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「クロカゼ伍長は台に立ってください」
俺は素直に指示に従う。
おお、ここに立つとピリっとした空気だな……。
母親の存在さえ無視してしまえば、なんと重厚な造りなのだろうか。
「クロカゼ伍長。あなたは7月30日水曜日の午前11時ごろ、覇王ダークディステニーを殺害したことをパーマイヤーに目撃されています。認めますか?」
「えぇーっと……」
母のほうを見ると、ゆっくり頷く、露出狂のイケメンがいた。
「はい」
「それは良かった。では、証拠の映像をここに」
裁判長の脇に座っていた女性裁判官が立ち上がって、俺の目の前に、なんだろう、クリスタルを置いた。
電子音とともに、目の前にホログラム映像が映し出される。
何人かを盾で吹き飛ばしている俺の姿だった。すげぇでけぇな俺。ちょっと感動したわ。あ、盾が壊れて……倒れ込んでいるハダニーさんを吹き飛ばして……いやー、申し訳ない。
「悪質なことに、このあと、覇王ダークディステニーの装備を持ち去っているのです!」
女性裁判官は高らかに叫び、周囲のNPCの共感を得る。
どうやら、冒頭陳述などと気の利いたシステムは存在せず、すでに裁判員の同情を誘うワードを告げていかなければいけないようだ。
「異議ありっ!!」
格好よく言い放つ母親。すげぇ言いたいわそのセリフ!
「いまの映像をもう一度再生お願いします。いいですか、はいそこストップ!! この場面、皆さんはどう思いますか?」
俺が盾でみんなをなぎ倒す光景が映し出されている。……傍から見ればただの通り魔にしか見えないが、それを母親はどう持っていくのか。
「まず盾が当たっていないことは見て分かる通りですよね? ですが、周囲のプレイヤーは倒れています。このとこから考えるに、彼は、いえ彼らは戦うにあたってふざけていたにすぎません」
「んん!?」
「フィールドボス相手にふざけるですと?」
「えぇふざけます。ふざけることで緊張感をなくして、リラックスしようとしているのです!」
裁判員のNPCからは「おお!」と声が上がる。
わけがわからないよ!
俺と唯一考え方が似ているのは、女性裁判官だった。
「つまりあなたはこう言いたいのですか? 覇王ダークディステニーは、ふざけた延長で殺されたと……」
「ノー! あたしが言いたいのは、あくまで彼が誰よりも冷静だったという話です。映像を再開してください。この影を見てもらうとわかる通り、彼らの上空には、おそらくフィールドボスがいますよね? はい、ここで停めて」
たしかに、俺がハダニーをキルして5秒も経たないうちに、フィールドボスのスリープタートルは倒れ込んでしまっていたが。
「こんなギリギリの状況にも関わらず、クロカゼ伍長にはふざけられる余裕があったのです。そして、その余裕から、周囲をリラックスさせることに成功した」
「しかし――」
「話はまだ終わっていません。彼はその後、多くのプレイヤーに囲まれ、褒められています。再生してください」
映像が再開されると、地面に倒れた俺が、ケントに引き起こしてもらっていて、なおかつほかのプレイヤーも笑顔で向かい入れられていた。
「映像停めてください。つまり、彼の行動は覇王ダークディステニー以外には、褒められるべき行動だったということになります」
ここまで言い切った母親は、俺に手の甲を向けてピースしていた。
褒めるべきか、視線を逸らすべきか。本当になんでそんな格好なの?
「で、ですが論点にすべきは、クロカゼ伍長に覇王ダークディステニーが殺された件であって、彼の行動の意図は――」
「その点に関してはもう答えは出ているじゃないですか。覇王ダークディステニーはふざけすぎたのですよ」
どうでもいいけどハダニー連呼されすぎじゃない?
なんか俺、勇者みたいな気分になってきたんだけど。
「いいですか、さきほどの映像を思い出してください。覇王ダークディステニーが倒れていた位置、そこから立ち上がって逃げるためには軽く見積もっても10秒はかかりますよね? ということは、そのままなにもされなくても、フィールドボスに押しつぶされていた可能性があります。むしろ、クロカゼ伍長が攻撃したことで倒れていた位置が移動して、彼のアイテムが無事だった――という見方をすることができます」
裁判員のNPCたちが、顔を見合わせてザワザワと話し合いを始める。
「し、し、しかし! いいですか! なにも、わざわざ殺さなくても、移動させることはできる――」
「いいえ、覇王ダークディステニーはまともな防具はつけていません。フィールドボスと戦うのに軽装で挑み、倒れてふざけたまま。彼はいまだプレイヤーとして未熟だと言えるでしょう!」
それに加えて! と母親は強い口調で話を続ける。
「そもそも、クロカゼ伍長は初めてまだ4日目の出来事ですよ? 弟子を取ったあとの〈手加減〉のスキルをもっているわけないじゃないですか。つまり、彼にはその攻撃力で吹き飛ばすしかなかった。実際、映像を見る限り、覇王ダークディステニーがキルされた場所は、フィールドボスが落ちてきても問題ない場所であることがわかります。〈手加減〉がない状態で、覇王ダークディステニーを助けるためには、それしかなかったんです!!」
ニヤニヤ笑う母親は大きく息を吸って、決め台詞だった。
「弁護側は、クロカゼ伍長の無罪を主張します」
その後は被告人質問も反対尋問もなく、そのまま裁判は終了となった。
母と一緒に法廷から出ると、丸められた用紙を、和服の女性NPCに渡される。
これはまさか――
『勝訴』
と書かれていた。
「いやー、終わった終わったー」
「いや、あの、聞きたいことがいろいろあるんだけど」
「んじゃ、部屋移そー。お母さん、この格好スベってたみたいだし」
みたいじゃねぇよ。
「お疲れお母さんー。カッコイイ良かったねー!」
「母さん弁護士みたいだったー! すげぇー!」
なに? お前らの目玉腐ってるの?
そのビニールの服、ゲームだから大丈夫ってレベルじゃないんですけど。覇王ダークディステニーのほうがよっぽど友だちにしたいんですけど。
「んじゃーアパート戻ろうよー」
「えー、あんたまだアパートなのー?」
姉のニヤニヤ顔は、たぶん忘れられない。
「アパートに服置いてあるから、とりあえずそっち行こー火燐ちゃん!」
母の機転に救われ、〈Dragon Obey Licence Online〉のCMで流れていたような豪邸は水に済んだ。とはいえ姉が手に入れているものを、母が入手していないとは思えない。なぜアパートに向かっているのだろうか、そう考えていたが、その理由はすぐにわかった。
アパートの一室を開けたとき目に入ったのは、大量の服だ。
「うっわ」
「あぁ、お母さんねー、現実じゃ我慢してるからね……」
「え――」
姉の言葉にドキッとする。そうだな、俺たちの母親になる前は、おしゃれに気を使って友だちや恋人と出かけたり
「宝塚の大ファンなの。過激な衣装を着たいけど、現実じゃ無理でしょ? スーパーだって行けやしない。だから」
「あ、それ続く? ごめんねごめんね、オチかと思った」
まぁゲームだから、そういうのも醍醐味なのだろうが、ゲームだからって素っ頓狂な格好をしていいとは思えない。
出てきた母親の白いタキシード姿を見て、なんというか、一緒にいたくない。
だが、その白いタキシードを見て思い出したことがある。
俺はほかドアから自室に入って、真っ白の天使ちゃんを家族に見せつける。
「うぎゅ?」
「なにそれかーわーいーいー!!」
「だしょー!? 生まれて二日目! めっちゃくちゃ可愛いんだよねー!」
地面に下ろした天使ちゃんは、ヨタヨタと家族のほうへ歩いて、姉に抱き上げられる。
母親も加わって、女性陣二人で和気あいあいと天使ちゃんを弄りまわす。
「うっはー! 可愛いー! お母さんコイツなにー?」
「んー。爪が黒いわねー。なんだろー」
「雪緒のペットはどうだったの?」
「牛だったから、農場に突っ込んだ」
「家族でドラゴン引いたのいるの?」
「ドラゴンなんか見たことねぇー!」
やっぱりまだレア度MAXらしい。
ヒイラギくんの竜之進を餌に、リュックに関しての取引材料にできないだろうか。
「あ! この子! 珍しー!」
「ん? アスプロがなにかわかったの?」
「うん、アスプロはレアだよレア! 運いいねぇ風太」
なんなんだよその、良い話と悪い話どっちから聞きたい的なお前らの会話は……。
「まず、アスプロってなんなのかね?」
「ギリシャ語で「白」って意味だよ。勉強不足だねー」
「そうじゃなくてだね、なぜ俺の天使ちゃんの名付け親になっているのかって話ですよ!」
「まさにそれ! ライセンス〈名付け親〉ゲットです!」
「なにそれ、ねぇ、なにそれ!?」
「それより風太、アスプロは〈亜種〉だよ〈亜種〉!」
「それより!?」
「アスプロは、ムスタングの亜種! すっごいレアだよー弱いけど!」
……いや、本当にさ、なにがしたいの?
「弱いってなにさ?」
「ムスタングって、要は移動用モンスターだから、戦闘向きじゃないんだよねー」
「じゃあ亜種ってなに?」
「色違いってこと。ポケ○ンでもあるでしょ。まぁこっちだと多少ステータスが向上してるけど、ムスタングじゃ」
ねぇ? と聞かれてもさ、答えられませんよ。
「まぁ、雑魚モンスターだけあって成長も早いから、早期に前線投入できるよ! 移動モンスターは楽できるからいいよねー。いやー、運がいい!」
雑魚モンスターとまで言いますか……。
しかも成長早いってことは、この天使の姿はあと少ししか見れないってことかね……。
「ステータス上げたいなら、お母さん預かるよ?」
「え、あー……いやー……」
「あんたじゃスキル覚えさせられないでしょ? 任せなさいって! 明日か明後日にはいい感じに仕上げてあげるわよー」
「いい感じって?」
「ここから〈セントラルライセンス〉くらいなら15分くらい?」
ほぉ? 魅力的な提案じゃないか。
街と街とでは、背後に備えられているどこでもドアのおかげ、それほど優位性は見えてこないが、この前の火山でかなり懲りてしまった。
もし次、どこかの、たとえばダンジョンとかでリュックが置き去りにされたとき、「足」はあったほうがいい。
「んー、わかった。とりあえず預けておきます。でも大切にしてね! 可愛いんだから!」
「わかってるわよー。でも〈亜種〉ってすごいねー。本当に運がいいよ!」
でも、雑魚なんでしょ?
「珍しいんだってー。凄いねアスプロー」
「なぁ!」
返事しちゃダメ!
くっそー! 俺だっていろいろ考えてたんだよ? オリバとか桃太郎侍とか……。
……まぁ、響きがいいのは認める。
あ、そういえば!
アスプロの腹をわしゃわしゃして遊ぶ母に話しかける。
「なにー?」
「あのさ、火の鳥っているの?」
「火の鳥ってのはいないけど、朱雀か、鳳凰か。まぁ、いるけど、倒したいならあと一ヶ月は頑張りなさいよ」
「え? どこで会えるの?」
「すぐそこの火山。火山に入れないときにフィールドボスにまで育っちゃうからね、倒さなきゃいけなくなるんだけど、まぁどっちにしろ強いから」
つ、つよいの?
「えぇっと、アスプロ亜種と、育成可能のその、どっちかって、どっちがレア?」
「レア度は亜種だけど、欲しいのは鳳凰だね。絶対! 耐久値無限だもん実質的に」
……なんというか、思ったことがある。
足の早いモンスターを乗りこなし、ベテランハンターあつかいされる筋肉冒険者クロカゼ。
かたや、ゲームで唯一と思われる育成可能ドラゴンと、それには劣るがチート級の反則設定を持つ火の鳥のなにかをペットにし、なおかつゲームで唯一の人間リュックを守る〈亜人〉コンビ。
俺たぶん主人公になれねぇな。
龍刀さん! やっとアスプロ出せましたよ!
ずっとむかしに名前もらったのに、ながながとかかってしまいました
明日は明日の風が吹くさん! やっと手加減モードの曲解が書けました!
当初考えていた話とはだいぶ変わってしまいましたが……。
お二人とも、まだ読んで頂けているといいのですが……
それはそうと、ようやっと全キャラクターを出すことに成功しました!
まさかアスプロが最後になるとは思っていなかったんですが……
ここまで来れたのも、お気に入りに登録してくださっている方、評価を付けてくださっている方、感想をいただけた方、読んでくださる方のおかげです!
完結に向けてスパート入れて、いけたらいいな!




