19話 TODO:副ギルドマスターを呆れさせてみる
「……また、えらいものを持って帰ってきたねぇ、ショースケ。」
「えぇ。まさか、こんなものを持つ奴が混ざってるなんて思ってもいませんでした。マジで死ぬ所でしたけど、何とかなりました。」
「それにしても、このランクの魔者を、あんた達2人だけで倒したっていうのかい?」
「いいえぇ、私は殆どお荷物でしたぁ。倒したのは、ご主人様お1人ですぅ。」
換金作業の為、倒した魔者から得た魔石をカウンターに並べていく。本来の依頼内容の通りであれば、ここに並べられる魔石の色は、全て白色となるはずだった。
しかし、ショースケが提示した魔石には、異質な色の物が一つだけ混じっていた。それは、鈍く輝く茶色の魔石だった。
「……ショースケ。あんた、とんでもないねぇ……。」
「まぁ、色々ありまして。」
「ふむ……いや、それにしても調査が行き届いていなかった所為で、とんだ迷惑を掛けたね。本当に、すまなかった。」
そう言うとエリナは深々と頭を下げた。
「ちょっ、頭を上げて下さい! まぁハプニングはありましたけど、俺達は生きて帰ってこれましたから。それも登録初日に受けた、エリナさんの特訓のお蔭ですよ。」
「ふふっ、嬉しいよ、そんな風に言ってくれるなんてねぇ……旦那がいなかったら、惚れてたよ。」
そう言って、エリナはショースケに向かってウィンクしてきた。
すると、隣に立っていたユーリが、「むむっ」と言いながら、ショースケの腕にぎゅうっと力強く抱き付いてきた。
(いたたたたっ! 思いっ切り抱き付いてくれてるのに、本来当たるはずのやわらかい物が固い鎧の所為で当たらないだとっ!? っていうかユーリの力って、こんなに強かったっけか?
あ、そういえば、自分のステータス見て驚いてばっかで、ユーリのステータスを見るの忘れてた。後で見てみるか……。)
「ちょっ、ユーリ痛い。」
「はっ!? すみません、ご主人様ぁ。」
ユーリは顔を真っ赤にしながら、ショースケの腕からサッと離れた。
「エリナさんも、からかうのは勘弁してくださいよー。」
「はっはっはっは。悪かったねぇ、ショースケ。モテる男は辛いねぇー。」
「だからぁ……。」
「いや、悪かった。それにしても、茶ランクの魔者を一人で倒すとはね。私の見る目も衰えたのかねぇ? あの時の実力だったら、ショースケ一人だったら緑ランク、パーティを組めば、紫ランクを狙える程度だと思っていたんだけどねぇ……。」
「いや、エリナさんの見る目は、バッチリだと思いますよ? ただ、有り得ない事が起きたというか、何というか……。」
「ん? どういう事だい?」
「あ、すいません。気にしないで下さい。」
(それにしても、エリナさんって元黒ランクって言ってたけど、どの位の強さなんだろうか? ちょっと探ってみるか……エリナさんについて、【解説】。)
【解説 Start】-----------
エリナ・シュナウザー XX歳 女 人間族
筋力:185
体力:225
敏捷:352
知覚:322
魔力:25
技能:棍術(特級)、両手剣術(特級)、体術(特級)、片手剣術(上級)、
槍術(上級)、蘇生魔法(初級)、調理(上級)、気配察知、
威圧、記憶術、鑑定眼、【若作り】
-------------【解説 End】
「ブーッ!?」
「きゃーっ!?」
「ちょっ、何だい!? 急に噴き出したりして……。」
「わわっ、すいません! エリナさん、これで拭いて下さい。」
(凄ぇな、エリナさん。これが黒ランクのステータスってやつか……いや、突っ込む所はそこじゃないな。【解説】スキルでさえ、年齢が分からないってどういう事よ!? エリナさんって神をも超える存在なのか?
それに秘密のスキルが【若作り】って……それでか? ギルド職員の噂話で聞いた年齢よりも、見た目が若く見えるってのは……60近い筈なのに、目尻にしか小皺が無いとか、おかしいだろ。)
その噂程度だが、他のギルド職員から聞いた話では、ここのギルドマスターと副ギルドマスターは同時期に就任したらしく、そのギルドマスターは人間族の男性で、もう60を超えているという事だった。ギルドマスター達よりも古参の事務員である、お爺さん職員の話を元にしているので、かなり的確な内容と思われる。
その内容から推測すると、その副ギルドマスターであるエリナも、ギルドマスターに近い年齢になるであろうという事だった。
「まったく……話を戻すけれども、今回の依頼については、討伐した魔者のランクも加味して報酬の方も上乗せしておくからね。
それとは別に、ショースケのランクも上げておこうかね。」
「え、いいんですか?」
「あぁ、副ギルドマスターの権限で何とかするさ。」
「ギルドマスターは無視しちゃっていいんですか?」
「あぁ、そのギルドマスターってのは、私の旦那なんだ。それに、30日前位に腰をやっちまってね。今は自宅療養中だから、権限は殆ど私が持ってるんだよ。」
「腰、ですか……。」
「一体、何をしたんですかぁ?」
「北にある魔の森から、高ランクの魔者が現れて、この街に迫ってきた事があったんだよ。その時、依頼を受けられそうな高ランクの冒険者達は、タイミング悪く全員出払っちまっててね、みんなが止めたっていうのに、バカ旦那が一人で飛び出していっちまったのさ。
それを聞いて私も急いで向かったんだけど、私が着いた頃には魔者は既に討伐されていたんだ。だがそこには、旦那も倒れていたんだ。」
「それって……。」
「そう。どうやら最後の一体と対峙している時に腰をやっちまったみたいでね。それでも、旦那は私と同じで元黒ランクの冒険者なんだ。何とか勝ったけど、そこで力尽きたっていう、間抜けな話さ。」
(いやいや、ぎっくり腰をやった状態で高ランクの魔者を何とか倒せるっていうのも、どうかと思うんですけど!? 最早人間離れしすぎなんじゃないの?)
「随分とアグレッシブな旦那さんですね……。」
「でもぉ、30日も経っているのに、まだ治っていないんですかぁ?」
「うーん……確かに、治りが遅いんだよねぇ。まぁ、バカ旦那も歳をとったって事なんだろうけどさ。」
「でもぉ、心配じゃないんですかぁ?」
「まぁ、ねぇ……心配ではあるけれども、あぁいう病気みたいなもんは、魔法じゃ治せないからねぇ。痛みを抑える位しかできないんだよねぇ。」
「え? 魔法で治せないんですか?」
「そうだよ。怪我や傷を治す魔法はあるけれども、病気や慢性的な症状を治療する魔法っていうのは無いんだよ。」
「そうなんですか……魔法も万能では無いんですね。」
「こればっかりは、しょうがないねぇ。とりあえず、痛みを抑えるために魔法と、薬草を塗った湿布薬を貼って凌いでいる状態だね。」
「それは大変ですね……。」
「まぁうちの旦那は、もうしばらく寝かせておくから気にしなくていいよ。それじゃ、ショースケ達の依頼達成の手続きをしようかね。」
そう言って、エリナは目の前に並べられた魔石を保管用の箱に入れ、今回の依頼についての書類を並べ、今回の依頼についての精算の話に切り替えた。
「今回は、依頼達成分が30,000オロだったんだけど……茶ランクの魔物が現れたって事と、ギルドの落ち度による迷惑料分を合わせて、10,000,000オロが依頼料になるよ。
それとは別に、白の魔石が12個で84,000オロ、茶の魔石は1個だけど……この質と量だったら、28,000,000オロになるね。魔石買い取り分と合わせると、全部で38,084,000オロになるけど……どうするんだい? 全額硬貨で用意するかい?」
「確か、ギルドに預ける事も出来るんですよね?」
「あぁ、そうだよ。」
「そしたら、30,000,000オロは預けます。残りは白金板とかで頂けますか?」
「あいよ。それじゃ、ギルドバングルに情報を流すから確認しておくれ。」
「……はい、確認しました。預り金が30,000,000オロになりました。」
「それじゃ、硬貨を用意してくるから待ってておくれ。」
「ふわあぁぁ、ご主人様ぁ、一気にお金持ちですねぇ。」
「だなー。ユーリの装備とかもっと良い物揃えるかね? 後は、服とか身の回りの物とか……かわいい下着も買ってやろうか?」
「ちょっ、ご主人様のえっちぃ!」
「はは、冗談だよ。」
ピンク色の雰囲気を醸し出しながらじゃれていると、周りに居た男同士のパーティから、「イチャイチャしやがって」とか、「何であんな奴が」とか、「リア充爆発しろ」など、殺意の籠った視線が向けられていた。
野郎共の殺意の視線!
しかし、ショースケ達には効かなかった。
そこへエリナが肩を竦めつつ、呆れた表情をしながら金貨の入った袋をカウンターに「トサッ」と置いた。
「はいはい、こんな所でイチャイチャしてんじゃないよ。そういうのは、宿に戻ってからやりなさいな。はい、これが残りの報酬額だよ。」
エリナに指摘され、顔を赤くして頬を指で掻くショースケだった。ユーリも同様に、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「んんっ、失礼しました。宿か……纏まったお金も入ったし、ナイスの宿の宿泊期間も延長してもらうか。」
「ん? ショースケ。あんたは自分の家は持たないのかい? それだけあれば、どこの家でも余裕で買えると思うけどねぇ?」
「家、ですか。」
(こっちの世界の生活だけだったら、飛びついても良いような話なんだろうけど、地球側の生活も考えなくちゃいけないしなぁ……。)
「……家は、まだ保留ですかね。」
「どうやら、何か考えがあるみたいだねぇ? まぁ必要になったら、仲介やってる所も紹介してあげるから相談しなよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「とにかく、今回はお疲れ様。帰ってきてすぐにこっちに来たみたいだから、疲れたんじゃないかい? 今日はもう帰ってゆっくりしな。」
「そうですね。宿に戻って、風呂に入ってゆっくりしようと思います。それじゃ行こっか、ユーリ。」
「はいぃ、お風呂楽しみですぅ!」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。