23話 TODO:地球での生活を考えてみる
地球に戻ってきて平日の自宅。
彰介は有給消化期間に入った為、自宅で久しぶりの休日を満喫していた。
「とりあえず、ここ2、3日は溜まってたゲームをやったりして、ダラダラと過ごしてました、と。
……ダメだ。このままでは、ニートまっしぐらの駄目人間になれる自信が揺ぎ無いものになってしまう。
かといって、あっち(ジュエル・ワールド)とこっち(地球)で二重生活やってるし、こっちでガッツリ働くのもどうかと思うしなぁ。でも給料貰わないと生活が出来ない……という事が無い、な。」
彰介の言う通り、既にジュエル・ワールドにてランクの高い魔者の討伐に成功しており、価値の高い魔石を売却する事によって、潤沢な資産を築いていた。
しかも、ジュエル・ワールドの食料品や生活品の物価は、地球と比べると十分の一程度なので、あちらの世界では更に使いどころも無く、貯まる一方であった。
「いやいや、駄目だ、駄目だ! 世間様の目は、ニートに対して冷たいんだ。それに、ご近所さんの目を気にする生活も嫌だし、何しろ待たせてる人に対して、その選択肢はないよなぁ。
……そうだ! 貯金は潤沢だし、あっちでの稼ぎも安定、とまではいかないけど十分稼げるようになっているわけだし、ここは昔からの夢だった、珈琲専門の喫茶店を出せるんじゃないか?」
彰介には夢があったのだ。
彰介はその昔、学生の頃から生活費を稼ぐ必要があり、アルバイトを色々とこなしていたのだが、その中でも特に印象に残っていたのが、珈琲を専門に取り扱う落ち着いた雰囲気の喫茶店、いわゆる純喫茶だった。
その頃から、自分もこんな店を構えて、ゆったりとした時間が過ごせればいいな、と思っていたのだ。
「よし! そうと決まれば、まずは店舗探しだな。ここら辺だと人通りがいまいちだろうから、やっぱ駅前辺りが良いかなぁー。
とりあえず、不動産屋巡りでもすっか。」
そう言うが早いか、彰介は家を飛び出して駅前の不動産屋へ向かうのだった。
~ ~ ~ ~ ~
その後、数件ほど不動産屋を巡ったり、テナント情報を見た所で、肩を落とした彰介がコーヒーを飲みながら駅前付近を歩いていた。
「……はぁ。やっぱ、駅前だと毎月の家賃が高ぇなぁ……出来れば、趣味程度の店にしたいんだよなぁ。客足とかも余り気にしたくないから、あっちで稼いでるとはいえ、維持費は出来る限り少なくしたいんだよなぁ……。」
「おい、田中じゃないか。」
「え……?」
独り言ちながら駅前辺りと黄昏ていると、後ろから呼び止められた。
ふと振り返ってみると、見知った顔がそこにあった。その見知った顔というのは、会社でお世話になっていた直属の上司であった高島部長だった。
「あれ? 高島部長じゃないですか。こんな所でどうしたんですか?」
「俺は、客先での打合せが終わって、これから会社に戻る所だよ。お前こそ、こんな所で何やってるんだ?」
「えぇ、実は……。」
彰介は資金は準備できたので、夢だった珈琲専門の喫茶店を構えたいという事。そして、出店するための貸店舗がどういうものがあるのかを下見していた事。
しかし、喫茶店一本で稼ごうとは思っていないので、出来る限り毎月の出費が抑えられるようにしたいので、家賃の安い貸店舗を探している事などを、高島部長に説明した。
「……ほぉー、その年で店を構えるとはなぁー……随分と頑張ったんだな。」
「いや、何というか……最近、色々とありまして。」
「色々?」
「あ、別にやましい事ってわけじゃないですよ!」
「んな事は分かってるよ。」
「あぁ、そういえば、いい場所を知ってるぞ。」
「え?」
「ここから2駅隣の五段田駅……まぁ、うちの会社の最寄り駅だから分かるよな。その駅の近くに、1、2階と地下の部分が商業施設一体型になってるマンションがあるの知ってるか?」
「あ、知ってます。あそこのマンション凄い人気あるみたいですね。1階にもスーパーが入ってるし、本屋とか色々と揃ってますよね。
それに、美味しいカレー屋もありますよね? 何回か行きましたよ。凄い美味しかったですよ、あそこ。」
「そうそう、そこだよ。そこさぁ、俺のじいさんから継いだ所なんだよ。そこの1階の1区画が空いてるから、そこなんてどうだ?」
「えええええぇっ!? ほっ、本当ですかっ!?
いやいや、でもでも、あそこって駅にも直結してるし、立地メチャクチャ良いじゃないですか。間違いなく家賃だって高いですよね?」
「いや、その空いている区画っていうのが、メインの道路に面した場所じゃないから、いまいち人目に付かないし、広さも10坪無い位でかなり狭いんだわ。
そんな場所なもんだから、人気が無くてなぁ。どこも入ってくれなくて、その場所がデッドスペースになってるんだよ。」
「へぇ、そうなんですか。まぁ、さっきも言った通り、私は、ひっそりとやれれば良いと思ってる位なんで、全然問題ないですけど。」
「おぉ、そうか。まぁ、実際の店舗の広さとか、周りの雰囲気とかは、実際見て貰った方が良いと思うぞ。
で、家賃は、これでどうだ?」
そう言って、高島は指を3本立てて見せる。
「月、30万ですかぁ……それだと、厳しいですね。」
「違うって。月、3万円だよ。」
「……はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
やだなぁ、高島さんったら。そんな冗談、心臓に悪いですよ。」
彰介はそう言いながら、高島に腕にしな垂れかかった。
高島は「しっしっ」と言いながら、それを払い退けた。
「何だよ、気持ち悪ぃなぁ。」
「すんません、調子に乗りました。でも……。」
「あぁ、冗談なんかじゃないよ。お前が払うのは、税金分と管理費程度で良いって言ってるんだよ。」
「それマジで言ってます? 何で、それだけで良いんですか?」
「さっきも言ったろ? デッドスペースで空けっ放しにするよりは、入ってくれている方が助かるんだ。それに、お前がやりたいのって、珈琲専門の喫茶店なんだろ?」
「えぇ、そうですけど……。」
「その代り、俺好みの珈琲を作る事と、毎朝仕事前に飲みに行くから、それはサービスしろな。」
「おぉっ!? そんなので良いんですか?」
「そうかぁ? 毎日一杯タダで飲ませるんだぞ?」
「その位は全然問題ないですよ。それに、高島さんが来る時間は朝早いっていっても、通勤ラッシュの時間から大きく外れてるわけじゃないから、この前を通る人は多いと思うんですよ。
場所は見えずらくても、珈琲豆を挽くときの香りとか、人が看板近くで店に向かって入っていくのを見れば、注目も集められますからね。こちらにもプラスの効果はあるはずだと思ってます。」
「……ふむ。相変わらず分析が早いな。」
「そうですかね?」
「あぁ、だからこそ、お前が辞めてしまうのは惜しいと思ったんじゃないか。」
「過大な評価、ありがとうございます。でもまぁ、辞めてしまったものは、しょうがないじゃないですか。
これからは、珈琲店の店主として頑張って行きますよ。」
「そうか……分かった。それじゃ、場所見に行くか?」
「あれ? 会社戻らなくても良いんですか?」
「あぁ、後は報告書を書く位だからな。今日は直帰という事にするさ。それじゃ、行こうか。」
「はい!」
~ ~ ~ ~ ~
高島に案内して貰ったのは説明にもあった通り、五段田駅に直結しているビルの1階の隅……といいつつも、裏通りに入って直ぐ辺りの場所であり、そこまで目立たない場所では無いようだ。
確かに、これならば彰介の想定通り、表通りに店がある事を示す看板を置いておけば、それなりに認識してもらえるのではないだろうか。
「――まぁ一応、裏通りに入り口があるから、直接店舗にも入れるし、裏口は商業施設側になるんだ。トイレは商業施設の方と共同になる。
ちなみに、共同施設の清掃については業者に依頼してるんだ。費用は各出店先の管理費から出るようになっているぞ。」
「はい、分かりました……おぉー、良いですねぇ。一人でやるつもりだったんで、この位の広さが丁度良いですよ。」
「そうか……所でどうするんだ? 契約するのか?」
「はい! 是非、お願いしますっ!」
「そうか。快諾してくれて何よりだが……本当に毎朝通って、一杯サービスして貰うけど大丈夫なのか?」
「その位、全然問題無いですよ。それに一応、朝早くにモーニングから始めて、遅めのランチで店は閉めようと思ってましたから、高島さんが仕事前に来るのは全然問題無いですよ。
ただ、土日の週末は、別の用事があって店を開けられないんですけど、問題ないですかね?」
「あぁ、いいぞ。会社に行く前の一服ってやつを味わいたいだけだ。しかも、周りを気にしないでいい場所になるから、こっちも願ったり叶ったりってやつだしな。
それじゃあ、契約書とかは……家に帰って、代理の不動産屋に頼まないと無いな。契約に関しては明日で良いか?」
「はい、問題ないです。この後は、機材とか見てきますよ。」
「分かった。それじゃ、明日準備が出来たら連絡する……それにしても、不思議な縁があるもんだが、これからもよろしく頼むな。」
「そうですね。まさか、こんな所でまたお世話になるとは思いませんでした。こちらこそ、よろしくお願い致します。」
そう言って二人は握手を交わし、店を出る事にした。
その後、高島はそのまま家へと帰り、彰介は、そのまま忙しなく珈琲の機材を揃えるため、業者を巡る事になった。
しかし、その足取りは、とても軽いものだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
2015/07/25
サブタイトルの話数が間違っていたので、修正しました。
25話→23話




