上で生まれるのが邪神だったりするんだよねー。
もしかしたら、そいつが関わってたら? 何て、思ったんだけどー、さっきの神気で何の気配が出なかったから、関係無かったみたいだねー。
それにしても、何なんだろうねー、その力?」
「いや、俺に言われましても……。」
「だよねー。
まぁ、そんなわけで、今は気にしなくても良いかなー、って思ったんだー。」
「まぁ、そういう事なら良いんですけどね……。」
「そうそう。
それでね、それとは別の話になるんだけどねー。実は、僕からも彰介君にお願いがあるんだー。今回は、それを伝えたくて、彰介君を呼んだんだよねー。」
「あぁ、そういう事だったんですね。でも、前置きが凄く長かったですね……。」
「あははー、まぁ僕も話し相手に飢えてるからさー。ちょっと位は付き合ってくれても良いんじゃなーい?」
「まぁ、別に嫌ではないんで良いんですけどね……それにしても、俺にお願いですか? まぁ俺自身が、神様のお陰で色々とやらせて貰ってるわけですから、俺に出来る事だったら……。」
そう言いながらも、この神様の事だから、一体どんな事をお願いされるのか? と戦々恐々としてしまう彰介だった。
「何か、失礼な事を考えてるねー。」
「あ、いや、そんな事は…………すいません。」
「うんうん、素直なのは良い事だよー。それで、お願いっていうのはね。」
「はい。」
「僕をね…………
殺してほしいんだ。」
「……え?
な、え……?
何を言ってるんですか……?」
確かに目の前の神様は言ったのだ。「自分を殺してほしい」と。
しかし彰介には、神様の言った言葉の真意が分からなかった。ここまで自分に対して、色々と目を掛けてくれていた神様の願いというのが、何でそういう事なのかを、理解できないでいた。
「何で、そんな……。」
「あー、ごめんね。「殺す」って言っても、彰介君が考えているものとは、ちょっと意味合いが違うんだよねー。」
「どういう、事ですか?」
「他の神っていうのはねー、君たちと同じように生まれ、生きて、そして死を迎えて、魂を洗い流してから、生まれ変わるんだ。まぁ、君達人間に比べれば、その周期はとても長いものだけどねー。
でも、僕はねー、他の神々と違ってさー、世の理から外れた存在なんだよねー。だから、他の神達のように死を迎える事が無いんだよねー。
……僕だけ、ずっとこのままなんだ。」
「ずっと?」
「そう、ずっと。全ての世界が生まれる前から、今まで、ずーっと。」
「…………。」
「だからね、僕だけ何も変わらずに、ずっと皆の生を見続けているんだ。もう、何度見たか忘れちゃうくらいにね。
そして、ずっと寂しかった。
皆、1つの生の初めから終わりまでを体験するのに、色々な事を考えて、一生懸命生きていくんだ。その素晴らしさが、僕にとっては、とても眩しくて、羨ましかったんだ。
だけど、その素晴らしさを、僕は、これっぽっちも知らないんだ。全知全能の神とか言われているくせにさ……。」
「神様……。」
「そして、今、現実世界と異世界を渡る事が出来る彰介君はね、僕と似たような存在になっているんだ。君も世の理から、一歩踏み外しているような状態なんだ。
そんな彰介君にしか頼めないんだ! 僕を殺して、この世の理の中に戻してほしいんだっ!!」
主神の初めての慟哭。
それ程までに独りでいる事に、寂しかったのだろう。
辛かったのだろう。
他の者達の生き方が、ずっと羨ましかったのだろう。
「あの……教えてくれませんか?
あなたを殺す事によって、あなたは消えてしまうのですか?」
「ううん。まぁ、今の僕は消えてしまうけど、他の何かとなって誕生するよ。そして、また周期が廻れば、世の理に戻った天之御中主神として戻ってくる事になるよ。」
「もう一つ、教えて下さい。
あなたが居なくなってしまったら、この現実世界や、ジュエル・ワールド、それに他の世界は、どうなってしまうんですか?」
「何も変わらないよ。他の神達が担当できるようにシステムを作り変えているから、全然問題なく、今まで通りの状態を保っていられるよ。」
主神が言うには、その「殺す」という行為はあくまで、主神自身が生まれ変わりという行為を迎えられるようにするために必要な事なのだ、という。
そして、その願いを叶える事が出来るのは、彰介を除いてしまうと、他には存在しない、という。
――それならば、答よう
彰介は決意した。
「分かりました。
俺が、あなたを次の世界に案内しましょう。」
「ありがとー。彰介君だったら、分かってくれると思ってたよー。それじゃあ、僕を殺す方法を頑張って探してねー。」
ん?
探してくれ?
「…………へ?」
「だってさー、僕が死ぬ方法知ってたら、さっさとやってたじゃーん?」
「ま、まぁ、確かに……。」
どうやら神様は、元から彰介に全てを丸投げするつもりだったようだ。
「いやー、これから大変かもしれないけど、頑張ってねー。」
「……(こ、こいつ)。」
そう言って、神様は忽然と消え、彰介は元々居た場所に戻ってきていた。
あんなに真剣に、神様の事で悩んでいたのは何とやら。憎しみで人(?)が殺せたら、と思った彰介だった。
「まったく、簡単に言ってくれるよなー。まぁ、俺にしか出来ないみたいだし、やるしかない、か。
……必ず、俺が次の世界を見せてやるさ。待ってな。」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
思ったよりも、ここまで来るのが長くなってしまいましたが、やっとタイトルの回収が終わりました。
とりあえず、これで折り返し地点になります。これからも頑張って、エタる事なく最後まで書きあげようと思いますので、見捨てずにご覧いただければと思います。m(_ _)m
次の更新も、1週間後の8月14日を予定しています。




