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「教えたいのはやまやまだけど、結果から教えてよ」


 結果など、聞きたくないけどさ。

 ようやく絞り出した言葉も、不安で語尾が震えていた。苦手なポーカーフェイスも見抜かれているだろう。

 頼むから、そんな冷たい声をリュックにかけてくれるなよ母ちゃん。


「会社はリュックを処分することに決めた。チームでは、リュックを残しておきたいって人が多いけどね、覆すのは無理かな」


 くっそ……だから結果なんて聞きたくなかった。

 部屋に食器を洗う音だけが響く。食器かごがいっぱいになったころ、俺はようやっと声を出せた。


「母さんは……その……敵、なのかな?」

「敵だと思いなさい」

「――うっは、辛いわ」

「しかたないでしょ。これからログインするときは、リアルタイムでデータが流れることになっちゃったんだから」


 ――で、ここからが重要な話なんだけど――


 そう、母が続けた。


「良い話と悪い話、どっちから聞きたい?」


 悪い話はさっき聞いたわ。


「まず良い話なんだけど、運営側にはリュックの居場所をリアルタイムで特定する術がないってこと。いまから何人か雇って人海戦術使うって話してたなー。あとはリュックが発見されたときのデータを見直して、そのとき一緒にいたプレイヤーの場所を調べるんだって」

「そのときって……俺じゃねぇか。どうしよう! さっき会っちゃった」

「いやいや! お母さんのデータからじゃなかったわ」


 なんと!?


「又聞きだけどね、昨日分の映像データ解析中、アイコンのないNPCが混ざっていて、バグ検出されたんだけど……フグ田があんたの話思い出しちゃって、これマズいんじゃねぇーって昨日は上のほう大変だったらしい。仕事早すぎだと思ったんだよねー。でも勘違いして、お母さんのデータも提出しちゃったから、夕方にはバレるだろうねー」


 フグ田って誰だよ――とか野暮は言わない。

 俺の伝えた情報で状況が悪化した――とか野暮もこの際棚に上げよう。

 上げてしまえば、嬉しい誤算が見えてくる。さっきの話を照らし合わせると、運営側はリュックが映った映像を解析した状態でしか、確認したことがないらしい。


「バレた後って、俺はどうなるの? アク禁とかになるの?」

「やろうと思えばできるけど、まぁ大丈夫。最悪チーム権限で解除するから」


 マジか! 母ちゃん普通に味方じゃないですか! くっそ心配して損した。

 警戒を解き、お詫びにとばかりにコーヒーを入れて席に着く。

 さて、そうなると気になるのは二つ目の話だ。


「あのさ、悪い話ってなんですか?」

「あー、うん……リュックを守りたいって気持ちはわかるけど、それ、なにか策はあるの?」

「いや、あんまり……」


 だよね、と寂しい笑みを向けられる。

 言わんとすることがわかった。

 会社側がリュックの処分を決めてしまった以上、このさき〈Dragon Obey Licence Online〉というゲームが存続し続ける限り、彼女は逃亡生活を余儀なくされる。しかも、運営側のプレイヤーには誰にも見つかってはいけない……。


「NPCの目って監視カメラなの?」

「そうだよ。まぁ、リアルタイムで確認しているわけじゃなくて、撮り溜めしたデータを好きな場所だけ見られるって感じかなー? 一週間分くらいは残ってると思うわ」

「リュックがNPCの目の前通ると――?」

「捕まります」


 ぐっは詰んだぜ。まず、リュックを街の外に出すことすら困難だ。いや、部屋から出すことすら――いかん。


「なに? どうしたの?」

「メール!」


『リュックが監視されるから、いますぐNPCに見つからないように部屋に戻って!』


 すぐに返信がほしいのだが、さすがに無理か。


「部屋の人形NPCって大丈夫なの?」

「あれはNPCって言うより、DOLO専用のデータベースみたいなもん。絶対大丈夫。会社の上のほうが変態じゃなかったらね」

「そればっかりは倫理観を信じるしか、ってことなのねー」


 プレイヤーが裸になるわけじゃないし、綺麗なアバターも中身はおっさんってこともあるから、覗くメリットはない。だが、論点はそこじゃなく、プライベートが覗かれているってことになる。是が非でも、そんな腐ったことをしていないでほしい。


「それより、リュックって子、いまどこにいるの?」

「えー、言っていいのー?」

「一度データ上でリュックってNPCの存在を確認したいのよねー。これは会社に対する予防線にもなるし、効果的な方法が割り出せるかもしれないの。これはリュックの存命に賛成したチームの意見だから、大丈夫。まぁ裏切られても責任はもてないけどさ」


 えー、言っていいのー?

 長々と説明していただいたが、より一層不安が増したよママ。


 まとめると、母が言いたいことはこうだ。


『プレイヤーによる視認か、プレイヤーおよびノンプレイヤーの映像データでしか確認できないリュックを、マーカーをつけることでコントロール可能の状態にする』


 たしかに、いつでも修正可能なバグという扱いになれば、強引に消す必要はなくなる。だが、現状では、プレイヤーとしての攻撃しか消去することができないのだから、リュックのためを思うのならば、教えないほうがいい気がする。

 それに『修正可能なバグ』は修正されるに決まっている。

 母を信じたい気持ちはあるが……。


 ――今日も勉強? すごいわねー

 ――夜食作ったわよー

 ――風太見て見て、これお母さんの作ったゲーム!

 ――ご飯? あらもうそんな時間?

 ――風太ご飯まだー?

 ――っざけんなよ! ドラゴンどうやって入手すんだよ!

 ――ポイポのドラゴンぶった斬ってやったわ

 ――生き返りやがった

 ――疲れた……

 ――今日も勉強? すごいわねー

 ――夜食作ったわよー

 ――風太! 父さんがゲーム買ってきたって! 早く降りて来なさーい!


「よしやめよう! 無理無理! ごめんねごめんね話せない!」

「あんたお母さん信用できないって!?」

「どの口が?」


 すると、いつもアホなことしか言わない母の口から、鋭い言が飛んできた。


「いま火山と下の街にスタッフが出張ってる。時間がないの」

「――母ちゃんさぁ……悪い話ってそれ先に言ってよ」


 リュックの漏洩原因は火山か……。っくそ、昨日はまさかこんなことになるとは……お金欲しさに誘ってマジすみませんリュックさん。


「スタッフってなに? 攻撃してくるの?」

「そうねー。耐久値無くして消滅させちゃうのが一番だっていうことになっているみたいだからね。ほら、ウイルスの特性うんぬんは、ちょろっと話したでしょ?」


 宿主のリュックが消滅すると拡散するかもしれないウイルス……まぁたしかに可能性は低そうではある。とはいえ確証のない状態でリュックを攻撃するなど、早計もいいところだ。

 そもそも映像でしか確認できていないリュックを、なぜウイルスの方向で進めるんだよ。本当に自我が目覚めたってこともあるんじゃないのか? 人工頭脳やら電子生命体って夢の第一歩がリュックになるかもしれないんだぞ。


 だが、リュックのことで出る損害の額が、車が買える買えないレベルじゃないと、さすがに理解できる。

 ガキじゃどうやったって……か。


「ウイルスがどんなふうに感染するかわかんないから、とりあえずリュックの居場所と特定して、そのあとプレイヤーで攻撃する予定。あわよくば確保しておく」

「だよそれ。ヤクザじゃん」

「そうねー。みーんな反対。でも、決定事項には逆らえないのよねー」


 ん? ちょっと待てよ。


「感染する可能性があるって、それどうするの?」


 これはたぶん、聞かなきゃ良かった質問だ。

 聞かなければ、もうすこしだけ希望があった。


「メンテナンス時間を拡大して、その時間中にスタッフがログインして……って流れかな」


 目眩のせいで、視界が白黒に点滅する。

 俺のアカウントでログインは可能なのか? メンテっていつから?

 ――俺には、なにができるんだ?


「だから、それより先にリュックのデータを支配下に置いて、バグの元を特定する。そうすれば横暴な奴らからリュックを守れる」

「じゃあ、俺は、その間、なにができるんだよ」


 守るだなんだと決めたって、意味なんてねぇじゃねぇか。

 下唇が痛い。そういえば、リュックに痛覚はあるのだろうか。

あるとすれば、誰かに攻撃されたら、どれほどの痛みを感じるのだろうか。

 彼女を、俺は何から守る気だったのか。


 疑問ばかりに追われている。

 悪意に追われているのはリュックだというのに。


「リュックの位置情報を教えてくれれば、あとはお母さんたちが」

「俺もログインさせてくれ!」

「理由もなしじゃ無理ねー。うちの会社くるの? 子どもはお断りだけどね」

「ガキだからってなにもできないわけじゃない!」

「なにもできないからガキって言うのよ」

「俺にしかできないことがあるはずだ!」

「あんたにしかできないこと見つけて、主人公にでもなる気?」

「リュックを助けたいだけだ!」

「じゃあべつに、あんたにしかできないこと! とかいらなくない?」

「それは! ついだよ!」

「つい? ポロっと本音がこぼれただけでしょ? 風太がリュックを救えないからガキみたいに癇癪起こしただけでしょ。あ、みたい、じゃなくてガキか。いまのあんたにはなにもできないでしょー」

「できる!」

「なにが?」

「もう勘弁して!!」


 論破されました。

 机に突っ伏し号泣する高校三年生……。虚しすぎる……。

 そんな俺に追い打ちをかけるように、母は指先でリズムを奏でながら聞いてきた。


「リュックの居場所は?」

「それっ、はっ、いえっ、ないっ」


 最後の矜持だったのだが、クスクスと笑って席を立つ気配を感じ、顔を上げる。


「その言葉が聞きたかった!!」


 どの言葉が聞きたかったのか俺にはわからなかったが、『その』という言葉を引き出すまでに俺のライフはもうゼロなんだけど。

 鼻水をすすりながら、様子を伺う。


「言えないならしかたないわね! 風太、明日のメンテナンス時、リュックのところまで案内しなさい!」



 ――あ、あ、ああああああああああああああ!!!

 やるぅ! 母ちゃんやるぅ!!


 俺はこの日、母を心の底から尊敬した。




前回の後書き続きになるのですが、引越しにともない陸の孤島に行ってきます。続きはかけますがupできなくなります……。

エターナルするつもりはないのですが、次の更新がものすごく遅くなることを、いまここで……。もう完結している予定だったのに……申し訳ありません!


ただ、次の更新するときは何話かまとめて掲載すると思うので、完結まで書いているはずです。

この作品の続きが気になっているという天使のような方には、本当に申し訳ありません! これを読んでお気に入りを解除される方、ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました!


もう一度書きますが、次上げるときには何話かまとめてドドーンと掲載させていただきます! お金、稼いできます……。

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