24
ザクザクと穴を掘り進めること30分。
横穴も5メートル近く……。スキルのない我が身では、大変な作業だった。リュックのポーションが本当にありがたい。
掘った土は、そのほとんどが消滅エフェクトにより消え去っている。おかげで洞窟内に鉱石の山を作り上げることができた。
その山を見ながら、俺は別行動中のパーティーに通話を送る。
『クー。いまどこにいるんだ?』
『いまねー、山頂近く! あっついよこっち』
『こっちもあっついわ。戦闘できたの?』
『余裕! 結構強いわあたしたち!』
へぇへぇうやらましいこった。
『早く帰ってこいよ。こっちはもう疲れたぞ』
『おっけー。いったん戻って……あ、待ってて!』
通話が切れた。
――俺は、なんというか孤独すぎやしませんかね?
俺の天使ちゃんが恋しい。
明日は裁判だし、NPCであるリュックのもあるし。
これが俺の第二の人生だとすれば、どうにかして軌道修正したいわけだが……。
「おぉん?」
地層が変わった。層というか、土が、かな?
掘り進めていた穴の端。縦にまっすぐ伸びるように、そこだけ地層が白く変わっていた。柔らかい粘土質の土に、砂と小石が混ざっている。なんだろコレ。
手にとって指先で遊ぶ。あ、校庭の砂っぽいのか。
一度そこだけ掘ってみた。あぁ、これは掘りやすい!
いままで掘った粘土質の地層はあんなに硬かったというのに、これはサクサク掘り進められる!
スキルも使わずに、5分という時間と、ポーション1個で、縦2メートル奥行1メートルほど掘ってしまった。
そして再び現れる硬い粘土質の地層。
ボーナスタイム終了ですか……。そうですか……。
まぁボーナスタイムとすら言えない。そこからは鉱石一つ採れなかった。掘りやすい地層からは鉱石が取れないのだろうか……。
くたびれ儲けかー、とポーションを飲もうとスコップを地層に差し込んで、
ズブズブズブ……
たいして力も込めていないのに、スコップはズルズルと地面に飲み込まれていく。
「……おぉん!?」
下に掘れと?
しゃがんで、もう一度その地層の土に触れる。
当たり前のように土の隙間に砂が入り込んでいて、実に掘りやすそうだ。たぶん現実世界であったとしても、素手で掘れそうな柔らかさだ。
白く染まる地層は、直径一メートルの歪な円だ。その円の中で天井を見ると、やっぱり白っぽい円がある。
地上から垂直にその地層が伸びている……そう考えるのが自然なことだろう。
選択肢は三つくらいか?
・もともとそういう仕様。
・掘ると生き埋めになる罠。
・誰かが一度掘った。
誰かが掘った、ということは考えにくい。
まず縦に掘ると採掘の手間が増えて利点がない、わざわざ埋める意味がない、ということで否定することができる。
律儀な人ということも否定しておこう。俺は一度穴から出て、山の斜面を〈クライミング〉で登りだす。このスキルを、本当の意味で使うことができるとは……。
だいたいこの辺か?
見当をつけて見渡すが、とくに掘ったあとはない。土が溶けてガラスのように光を反射しているが、それは火山全体の斜面に当てはまることだった。
火山への入山許可を得るには、時期が重要だという。つまり、その時期以外は噴火しているのだろう。
穴を掘って、スキルがなければ登ることもできない、テカテカした斜面を歩く人のために穴を埋め直した……考える必要はない。却下だ。
次は、もともとそういう仕様。しかし、正直これも却下だ。〈クライミング〉したときに手についた砂を触る。
まさに、これだ。
ザラザラとした砂は、さきほど粘土質の中にあった砂と酷似している(砂なんてみんな一緒だろうけど)。
わざわざ表面の砂を土に織り交ぜてあの地層を作った? 〈Dragon Obey Licence Online〉は確かに緻密なゲームだが、わざわざそんなことをする必要がない。
必要ができたとすれば、最後の理由になる。
もともと生き埋めになる罠……。
却下したい、したいが、正直これが一番有力な候補だった。一定の地層を掘り進めると、上の地層が降ってきて生き埋め。呼吸のできないキャラクターはそのまま死亡……。
こえぇよ!!
けど、俺も男だ。
ヒイラギくんにメールを送る。
『俺、いまからちょっと冒険するわ』
天使ちゃんの入っていた卵があるならまだしも、いまの俺がこの場で死んだとしても、とくに失うものはない!!
鉱石はヒイラギくんたちが持ってきてくれるはずだし。
服以外の装備一式を外し、鉱石の山の上に置く。
自分の両手のひらに唾を吐き、それをこすり合わせる。へへ、一度やってみたかったんだ。
スコップを持って、ザク、ザクと掘り進める。
砂混じりの粘土層、消滅エフェクトを垂れ流しながら消えていく。穴掘りは詳しくないが、砂いっぱいのバケツを上まであげる、なんてことがなくて非常にありがたい。
それに、さっきまで硬い層を掘っていたので、この柔らかい地層はなんというか、気持ちがいい! ボーナス引き戻しってやつですな! パチンコやったことないけど!
喜々として縦穴を掘り進めていると、ヒイラギくんからメールが届いた。
『一度戻りますねー大丈夫ですか?
どこかに行ってるんですか?』
『さっきの場所だよ
ちょっと危ない地層掘ってるんだー』
と、返信がないのが気になるが……、まぁいいんだ。ほら、俺〈山頂の挑戦者〉ですしなんだよ〈山頂の挑戦者〉って。
よし、一度休憩だ。正直暗くてなってきて、足元がよく見えない。
こんな暗闇で生き埋めになるのかと思うと、結構怖い。生き埋めになって、どのくらいで自室に戻れるんだ?
陽の光を浴びながらポーションを一気飲みする。
冷たい栄養ドリンクのような味が、疲れを癒してくれているのがわかる。大きくため息を吐いて、俺はヒイラギくんに、所在を問うメールを出した。
返信は来なかった。
いいよ、ライセンス変更しろよ、なんかない? 〈トランプ一人遊び〉とか〈休み時間の寝たふりマスター〉とか。やっちゃえよ。怖くて通話なんかできねぇっス。ははっ。
穴に戻り、ザクザクと掘り続けることにする。
すでに、クロカゼ伍長のアバターがすっぽり埋まってしまうほどの穴が掘れていた。動きにくいことこの上ない。
あのワニ娘もここでは動きにくいだろう。頭がデカいからな!! 次はヒイラギくんに交代してもらって、俺はクーにプロのような動きを見せてやろうじゃないか! うはははあ……。
スコップの先端がなにかに当たった。
慌てて頭を庇う。
意外とビビリだった俺はしばらく目をつぶってしまったが、特別生き埋めになることはなかった。
つらつらと、慎重、極めて注意深く周囲の地層を見渡しながら、スコップではなく素手で土をかき分ける。
こりゃ本当に柔らかいな。やっぱり、一度掘り返したのかもしれない。
土を払いながら、スコップが当たった『なにか』を持ち上げる。
箱……だよな。
なんだろ、レアアイテム? 開けて大丈夫?
「あ…………ああ!!!!」
〈クライミング〉で縦に掘った穴を脱出して、そこそこ明るい洞窟のほうでフルダイブをオフにして、慌ててネットを検索する。
写真を撮るのも忘れるわけにはいかない。予想が当たっていれば……。誰でもいいから書いていてくれよ。
『DOLO 財宝 クエスト 火山』
これで検索した結果、俺は一つの記事に目を向けた。
『財宝探索イベントが一般発売記念イベントとして催されるようです。とはいえ、砂漠のピラミットエリアと火山の麓ではもう見つかっちゃったんですけどね^^雪原・海・空街で目下捜索中になっています。とは言っても、見つかった場所でも、出現が確認されています(^_^;)ランダムという可能性もありますが、頑張りましょう\(*⌒0⌒)♪』
これは……強運なんかじゃない。
俺は頭を抱えて、宝石が散りばめられた豪華絢爛の箱を見る。
この箱があった場所に決めた理由。
それほど重要視はしていなかった。誰でもが指示しても良かったし、どこでも良かった。
忘れていた、などと言うつもりはない。だが、思い出す必要もないくらい、俺たちは簡単に採掘場所を決めた。
トイレから戻ってきたワニ娘は、10分ほどの登山も我慢できなかったため、見かねたヒイラギくんが彼女に聞いたのだ。
『ねぇどこ掘るか決めてみてよ。リュック!』
ああ、そうだった……。リュックが指さした方向にこの財宝。
もはや彼女は、NPCでもバグでもない。
明確な「システム」を「知能」として活かしている。
そう考えれば考えるほど、この宝箱に、なんの価値も見いだせなくなっていた。見つけた感動より、リュックの機能に気づいたときのほうが、心の振れ幅は大きかった。
これは俺の主観だ。
主観であるために、客観的に物事を考えて、宝箱を開けようじゃなかい!
ヒントが多かったとはいえ、わざわざべつの穴を掘ってまで手に入れた宝箱だ。開けさせていただく!
開けるぞ! 宝箱自体が高値で売れそうだ! 中に! 入っている! ものは! さぞや!! 素晴らしい!!! ものなのだろうなぁ!!!!
「開かないよ!!!!!」
俺の叫びは火山に響き渡ったことだろう。
その証拠に、ヒイラギくんから通話を確認する。良かった、俺は一人じゃないんだ!
『もしもしー? お宝見つけたから早く来てくれ! 激レアだぜ!』
『すみませんクロカゼさん……。ボクたち、キルされちゃいました。いま自室にいます』
……ここにいて、いいのかな?
これはチートじゃない。これはチートじゃない。これはチートじゃない。
と思いながら宝箱のシーンを書いていました。
もうリュックがタグに抵触するようなことはないはずです!
たぶん!
これ書き上げたら、演出と描写、勉強し直します!




