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『と、とにかく詳しく教えて。いったいなにがあった?』
すでに火山にはいないらしいクーとヒイラギくん……。本当になにがあったんだ。
クーも一緒にいるということで、三人での会議通話をすることにした。
『リュック置いてきちゃった!』
『荷物くらい諦めろよ。この鉱石売れば金になる』
『リュックサックじゃなくてリュック!』
『紛らわしい! 無事なのアイツ?』
『わかりません』
『とりあえず、こっちに戻って来れる? 部屋のドアノブ握って、夕日の街って念じるか口に出すかすれば、夕日の街までは来られると思うんだけど』
問題はそこからだ。多く見積って、合流するのには2時間かかる。
『はい、でも、いま武器もなにもなくて……。あとお金もヘソクリしかなくて……』
『のぁ! そうだった!』
キルされたのだから当然だ。たぶん、ヒイラギくんとクーがキルされたという場所に行けば、袋に入ったお金が落ちているだろう。それに弓と棍棒もだ。
『わ、わかった。とりあえずアイテムの回収は俺がやっとくから、二人は……どうしよう』
『無手スキルも多少あがってるから行くよ! 火山に!』
『行くって言ってもねぇ。ヒイラギくんは無手スキルあるの?』
『あたしが守る!!』
やだこの子カッコイイ!
『じゃ、とりあえずグローブかブーツ買っておいで。無手スキルの付与ができるようになるから。それで、いったいなにがあった?』
そう、それがいま一番聞きたいことだ。
俺はいやだよ、暴走NPCリュックさんが、誰彼構わず襲っている光景見るの。
『それが、煙でよく見えなかったんですが、ドラゴンみたいなやつに襲われて、あっという間にやられちゃいました』
『ドラゴン!? 嘘だろ? 大きさは?』
最悪のパターンは回避したようだが、ドラゴンなんてウォーターベアーやバーサークボアなどの比じゃないぞ。まさかこんなところでドラゴンにお目にかかれるとは。キルされてもいいから一度見る価値がある。
『ドラゴンじゃないよー。たぶんイグアナとか』
『あー、そうかも』
急に可愛いなおい!
詳しく話を聞きたいのだが、いまいち要領を得ない。
ワニ娘の茶々を聞きながら、ヒイラギくんの話をまとめる。
俺と離れてから10分もかからず、モンスターが出るエリアに侵入したらしい。モンスターを倒しながら山を登って、火口の近くまで進んだ。周囲を確認したあと、俺とメールをして戻ろうとしたとき、イグアナに出会ったらしい。
……怖くないなぁ……。
とは言っても、二人を一匹でキルしたモンスターだ。フィールドボスではないだろうが、油断していい相手じゃない。せめてリュックを山から下ろすまでは頑張らないと。
それに背後の鉱石の山もある。
クロカゼ伍長の腰にも届くその小山は、台車もない状態で、一人で運べるとは思えない。
時計を確認すると15時を回っている。17時に合流予定だが、それまで採掘作業で暇をつぶすわけにもいかないだろう。
『リュックは、まだ山頂付近にいるんだよな』
『わかりません。でもこっちには戻ってきてないですし』
「戻ってきていない」
それが的外れの表現だということは、指摘しないでおいた。
彼女の耐久値がなくなった場合、ヒイラギくんの部屋に戻ることはない……と思う。正直な話、NPCが死んだ場合どのように復活するかなどわからない。
俺が裁判を受けるにあたって調べたときに発見したトリビアを、ここで披露しておこう。
ボアッサの洗礼を受けたプレイヤーがお礼参りをした結果、キルしたはずのボアッサに裁判の証言台を占領され、信じられないほどの刑を受けた、という事案があった。
そこで俺が得た教訓は、なにがあってもNPCに攻撃してはいけないということだが、リュックのことを考えると、それだけにとどまらない。
普通のNPCはシステム上定位置に復活可能だが、彼女の定位置には、すでにべつのNPCが埋め込まれている。
リュックは、たぶん、「リュック」しかいないのだ。
モヤモヤしたものに促されるまま、鉱石の山を蹴り飛ばす。ガラガラと崩れ落ちる鉱石と、地面を叩いた盾と槍の音が、少しだけ動揺を落ち着かせてくれた。
「消えてたら、ヒイラギくんになんて説明しよう……」
「消えていたら」
それが正しい表現だ。それを一からあの二人に説明するのは、心が折れそうだな。早いところ母親に相談したほうが良かったかもしれない。
そうだ、事情を話せば、ただのバグとしては処理されないかもしれない。母さんの口添えがあれば、運営会社の説得も――いや、いまはやめておこう。
たとえリュックがどのような存在だったとしても、様子を見に行くことが優先事項だ。
山頂に行くまでに30分。ヒイラギくんたちがどこでキルされたのかはわからないが、なにかしらの煙で視界も悪いらしい。荷物が目印になるとは言え、それを回収するには難儀しそうだ。
宝石箱をもとの穴に放り投げ、盾と槍を装備して山を登ることにした。
この鉱石の山が、誰かに盗まれませんように!
円錐状の、起伏の激しい火山を登りきった俺は、あの二人の軽率な行動に頭を抱えながら、火口に降りていた。
立ち込める煙のせいで視界不良……。〈亜人〉コンビはこともあろうに、引き返すつもりで山頂近くの火口を下っていたらしい。確かにこの大きさの火口ならショートカットしたくなる気持ちもわかるが、現実世界ならこの煙を吸うだけでアウトだよなー。
こんな間近で活火山を見ることはないだろうし、そう考えれば貴重な体験なのかもしれないが、誰得なのかわからない。
煙がものすごいので予測も多分に入っているが、火口はすり鉢状になっていて、その中心部分にはドーナツの形に大穴が空いている。その大穴の下からは赤い光が漏れていて、火山と呼ぶに相応しい、溶岩が流れていることがわかった。
ドーナツの真ん中はと言えば、直径六メートルくらいだろうか、足場があるように見える。乗れるのかどうかはわからないが、そこに行くためには2メートルほど跳躍しなければならないだろう。〈跳躍力lv7〉の俺では、Bダッシュジャンプするしかなさそうだ。
しかも硫黄臭いというのがことさら気に食わない。従来のVRマシンには匂いがなかった。それを再現させることを可能にしたVRマシン『セカンドライフ』ではあるものの、いまこの場所では、マイナスとして機能している。
こりゃあ人が寄り付かないわけだ……。
「リュックー! どこだー!」
火口に向かって叫ぶ。最悪俺がキルされても、リュックの反応を確認できればそれでいい。もし反応がなかったとしたら……ヒイラギくんたちが無理に山頂アタックする必要はなくなる。するだろうがな。
「クロカゼさーん!」
反応もあったことだし。
声のするほうへ向かうが、案外下るな……。念のために降りてきた火口の淵を見上げるが、イグアナのような四足歩行のモンスターに襲われて逃げきれるか、非常に不安である。
「〈鑑定〉」
視界にいくつかの文字が確認できる。ライセンスの低さによって〈?????〉が多いものの、回収はできそうだ。
中心の足場部分にそれがあるということは、そこに乗れるという証明になってくれるだろう。乗ると崩れる、なんてトラップではないだろうが……たぶん戦闘になるんだろうなー。
「俺の姿見えるかー?」
「見えませーん!」
うむ、NPCとしての機能に期待しすぎた。しかたない、次の手段だ。
「ポーション!!」
「え? あ、はい!」
煙の中で際立つ文字に、〈ポーション〉が追加された。頭脳派やろ。
誰に聞かれるでもなく、心の中で自分の優秀さにニヤニヤする。
「リュック! そこのアイテムをこっちに放り投げることできるか?」
溶岩が流れる穴を覗き込みながら、リュックに話しかける。
「すみませーん! 煙がすごくて、全然見えないんです」
「わかったー。アイテムは諦めて、こっちに来てくれ。足元注意ー」
はーい、と彼女の声を聞きながら、その話しかたに違和感を覚えなかったことに、不安になっていた。
俺は、いまNPCと話していたんだよな……。
この不安がどこからくるものか、まだ自分のなかで結論を出せずにいる。
四つん這いに這ってきたリュックの顔を見て、その考えは置いておくことにした。
「えぇ! なんですかこの穴!」
「なんですかって、ここジャンプしたんじゃねぇのか?」
「い、いえ。普通に歩いて……。それよりクロカゼさん! あの、クーたちが! 殺されちゃったんです!!」
……え? あ、あぁ、そうなるの?
良かった。コイツはNPCだよな。うん。そうだよな。
「アイツらは大丈夫。いま火山に向かってるからー」
「えぇ! そうなんですか!!」
「驚き過ぎだって――……っ!」
驚き過ぎ?
それは俺にも言える言葉だった。
――なんで彼女は
そんな嬉しそうな顔で
涙を流せるんだ
「うっ、うっ、良かったですー……」
緊張が解けて安心した? 緊張していた? 安心したってなんだよ。
――なににだよ。
「リュック。早く帰るぞ、飛べないか?」
「えぇっと、はい、頑張ります!」
目尻に浮かぶ涙を拭きながら、彼女は気合を入れるようにリュックサックを担ぎ直した。
それら全ての動作が、気持ち悪かった。
なんで担ぎ直した?
なんで表情があるんだ?
なんで笑った?
四つん這いできた理由は?
あの涙……どうやって出したんだよ。
助走をつけて跳躍した彼女は、名前の由来の大きなリュックのせいで飛距離が足りないことがわかった。
俺が彼女の腕を掴むために腕を伸ばしたのは、すごく自然なことだと思う。
思い切り引き付けた結果、俺とリュックは抱き合うように斜面に倒れこむ。
「あ、ありがとうございました……あの、クロカゼさん? えっと、苦しいですよ? クロカゼさん? どうしたんですか? あ、怪我しちゃったとか! ポーション差し上げます! だからちょっと――あ、すみません、ほらポーションですよ! あれ?」
立ち上がった彼女からポーションを受け取りながらも、俺は立てなかった。
「どうしたんですかクロカゼさん! そんな泣きそうな顔して!」
――あの涙……どうやって出したんだよ。
まさかのシリアスパート……難産でした。
この方向性の有無について、メッセージをいただけたら嬉しいです。




