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『〈破戒僧〉を取得しました』
どこの誰かもわからない人をPKしちまった……。
おそらく、〈睡眠〉状態だったわけではなく、不運にもスリープタートルの攻撃によってダウンしていたのだろう。でなければ、〈モンク〉の攻撃一発でキルされるわけがないと思う。
べつに誰かを傷つけてしまったわけでもないし、俺がキルしなくてもカメの下敷きになって死んでいただろうし、でも、なんというか、申し訳ない気持ちが一杯だ。
『〈人殺し〉を取得しました』
『〈人でなし〉を取得しました』
『〈味方殺し〉を取得しました』
『〈弱い者いじめ〉を取得しました』
『〈外道〉を会得しました』
『〈不意打ち〉を会得しました』
『〈乱戦上手〉を会得しました』
『〈下卑た笑い〉を会得しました』
ふぇぇ……。
視界が、申し訳ない気持ちを植え付けられるように、一杯になる。一度PKしただけでなんて扱いだ。
しかも、〈破戒僧〉のライセンスを取得したことで、俺の聖職への道はしばらく閉ざされてしまったわけだ。
まぁ、いまはいい。誰か知らんがあとで謝りに行こう。
とりあえず逃げよう――!
スリープタートルは、ゆっくりと落ちてきているように見えるだけだ。一瞬でも走る速度を落とせば、俺は潰されてしまうだろう。
「こっちこっちー!!」
トールくんに導かれて走る。その後ろにはケントとゼクシオ嬢の姿もあった。〈跳躍力〉を使って飛び込む。ラージシールドがあそこで壊れたのは、キルしてしまったプレイヤーには申し訳ないが、幸運だったのかもしれない。レベル7でも身体が軽くなったので、まぁまぁの飛距離を叩き出した。地区大会なら幅跳び優勝だぜ。
「うべへっ!」
本日二度目の土の味……。砂利を吐き出しながら――背後からくる衝撃で身体が浮かんだ。慌てて振り返ると、スリープタートルはひび割れた大地に横たわっていた。目をつむって大いびきの最中である。
それを見ながら、呼吸が落ち着く。いつまでも立ち上がらないと思われたのか、ケントに引き起こされた。
「重いっつーの!」
「悪かったね!」
「さっき痛かったぞ!」
ケントと言い争いをしながらカメに向かう最中、俺は周囲のプレイヤーにも感謝されることになった。
「助かったよデッカイの!」
「兄ちゃんすげぇな! ありがとうねー」
「ありがとうございました」
「さっきなにしたの? すごい範囲のスキルだね」
褒められることに慣れていないため、素直に照れてしまう。
「うわなんだその顔!」
「うわああああ!!」
「気持ち悪い!」
「なんでそのアバター選んだの!?」
「――え?」
俺のことを褒めていてくれたプレイヤーたちが、すごい勢いで離れていく。なかには、武器を構えるヤツまでいる。
助けを求めようとパーティーメンバーを見ると、ケントもゼクシオ嬢も、トールくんまでもが、その行動をとっていた。なにが、なにが起こったというんだ!?
慌ててメニューから〈スキル〉を確認する。
特殊〈下卑た笑い〉……笑顔になることで、周囲に不快感を与える。
不快なのは俺だよ!! PKにどれほど重いペナルティー課しているのさ!!
スキルをオフにしたものの、さきほどの笑顔を見たプレイヤーたちは、俺を遠巻きにしている……。
唯一、あとからやってきた姫路さんだけは、スキルの影響を受けなかったようだ。なにがあったの? と俺を慰めてくれている。美人なうえに優しいだなんて……もうアンタがヒロインだよ!
「待て待て待てー! 素人どもー!」
眠っているスリープタートルに近づいていくと、二人組が武器を構えて進行を阻む。カメの狩りかたを知っていたあの二人だ。
「まず、コイツを最初に起こしたバカ野郎! いいか? コイツは寝ているとき、首の後ろに斬撃を与えればダメージを与えられるんだ! 手本を見せてやるから、そこで見てろよ!」
一人がそう言うと、もう一人のプレイヤーがものすごい〈跳躍力〉で空を飛んだ。カメの背中に乗ると、両手に構える剣を振るいながら、甲羅からもう一度ジャンプする。
カメの下で待つプレイヤーは全員空を見上げた。
おお、かっこいい!!
思考能力でスキルを発動させたのか、青白い光が両手剣からこぼれている。少なくとも〈一刀両断〉や〈スラッシュ〉などではない。もう少し上級のライセンス持ちだ。
背骨をバネのように使って、綺麗な円弧を描いて、両手剣を振り切った。
クルクルと回りながら、その両手剣をもつプレイヤーは俺たちの中心地へと降りて、剣を背中の鞘にしまう。
彼が着地したと同時に、消滅エフェクトが周囲に幻想的な光景を作り出す。太陽の光を反射するそのエフェクトは、まるで地上から空へと戻っていく吹雪のようだった。
あ、あれですな、これが俗にいうチートってやつですか!?
少なくとも、二つ目の街でモンスターを狩る面子だとは思わない。周囲のプレイヤーたちは、拍手でそのプレイヤーを迎えることになった。
俺もその一人だ。だって格好良かったんだもの!
でも、姫路さんにそのつもりはないらしい。美しく顔をしかめ、その美しい口から美しい声が聞こえた。
「っざけんなよ……」
……ウップス。
姫路さんはフヨフヨと飛んでいき、周囲に落ちているアイテムを拾い出す。俺がキルしてしまった以外にも、プレイヤーはそこそこ死んでしまっているようだ。スリープタートルからドロップアイテムが出るころには、彼女の手荷物は両手でも抱えきれないほどになっていた。
ケントたちを呼んで、その防具やら道具袋を各自でも分け与える。だが、べつにそのまま自分のものにするわけではないようで、アイテムに心当たりがあれば、その人のパーティーに返すとのことだった。そのほどんどのアイテムは、街に着いてから、ということらしいが。
さっきの「ざけんな」発言なんだったの? 心まで綺麗じゃないですか姫路さん!!
「おいそこの〈フェアリー〉!」
俺もいくつか荷物を受け取っているとき、カメの前で演説を決めていたプレイヤーが、姫路さんを呼び止める。
「さっきの話、まだ終わってねぇぞ」
「うるさいなアンタら」
荷物を全部押し付けられた。いやはや、この巨体の使い方を、実によくわかっておいでだ。あれだ、今度から愛称で「姫さま~」と呼ぶことにしよう。空飛ぶし。
「そもそも、アンタらがコイツの倒し方を説明してくれていたら、誰も死なずに済んだんじゃねぇの?」
「うっせーよ。調べもしないプレイヤーが悪いだろうが。第一これはゲームなの。誰も死んでませーん」
「そういう問題じゃねぇだろっつってんだろーが。くそガキ」
え、姫路さん、ちょっと口調が……。
俺が呆然と、いや、周囲も呆然としている中、カメを斬った勇者だけは、論争を止めに入った。
「ちょ、やめとけって。そっちの〈フェアリー〉も。しかたなかったんだよ、俺たちが着いたときには、もう戦闘始まっちゃってたしさ」
あの時逃げろって声上げても、攻撃チャンスだと思ったでしょ?
彼はそう続けた。まぁ俺もそうだろうな。
最後にトドメを刺したとしても、とくになにかもらえるわけではないが、さっきの彼がそうだったように、多少の羨望と嫉妬得ることができる。そして、俺TUEEEEの優越感も手に入る。それがゲームというものだ。
汚い話をしてしまえば、姫路さんの「キルされたプレイヤーにアイテムを返す」という行動も、見る人が見れば偽善と扱われるだけだ。
極論で述べれば、相手に返すも自分で使うも、所詮は自分本位ことなのである。
哲学になるが、誰かを庇って死ぬことも、所詮は自己満足でしかない――という悲しい話題もあるほどだ。
まぁ、そんなことに脳みそを使いたくない俺からすれば、
「なんでもいいからキルされる前に身を挺してでも庇ってくれよ」
という結論に至る。
姫路さんの言うことはもっともだし、ベテランプレイヤーが周りを助けなかったことも、責める気にはなれない。だから、もういい加減やめていただけないだろうか?
正直、真面目な話題は勘弁してほしい。
周囲も微妙な空気になっている。
そりゃあの2人を恨む気持ちもないわけではないだろうが、これはゲームだと割り切っている人も多いだろう。言い負かしても利点がないことを考えれば、街に戻ってクエストを終了させることが一番なはずだ。
それを知らずに、2人は論争を続けている。
「だーかーらー、先に調べないヤツが悪いだろうってんだよ!」
「だとしても、伍長くんのように助けに行ってあげたらどうだって言ってんだよ!」
「あのデカいのは攻撃力ないからな! 俺たちの攻撃力じゃみんなキルしてたっつーの!」
「じゃあアイツみたいに弱い武器でも担いでくればいいでしょーが!!」
「なんでそんなことしなきゃなんねぇんだよ! 盾スキルなんか使えねぇのばっかだし!」
やめたげてよぉ!!
真面目は話続けてればいいじゃん!!
弱い武器担いできたわけじゃないんだよぉ! むしろ最高の装備だったんだよぉ!
2日目で手に入れたラージシールド……。思い出が走馬灯のように蘇る。
付き合いそこ短かったし、〈セントラルライセンス〉で練習用に作られた弱っちい武器だった。だがそれでも、バーサークボア、ウォーターベアーなどの強敵にも大活躍してくれたのに!! いまの俺のスキルがあるのは、あのラージシールドあってこそなのだ!
それなのになんでラージシールドが弱いこと前提で話が進んでいくのか……。ふざけるなよ! と声に出すのはあれなので、さっさと集団から離れようとした。
そのとき、トールくんに話しかけられる。
「伍長、背中になに入れてるの?」
「ん? え?」
両手に抱えた荷物を降ろし――まさか――リュックを地面に下ろす。
いつの間にか、卵を入れていたリュックはモゾモゾと動いていた。弱々しい動きだ。でも、確実になにかが動いている。
「おおおおおおお!! 卵孵ったー!!!」
俺の叫びを聞いて、何人かは何事かと集まってくる。ついさっきまで論争を繰り広げていた姫路さんと、ベテランプレイヤーもやってきた。
争いがなくなったのはいいことだが、いまの俺はそれどころではない。
リュックを取り囲むプレイヤーたち。
俺はプレッシャーを感じながら、ゆっくりとチャックに手をかける。そして、開けきる前に
「うわっ!!」
顔が暖かいものに覆われた。
「「「「おおおお」」」」
同時に周囲から歓声があがる。まぁ、微妙なモンスターであることは察することができた。
なので期待をもたせるのもあれだ。コイツがどれだけモサモサしているとか、体温高くて気持ちがいいとかの説明は避けよう。結論から言ってしまえば、ドラゴンではなかった。
「ぎゅ?」
「痛い痛い噛まれてる噛まれてる!」
必死に顔から剥がして、その首をかしげる猫のようなモンスターを見たとき、ドラゴンへの憧れなんか、一瞬で吹き飛んでしまった。
書くスピードが落ちてきたような……申し訳ない
ここから主人公のターンな気がしますね!
気のせいかもしれませんが!




