↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/45

31

「クロカゼ伍長は台に立ってください」


 俺は素直に指示に従う。

 おお、ここに立つとピリっとした空気だな……。

 母親の存在さえ無視してしまえば、なんと重厚な造りなのだろうか。


「クロカゼ伍長。あなたは7月30日水曜日の午前11時ごろ、覇王ダークディステニーを殺害したことをパーマイヤーに目撃されています。認めますか?」

「えぇーっと……」


 母のほうを見ると、ゆっくり頷く、露出狂のイケメンがいた。


「はい」

「それは良かった。では、証拠の映像をここに」


 裁判長の脇に座っていた女性裁判官が立ち上がって、俺の目の前に、なんだろう、クリスタルを置いた。

 電子音とともに、目の前にホログラム映像が映し出される。


 何人かを盾で吹き飛ばしている俺の姿だった。すげぇでけぇな俺。ちょっと感動したわ。あ、盾が壊れて……倒れ込んでいるハダニーさんを吹き飛ばして……いやー、申し訳ない。


「悪質なことに、このあと、覇王ダークディステニーの装備を持ち去っているのです!」


 女性裁判官は高らかに叫び、周囲のNPCの共感を得る。

どうやら、冒頭陳述などと気の利いたシステムは存在せず、すでに裁判員の同情を誘うワードを告げていかなければいけないようだ。


「異議ありっ!!」


 格好よく言い放つ母親。すげぇ言いたいわそのセリフ!


「いまの映像をもう一度再生お願いします。いいですか、はいそこストップ!! この場面、皆さんはどう思いますか?」


 俺が盾でみんなをなぎ倒す光景が映し出されている。……傍から見ればただの通り魔にしか見えないが、それを母親はどう持っていくのか。


「まず盾が当たっていないことは見て分かる通りですよね? ですが、周囲のプレイヤーは倒れています。このとこから考えるに、彼は、いえ彼らは戦うにあたってふざけていたにすぎません」

「んん!?」

「フィールドボス相手にふざけるですと?」

「えぇふざけます。ふざけることで緊張感をなくして、リラックスしようとしているのです!」


 裁判員のNPCからは「おお!」と声が上がる。

 わけがわからないよ!

 俺と唯一考え方が似ているのは、女性裁判官だった。


「つまりあなたはこう言いたいのですか? 覇王ダークディステニーは、ふざけた延長で殺されたと……」

「ノー! あたしが言いたいのは、あくまで彼が誰よりも冷静だったという話です。映像を再開してください。この影を見てもらうとわかる通り、彼らの上空には、おそらくフィールドボスがいますよね? はい、ここで停めて」


 たしかに、俺がハダニーをキルして5秒も経たないうちに、フィールドボスのスリープタートルは倒れ込んでしまっていたが。


「こんなギリギリの状況にも関わらず、クロカゼ伍長にはふざけられる余裕があったのです。そして、その余裕から、周囲をリラックスさせることに成功した」

「しかし――」

「話はまだ終わっていません。彼はその後、多くのプレイヤーに囲まれ、褒められています。再生してください」


 映像が再開されると、地面に倒れた俺が、ケントに引き起こしてもらっていて、なおかつほかのプレイヤーも笑顔で向かい入れられていた。


「映像停めてください。つまり、彼の行動は覇王ダークディステニー以外には、褒められるべき行動だったということになります」


 ここまで言い切った母親は、俺に手の甲を向けてピースしていた。

 褒めるべきか、視線を逸らすべきか。本当になんでそんな格好なの?


「で、ですが論点にすべきは、クロカゼ伍長に覇王ダークディステニーが殺された件であって、彼の行動の意図は――」

「その点に関してはもう答えは出ているじゃないですか。覇王ダークディステニーはふざけすぎたのですよ」


 どうでもいいけどハダニー連呼されすぎじゃない?

 なんか俺、勇者みたいな気分になってきたんだけど。


「いいですか、さきほどの映像を思い出してください。覇王ダークディステニーが倒れていた位置、そこから立ち上がって逃げるためには軽く見積もっても10秒はかかりますよね? ということは、そのままなにもされなくても、フィールドボスに押しつぶされていた可能性があります。むしろ、クロカゼ伍長が攻撃したことで倒れていた位置が移動して、彼のアイテムが無事だった――という見方をすることができます」


 裁判員のNPCたちが、顔を見合わせてザワザワと話し合いを始める。


「し、し、しかし! いいですか! なにも、わざわざ殺さなくても、移動させることはできる――」

「いいえ、覇王ダークディステニーはまともな防具はつけていません。フィールドボスと戦うのに軽装で挑み、倒れてふざけたまま。彼はいまだプレイヤーとして未熟だと言えるでしょう!」


 それに加えて! と母親は強い口調で話を続ける。


「そもそも、クロカゼ伍長は初めてまだ4日目の出来事ですよ? 弟子を取ったあとの〈手加減〉のスキルをもっているわけないじゃないですか。つまり、彼にはその攻撃力で吹き飛ばすしかなかった。実際、映像を見る限り、覇王ダークディステニーがキルされた場所は、フィールドボスが落ちてきても問題ない場所であることがわかります。〈手加減〉がない状態で、覇王ダークディステニーを助けるためには、それしかなかったんです!!」


 ニヤニヤ笑う母親は大きく息を吸って、決め台詞だった。


「弁護側は、クロカゼ伍長の無罪を主張します」


 その後は被告人質問も反対尋問もなく、そのまま裁判は終了となった。

 母と一緒に法廷から出ると、丸められた用紙を、和服の女性NPCに渡される。

 これはまさか――


『勝訴』


 と書かれていた。


「いやー、終わった終わったー」

「いや、あの、聞きたいことがいろいろあるんだけど」

「んじゃ、部屋移そー。お母さん、この格好スベってたみたいだし」


 みたいじゃねぇよ。


「お疲れお母さんー。カッコイイ良かったねー!」

「母さん弁護士みたいだったー! すげぇー!」


 なに? お前らの目玉腐ってるの?

 そのビニールの服、ゲームだから大丈夫ってレベルじゃないんですけど。覇王ダークディステニーのほうがよっぽど友だちにしたいんですけど。


「んじゃーアパート戻ろうよー」

「えー、あんたまだアパートなのー?」


 姉のニヤニヤ顔は、たぶん忘れられない。


「アパートに服置いてあるから、とりあえずそっち行こー火燐ちゃん!」


 母の機転に救われ、〈Dragon Obey Licence Online〉のCMで流れていたような豪邸は水に済んだ。とはいえ姉が手に入れているものを、母が入手していないとは思えない。なぜアパートに向かっているのだろうか、そう考えていたが、その理由はすぐにわかった。


 アパートの一室を開けたとき目に入ったのは、大量の服だ。


「うっわ」

「あぁ、お母さんねー、現実じゃ我慢してるからね……」

「え――」


 姉の言葉にドキッとする。そうだな、俺たちの母親になる前は、おしゃれに気を使って友だちや恋人と出かけたり


「宝塚の大ファンなの。過激な衣装を着たいけど、現実じゃ無理でしょ? スーパーだって行けやしない。だから」

「あ、それ続く? ごめんねごめんね、オチかと思った」


 まぁゲームだから、そういうのも醍醐味なのだろうが、ゲームだからって素っ頓狂な格好をしていいとは思えない。

 出てきた母親の白いタキシード姿を見て、なんというか、一緒にいたくない。

 だが、その白いタキシードを見て思い出したことがある。

 俺はほかドアから自室に入って、真っ白の天使ちゃんを家族に見せつける。


「うぎゅ?」

「なにそれかーわーいーいー!!」

「だしょー!? 生まれて二日目! めっちゃくちゃ可愛いんだよねー!」


 地面に下ろした天使ちゃんは、ヨタヨタと家族のほうへ歩いて、姉に抱き上げられる。

 母親も加わって、女性陣二人で和気あいあいと天使ちゃんを弄りまわす。


「うっはー! 可愛いー! お母さんコイツなにー?」

「んー。爪が黒いわねー。なんだろー」

「雪緒のペットはどうだったの?」

「牛だったから、農場に突っ込んだ」

「家族でドラゴン引いたのいるの?」

「ドラゴンなんか見たことねぇー!」


 やっぱりまだレア度MAXらしい。

 ヒイラギくんの竜之進を餌に、リュックに関しての取引材料にできないだろうか。


「あ! この子! 珍しー!」

「ん? アスプロがなにかわかったの?」

「うん、アスプロはレアだよレア! 運いいねぇ風太」


 なんなんだよその、良い話と悪い話どっちから聞きたい的なお前らの会話は……。


「まず、アスプロってなんなのかね?」

「ギリシャ語で「白」って意味だよ。勉強不足だねー」

「そうじゃなくてだね、なぜ俺の天使ちゃんの名付け親になっているのかって話ですよ!」

「まさにそれ! ライセンス〈名付け親〉ゲットです!」

「なにそれ、ねぇ、なにそれ!?」

「それより風太、アスプロは〈亜種〉だよ〈亜種〉!」

「それより!?」

「アスプロは、ムスタングの亜種! すっごいレアだよー弱いけど!」


 ……いや、本当にさ、なにがしたいの?


「弱いってなにさ?」

「ムスタングって、要は移動用モンスターだから、戦闘向きじゃないんだよねー」

「じゃあ亜種ってなに?」

「色違いってこと。ポケ○ンでもあるでしょ。まぁこっちだと多少ステータスが向上してるけど、ムスタングじゃ」


 ねぇ? と聞かれてもさ、答えられませんよ。


「まぁ、雑魚モンスターだけあって成長も早いから、早期に前線投入できるよ! 移動モンスターは楽できるからいいよねー。いやー、運がいい!」


 雑魚モンスターとまで言いますか……。

 しかも成長早いってことは、この天使の姿はあと少ししか見れないってことかね……。


「ステータス上げたいなら、お母さん預かるよ?」

「え、あー……いやー……」

「あんたじゃスキル覚えさせられないでしょ? 任せなさいって! 明日か明後日にはいい感じに仕上げてあげるわよー」

「いい感じって?」

「ここから〈セントラルライセンス〉くらいなら15分くらい?」


 ほぉ? 魅力的な提案じゃないか。

 街と街とでは、背後に備えられているどこでもドアのおかげ、それほど優位性は見えてこないが、この前の火山でかなり懲りてしまった。

 もし次、どこかの、たとえばダンジョンとかでリュックが置き去りにされたとき、「足」はあったほうがいい。


「んー、わかった。とりあえず預けておきます。でも大切にしてね! 可愛いんだから!」

「わかってるわよー。でも〈亜種〉ってすごいねー。本当に運がいいよ!」


 でも、雑魚なんでしょ?


「珍しいんだってー。凄いねアスプロー」

「なぁ!」


 返事しちゃダメ!

 くっそー! 俺だっていろいろ考えてたんだよ? オリバとか桃太郎侍とか……。

 ……まぁ、響きがいいのは認める。

 あ、そういえば! 

 アスプロの腹をわしゃわしゃして遊ぶ母に話しかける。


「なにー?」

「あのさ、火の鳥っているの?」

「火の鳥ってのはいないけど、朱雀か、鳳凰か。まぁ、いるけど、倒したいならあと一ヶ月は頑張りなさいよ」

「え? どこで会えるの?」

「すぐそこの火山。火山に入れないときにフィールドボスにまで育っちゃうからね、倒さなきゃいけなくなるんだけど、まぁどっちにしろ強いから」


 つ、つよいの?


「えぇっと、アスプロ亜種と、育成可能のその、どっちかって、どっちがレア?」

「レア度は亜種だけど、欲しいのは鳳凰だね。絶対! 耐久値無限だもん実質的に」


 ……なんというか、思ったことがある。

 足の早いモンスターを乗りこなし、ベテランハンターあつかいされる筋肉冒険者クロカゼ。


 かたや、ゲームで唯一と思われる育成可能ドラゴンと、それには劣るがチート級の反則設定を持つ火の鳥のなにかをペットにし、なおかつゲームで唯一の人間リュックを守る〈亜人〉コンビ。


 俺たぶん主人公になれねぇな。



龍刀さん! やっとアスプロ出せましたよ!

ずっとむかしに名前もらったのに、ながながとかかってしまいました

明日は明日の風が吹くさん! やっと手加減モードの曲解が書けました!

当初考えていた話とはだいぶ変わってしまいましたが……。

お二人とも、まだ読んで頂けているといいのですが……


それはそうと、ようやっと全キャラクターを出すことに成功しました!

まさかアスプロが最後になるとは思っていなかったんですが……


ここまで来れたのも、お気に入りに登録してくださっている方、評価を付けてくださっている方、感想をいただけた方、読んでくださる方のおかげです!

完結に向けてスパート入れて、いけたらいいな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。