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 高価な鉱石のみを見繕い、三人の道具袋に詰めまくる。道具袋は伸縮性こそアイテム随一だが、耐久値は存在する。街まで保てばいいが……。

 母に返信するメールの文面を考えていると、リュックはひょんなことを言い出した。


「そういえば、なんでヒイラギさんとクーさんは無事だったんですか?」

「んん?」


 クーは大きく首を傾げる。ヒイラギくんもだ。

 まぁ、二人はリュックが見ている風景を知らない。

 このことも説明しなきゃいけないんだろうな、そう考えると気が滅入る。おそらく、リュックが置かれている状況を理解すれば、二人は少なからずショックを受けるだろう。


「イグアナにキルされちゃって、そのあとは部屋に戻っちゃってさ。大変だったんだよ! ギルドで報酬貰ったはいいけど、少なくてさ。しかたないからNPCの店でヒイラギ用に剣と盾買ってー」

「そのとき、お金が少し足りなくて……。〈交渉〉ってスキルで助けてくれたのがメリーちゃんだったんですよ!」

「へぇー。グローブは?」


 買えませんでしたー、と頭を掻くヒイラギくん。耳がピコピコしていて非常に可愛らしい。

 だが、質問の意図が伝わっていなかったらしい。

 俺が聞きたいのは、なぜ俺がこの洞窟に忘れていってしまったグローブを、クーが装備しているのか、ということだ。


「ボロボロだけど! 案外使えそうだねー」

「いや、返せよ」

「でもリュックが無事で良かったー。よく生き残ったよね!」

「あぁ、確かに!」


 俺はヤツらトカゲどもに何度やられかけたかわからない。実際、メリーさんが来なければ、確実にやられていた。その揺るぎない自信があったから、見合う対価として宝石箱を渡したわけだ。まぁ、開かなかったというのも理由の一つだが。

 俺ですらギリギリの状態だったにも関わらず、よく彼女は無傷で済んだものだ。


「あの子たち、私のこと見向きもしないので、大丈夫だったんですよー」


 なんと?

 そこ言葉に俺たちは固まってしまった。


「ヒイラギさんとクーさんが、光になってファーってなっちゃったあと、私もそうなるのかなーって思ってたら、そのままあの子たちも消えちゃって……イグアナ、でしたっけ?」


 キョトンと首をかしげるリュックを見て、すっと気が抜ける。

 なんだよ、くたびれ儲けじゃないか!

 リュックの見ている世界は理解したつもりだったが、彼女を見る〈Dragon Obey Licence Online〉は把握しきれていなかった。

 失くした装備を思い出しながら、まぁいいか、と自分で納得する。

 ついでにグローブは結局返してもらえず、俺はまたもやスッカラカンになった。


 下山して、麓にある〈ポート〉と呼ばれる帰還システムを搭載した、円柱のオブジェクトを見つける。俺は火山で初めて使用するが、これで2時間もかからず帰れるだろうか。

 使うつもりはなかったが、母呼ばれたことで時間もない。〈亜人〉コンビも家族がいるだろうに、こんな時間まで……。

 時計を確認すると、20時近くになっている。

 なんにせよ早く帰ろう。

ちょっとした実験のつもりで、リュックにはクーの手を握ってもらう。


「じゃ、またねー!」

「おおー」


 緑色の光が弾け、二人の姿は消えてしまう。不安は尽きない。クーに通話して、リュックの安否を聞く。


『え? あぁ、大丈夫だよー』


 気分はどうだと? 聞いて怒られた。過保護のつもりはないのだが、なにぶんリュックにとって、どの程度が安全なのかがわからない。


 俺、ヒイラギくんの順番で〈ポート〉で自室へ戻る。


『ヒイラギくん、ちょっといいかな?』

『はいー』

『あとで、俺の部屋で話したいんだけど……』


 そう通話で伝え、一度四人は合流するように指示を出す。

 自室を出ると、すでに三人はアパートの前に出揃っていた。だが、とりあえずリュックには部屋に戻ってもらって、俺とクーとヒイラギくんでギルドと換金所に向かう。


「お、おお……これは……」

「え!? これ一人あたま?」

「そうだねー。全部持ってくれば良かったねー」


 ヒイラギくんの提案も魅力的だが、それをするにはもう一度火山に登らなきゃならない。

 〈クロカゼ伍長〉の所持金の欄には175485ケニー……。

 四捨五入すれば20万円もの大金を手にしたことになる。ゲームの金が現実世界に持ってこられたら――そう思わずにはいられない。

 それに、盾と槍を買いなおしてもお釣りが出る。


 俺とヒイラギくんは素直に喜んだが、クーには精神的に労働が辛かったようだ。すでにログアウトする気満々である。


「クーはピーちゃん回収しないと、でしょ?」

「あ、俺も天使ちゃん!!」

「天使ちゃん!? キモっ!」

「てめっ! 天使ちゃんは猫である、名前はまだないんだよ」

「え? じゃああたしが」

「いいよ! すっげぇ綺麗な名前つけてあげるんだ!」

「どんなですか?」

「候補は三つくらいあって、「花太郎」「虎次郎」「夢三郎」。これで決めかねてるんだよねー」

「「……」」

「頭に、どすこい、とかつけてあげたほうが良いかな?」


 帰り道は、少しだけ静かだった。




 一度ヒイラギくんの部屋に戻って、竜之進と戯れる白猫を回収する。

 しっかし、見れば見るほどドラゴンだよな……。足の小指程度の小さな後ろ足と握手すると、指に巻きついてきて遊んでーとばかりに指を噛まれる。

 決して馬鹿にされているわけじゃないはずだ。


「リュックはあたしの部屋だからね!」

「わぁったよ」


 リュックの手を引っ張って、ヒイラギくんの部屋から出ていってしまうクー。ペコリ、と頭を大きく下げたリュックを見ながら、俺はため息をつく。


「ヒイラギくん……工房、開いてるんだよね」

「はい」


 俺の言葉に、遊びの余地はない。

 人に説教することなど、滅多にしない。する機会もないし、今後もしないと思う。

 ベッドの上に乗っていた袋などをどかして、もう一度白猫と竜之進を遊ばせる。ゴメンなー、パパちょっとお話してくるからなー。


「そのヌイグルミも、ちょっと出て行かせてくれ」

「NPCも……ですか? 熊吉。ちょっとそっちの部屋に」


 工房で向かい合うように机を挟んで座る。

 さて、なにから切り出せばいいものか……。


「まず、リュックの話をしよう」


 そう切り出してみる。

 ヒイラギくんは素直に頷いた。


「リュックについてどう思っている?」

「リュックは……その、いい子、だと……」

「それは、NPCだからだろ?」

「いえ、NPCだとは思いますよ。実際ポーションくれるNPC見たら、ソックリだったし……でも、なんていうか、リュックは違うんですよ。NPCってプレイヤーを配慮してくれているとは思うんですが、リュックは、んー」


 言葉に悩むヒイラギくん。

 それに俺は言葉を付け加えた。


「個人を大切にしてくれている?」

「あ! はい! そうですね!」


 そうだ、彼女にはいま、俺たちをプレイヤーとして認識する機能が足りていない。それこそが、リュックが人間らしい一番の理由なのかもしれない。


「俺もそう思うんだ。彼女は、すごく人間のようだ。正直、人間にしか見えない」

「すごいですよね! NPCって、ノンプレイヤーキャラクターって言うんですよね? システムしかないはずなのに、あんな!」

「でもな、それはマズイんだよ」


 ここから先は、言いたくない。

 また、彼女を認めることで、彼女のぼんやりしていた輪郭がくっりき浮き彫りになるような、嫌な感じがするからだ。


「彼女はバグだ。しかも、深刻なバグ……。たぶんゲームマスターに見つかったら削除の対象になるし、次のアップデートで消されないとも限らない」

「そんなっ!」

「しかたなんだよ、ゲームなんだから」


 そう、これはゲームで、彼女はNPC。

 どうしようもないことだ。


「でも、ゲームだからって、彼女がどうでもいい存在かってゆーと、俺はそんなこと思っていない。たぶん、リュックと触れ合った人はみんなそう思うさ。メリーさんだって、違和感の欠片も抱いていなかったでしょ?」


 コクリ、ひとつ頷くヒイラギくんを見ながら話を続ける。


「わかっていてほしいのは、俺もリュックには生きていてほしい、ってことだ。それでだな、明日、俺に連絡しないでほしい」

「え、はい。それはいいですけど……なんで、ですか?」

「言ったと思うけど、俺の母親が開発スタッフだ。で、明日会う。会話が筒抜けになっているってわけじゃないけど、見つかる可能性は、少なくしておいたほうがいい」


 得心がいったと、ヒイラギくんは何度も頷く。

 耳が同時に動くもんで、とんでもなく可愛いよ!


「明日は夕日の街で昼までいるから、最低でもそれまでは連絡なしだ。なにかあったら、そりゃメールはほしいが、通話はダメだ。俺が母ちゃんに誤魔化しきれるかわからなない」

「でも、その、クロカゼさんのお母さんの力添えで、リュックをどうにかできないんですか?」


 うん、俺もそう思っている。

 もしかしたら、できるかもしれない。


「でも俺には、できるかも……くらいじゃ、リュックに危ない橋は渡らせるのは嫌なんだ。ゴメンな。そこらへんも含めて、今日帰ったら、母ちゃんに聞いてみようと思ってるんだけどさ……」


 なにぶん前例がない。

 意識をもったNPC? それはゲームスタッフにとって、人工頭脳として扱われるのか? それともやっぱりバグなのか?

 自我を持ったキャラクターだと認められたとして、それでどうなるというんだ。素人考えで思いつくのは研究材料だが……。ダメだな、わからん。


「まぁ、とりあえずはそういうこと」


 俯くヒイラギくんの頭を、ワシワシと撫で付ける。


「守ってやれよ、男の子!」

「――はい!」

「話はおしまい! まぁ、大丈夫だって! なんとか、なりなる!」


 なんですかそれ? と笑われながら、部屋のほうへ戻る。

 天使ちゃんを持ち上げ、カランと音をあげた二本のポーションの瓶を見つけた。中身はしっかり入っているが、天使ちゃんの体温に温められたのか、少しだけ暖かい。

 自重しろ俺。

 ポーションはそのままに、ヒイラギくんに別れを告げる。


「じゃあな。えぇっと、また明後日?」

「そうですね! 明日はジョカ領に向かってみます」

「お! マジで! 魔法使いになったら教えてください!」

「はい!」


 部屋に戻って換金所に寄ったときに買った、天使ちゃん用の餌を、工房に座るポムに手渡す。

 これで勝手に育つらしいが、どうなのだろうな。


「ううー、今日はゴメンねー、遊んであげられなくてー!」

「ぎゅ!」


 鼻と鼻を擦りつけていると、鼻先を噛まれた。

 あぁもう可愛いなぁ!!


「またねー天使ちゃん!」


 しっかり腹をわしゃわしゃやってから、俺はログアウトした。



数え直したら、次回でようやく5日目……

こんなに遅々と進まない小説も珍しいですね(すみません)


テンポアップを目指します!

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