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道行くプレイヤーにアパートの場所を聞きながら進む。
面白いことに、この〈夕日の街〉にはアパートはなかった。その代わり、長屋に行くよう説明してもらった。
長屋というだけあって、部屋の数はアパート以上に存在した。まぁ、どの部屋に入っても自室に入れるだろうが。
障子を開けると、うん、やっぱり自室だ。障子をあけて、洋式の部屋に入るという行為は、なんとも居心地が悪いな。
後ろ手で戸を閉めると、ガリャリという音が響く。何事かと振り向くと、引き戸障子はなくなって、ドアがそこにあった。うむ、ファンタジー。
「ほらー、ここが家ですよ天使ちゃーん!」
言葉を理解したのか、俺の腕から飛び降りた白猫は部屋の匂いを嗅いだりしながら遊びだす。
だめだ可愛い。
ベッドのシーツを噛んだり、そのままぶら下がってみたり……なんだろう、ひとり暮らししたら絶対猫飼おう。
「ご主人さまおかえりですかーうわぁあああああ!」
工房から出てきたポムは、天使ちゃんに襲われた。そうか、お前って工房から出られるんだな。
それはそうとね、腹綿をぶちまけながら逃げようとするのやめていただけませんか? なんでお前だけそんなコンスタントにR指定なの?
ネコの頭をパンっと叩き、威嚇のように声をだす。
「ダメでしょ」
「ぎゅ?」
叩かれた天使ちゃんは、なぜそんなことされたのか理解できていないようだ。それすら可愛いのだが、ここは一度様子をみる。
「はぁぁぁぁあ、助け、て、くださ……い」
「動くな動くな怖いから」
そして、ポムが動き出したのを見計らって、またネコはポムの身体を噛み始めた。それをしっかり確かめて、もう一度頭を叩く。今度は強めにだ。
『〈調教Lv1〉を会得しました』
おっしゃ!
心の中でガッツポーズを決める。
「〈調教〉」
音声発動で、天使を撫でまわす。
補助スキルに分類されていた〈調教〉は、自動で発動してくれないようだ。武器に付与できない特殊スキルではないため、鞭とか付与したらさぞや面白い光景だろう。開発スタッフにはマゾが多いに違いないな。
『〈調教〉がLv2にアップしました』
天使があくび一つ、甘えるように俺の足に擦り寄ると、そのまま寝てしまった。こんなに現実で使いたいスキルは初めてだな。
食い散らかされたポムを修繕して〈布加工〉のレベルをあげてみるものの、範囲が広いためか、腹の部分はちょっと凹んでいて同情を誘う。
「あ、ありがとうございましたご主人さまー」
「おー、よしよし」
思考入力で〈調教〉してみるが、効果なしだった。
「ところで、裁判って知っている?」
「知っていますが、私では説明できないですねー。あ、隠しているとか、そういう意味じゃなくて、もっと相応しい人がいる、という意味ですよ」
「おう」
少し前、その一番詳しそうな人から説明を聞いて、流してしまったので、ポムにちょっと聞きたかったのだが……。
まぁいいか。俺には切り札もある。
時計を確認して、俺はログアウトした。
冷蔵庫に残った食材をほとんど使って、昼飯の準備をする。
今朝、米を炊かなかったのは失敗だったが、母も食べる昼食だ。冷凍ピラフを温めている。
『飯そろそろー
食べるんでしょ?
帰っておいでー』
メールを送り直し、反応を待つ。
食事を机に並べ終わるころ、ようやっと弟が動きだした。
「おい、ゲームやりすぎじゃねぇか? ちゃんと……寝て……ないよねー」
関節という関節に力が入らないのか、首すら傾けて雪緒は歩く。医療用を謳う『セカンドライフ』で、弟の人生終わりそうなんですけど……。両親は時間がないと言っていたが、命でも削っているのですか?
昨日の夜もメンテナンスすればいいのに……。
弟の介護をしながら、そんなことを思う。うつらうつらと頭を動かす弟は、見ていて痛々しい。さすがにこれじゃ、ずうっと〈睡魔〉状態だろうに。それに脳波検出されるんじゃなかったか?
睡眠不足だって死ねるんだからなー、と弟に説教する。結局その言葉はバラバラに帰ってきた家族全員に送ることになった。
「一旦寝たら? 父さん明日仕事でしょ?」
「だからだよ!」
怒られた……。
いままでも理不尽な怒られかたは多かったが、今回は一際だな。
「30分寝るだけでだいぶ違うよ」
「そうだねー。大丈夫だよお父さん! あとはあたしと雪緒だけで」
「パパだって遊びたいんだよ」
パパ、大人になろうよ……。
「あ、そういえば、俺明日裁判しなきゃいけないんだけど、どうすればいい?」
「あははははー。マジでー?」
「マジだよー。母ちゃんもしかして〈弁護士〉持ってるの?」
「うん。優秀だよスキルのほうは」
へぇー。
「NPC相手だと、無茶な金額で買っても屁理屈言い続ければ安くしてくれるしね!」
へ、へぇー。急にほしくなくなったな。〈外道〉スキルがグングンレベルアップしそうな感じだよ……。
「じゃあさ、明日弁護頼んでいい?」
「いいよー。火燐ちゃんたちも来る?」
「行くー」
「えー。戦いたーい!」
気だるそうに飯を突く弟を、ご飯作んないぞ、エロ本の隠し場所バラすぞ、好きな子になんて言って告白したんだっけ、と説得する。
ガッシリと握手する弟の了承を得て、明日は家族で俺の裁判の見学ツアーが開催されることになった。
ちなみに、姉も〈弁護〉スキルは持っているようだったが、〈弁護士〉は一人しか味方にできない。傍聴席からスキルを使っても、野次としてしかNPCに伝わらないらしい。それにも関わっているのだが、感情論はあまりNPC相手には有効ではないようだ。そこら辺はイマイチわからない。
「で、いまは何してるところなの?」
「まだ雪緒の職業取得中ー。コイツダメだねー、戦闘しかやんない」
「いいじゃん。戦い楽しいし」
「まぁ、それもゲームだよ火燐ちゃん」
「お母さんは雪緒に甘すぎる! ゲームはやり込んで初めてなんだよ」
ドーロの発案者になんてことを。まぁ、発案者だけあって、純粋にゲームを楽しめる立場にあるのかもしれない。もっと純粋に雪緒を愛しすぎているだけかもわからないが。
「あたしも〈騎士〉のライセンスほしいから、早く王国領行きたいんだけどね」
「ってことは〈準騎士〉持ってるのかよ……。ってか一ヶ月かかって〈騎士〉持ってないのか。先はなげぇなー」
「永住させてやるぜ! って開発スタッフだったからねー。性根は悪いよー」
俺たちのパパは永眠しそうだけどねー……。
机に頭から突っ伏して動かない父を見ながら、頭が痛くなる。ここまで来ると本当に廃人だなおい。
「まぁ、明日は〈夕日の街〉に朝10時ね」
「ケー。お母さんにまかせなさい」
殺人の弁護を母に任せる日がくるとは……。なんか、申し訳ない気持ちになるが、〈弁護士〉の取得方法を喜々と語る母親を見ながら、まぁいいか、と自己完結させていただく。
なんだかんだで家族はそろって仮眠を摂ることになり、その間俺は食器を洗う。ついでに買い物にも行きたかったのだが、なにせこの日差しである。日が沈んでからでいいかと考え直して、部屋に戻った。
ケータイを取り出して、ゲイルにメッセージを作成する。
『明日で終わりそう
最強弁護士雇ってやったぞー』
『さすがー!! こっちはいまからケントたちとパーティー組んでダンジョン攻略する予定だよ!!!』
相変わらず『セカンドライフ』は返信が早い。そしてゲイル感嘆符多いな!
ケントたちもいまからダンジョンかー。〈ジョカ領〉に入ったってことだよな。
『こっちは〈夕日の街〉まで来ちゃって。まいったわ』
『だろうね!! どうせ明日まで暇なら、『火山の目覚め』受けるといいよ。ピッケルかシャベル持っていくといいよ!!!』
――あぁ! 忘れていた。ここは廃ゲーマーが太鼓判を押した、ボロ儲けのクエストがある街なのか!
『ありがとう!
やってみるよー』
『こっちも伍長ならOKだって言っているから、疲れたらおいでよね!!』
礼を言ってメールは終わらせた。
さて、じゃあ次は――
『ヒイラギくんーいまなにしてるー?』
『クロカゼさんー!
すみません昨日は……。
あの、ちょっと相談したいことがあるんですが』
『ん? あぁいいよ』
『本当は昨日のうちに連絡したかったんですが
誰にどう説明していいのか、わからなかったもので』
『了解ー。ネンベッツァ?』
『はい!』
ヒイラギくんの笑顔が浮かぶ。
相川さんにも連絡したかったが、今回いいだろう。ヒイラギくん可愛いよヒイラギくん。
〈Dragon obey Licence Online〉にフルダイブして、ヒイラギくんと通話する。
『いまログインしたよー。そっち行く?』
『あ、はい! こっちもいま自室なので』
俺はベッドに眠る天使の頭を撫でつけて、あ、いかん、起こしてしまった。大あくびする天使を抱き上げたが、オーバーオールの肩の部分をガジガジ噛まれる。耐久値が心配になるが、まぁ可愛いから我慢しよう。
「ネンベッツァ」
一言呟いてドアに手をかける。舞い戻る。うへへ、初めて使ったどこでもドア機能。ヒイラギくんを助けに行くときは、場所が森だったから利点がなかったのだが、誰かと会う場合は楽でいいな。
『いまアパートの前に来たよー。卵孵ったから見せてやるぜ!』
『ボクとクーのも孵ったんですが……その、まぁ、なんというか……いま開けますー』
えらく歯切れの悪い物言いだな。
二階建てボロアパートの、一番入口に近いドアが開く。すると、キョロキョロと辺りを見渡す獣耳少年。
「ヒイラギくん!」
「クロカゼさん! 良かったー。あと、色々と相談したいことが……」
「おーけー。まぁ、とりあえず入れてください。ここ人通り多いから」
ヒイラギくんに〈招待〉してもらって、部屋に入る。
俺は――絶句した。
目に入ったものを、順番に話すとしよう。
まずは、ベッドに座って俺を睨みつける〈亜人・クロコダイル〉のクー。その腕の中で、俺の天使ちゃんのように抱きしめられながら、ピヨピヨ鳴く赤い鳥。その横に座っている女性NPCには見覚えがある。ネットで騒がれ、DOLOの運営・開発スタッフをあわてふためかせた、例の暴走NPCだろう。
そして、もう一つ……。
この部屋の工房のぬいぐるみだろう。ピンクの人形に抱えられた、羽の生えた蛇。
つまりは、それは〈Dragon obey Licence Online〉プレイヤー全員の憧れだった。
ドラゴンがそこにいたのだ。
アクセス解析というものを見て、心がグッサリなりました。
アレは、自信のない人には辛いシステムですね。
ですが、クヨクヨしていても仕方ないので
いま見ていてくれている人たちのためにも、風太くんのためにも
完結させたいと思います! よろしくお願いします!




