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 丘を駆け下りながら、スリープタートルの攻撃動作を確認する。大きく分けて2つしかない。

 まずは4つの足から繰り出される踏みつけ攻撃。喰らえば一撃死だろうが、位置さえ間違えなければ恐ろしい攻撃ではない。

 次に首振り攻撃。やはり緩慢な動きなので、さほど恐ろしいとは思わなかった。


 こりゃ余裕かなと思ったが、いやはや、デカいっす。萎縮する気持ちもあるが、正直20人そこそこでこんな化物みたいなデカさに勝てるのかと現実的に考えてしまう。まぁゲームだ。体力ゲージこそ隠されているが、俺一人でも甲羅に乗って〈ラッシュ〉し続ければそのうち倒せてしまうのだろう。


 とりあえず、みんなが攻撃している左の後ろ足へ向かう。――と、目前でその足が浮いた。1、2、3、4、5――ドスン!!


「うひぃ!!?」


 大地がひび割れ、衝撃が周囲のプレイヤーを襲う。それ自体にダメージはないと思うが、バランスを崩してしゃがんでしまうほどの威力はあった。


 なにが両手盾戦術だ。一撃受けたら死ぬぞこれ! 動きにくいラージシールドを背負い直し、鉄一個から引き伸ばした、不細工な短槍に持ち替える。

周りで武器を振るうプレイヤーを避けながら、トールくんに追いつく。


「大丈夫っスか!」


 〈オーガ〉の物理攻撃力は右肩上がりだというが、いまは序盤。この硬そうな亀に、素手でダメージが通るのか、答えは否だろう。彼の両手には、反動の〈麻痺〉の兆候が現れているのか、何度か握《・・》りを直している。


「辛いねー! でも、自分殴ることしかできないので!」


 あ、この子脳筋だ! 思わぬ絆を感じ嬉しくなる。

 その絆を信じ、10人以上のプレイヤーで、左後ろ足だけをボコボコと攻撃し続ける。

 文字通り付け焼刃の短槍は、一撃ずつ耐久値がなくなっていっていることが、手に伝わってきた。このままでは、スキルを会得する前に砕けるだろう。硬すぎるぞこのカメ。


 ――と、さっき攻撃ターンが終了したと思ったが、もう一度左後ろ足が上がっている。見上げるほどの高さだ。


「伍長! 離れるよ!」


 トールくんの声のほうを見ると、彼はすでにケントたちと駆け出していた。顔のほうに走っているところを見ると、そっちが弱点か。だが、俺の足じゃもう追いつけない。


 しかたなく一度離脱する。

 腹甲の真下から出て、後ろを振り返る。――瞬間、盛大な振動。まるで花火が地上で爆発したような轟音とともに、俺の巨体がすこし浮いた。

 スリープタートルが左後ろ足を地面に叩きつけたとき、傷ついた足では自重を支えきれず、倒れ伏したのだ。


 だぁ! 頭が遠い!


 スリープタートルの頭部の方向から、プレイヤーたちのスキル発動の声が聞こえてくる。こんなボロボロの槍でも、頭ならダメージを与えることができるだろうに。


 歯痒い想いをしていると、俺と同じようにカメのワキで突っ立っているプレイヤーがクスクスと笑っているのがわかった。


「情弱乙だよねー。アイテムいただきます」

「やめろってー。みんな初心者だろ? オレたちだってやられたんだから」


 ほぉ。

 頭に向かっていくプレイヤーたちに混じりながら、2人の背後にピタリをつく。装備を見る限り、初心者と大差ないため、こいつらはβ出身か、ネットしながらじゃないとクエスト行かない人のどちらかだろうと判断。いや、楽しめているなら、それが一番いいだろうから、とくに断罪する気はない。

 問題は、俺がこいつらの後ろにくっ付くことで、俺も甘い汁を啜れるか否かだ。


 しかし失敗した。せめてトールくんを〈フレンド〉にしておけば、思考通話ができたというのに。とりあえず、今後どうなるのか話してくれないかね、キミたち。


「そろそろじゃね?」

「おけー」


 と、下がった2人と俺がぶつかりそうになる。

 うん、気まずい沈黙。

 あごを動かすような会釈をすると、その2人は後ろのほうへ下がっていった。俺もそれに続く。気まずさは続くが、おそらく行動としてはこれが正解なのだろう。


 スリープタートルから少し離れたところまで行くと、そこからはカメの全身像が見えた。いまやただひれ伏して、頭を好きなように殴られている。可哀想にカメ……。

 ここまで下がったのは、俺と脇の2人だけ。

 思いきや、上空からもう1人やってきた。


「どうしたの伍長くん?」


 ファサと、俺の天使が舞い降りたのだ。


「姫路さん!」

「倒し行かないの?」

「えぇ、ちょっと」


 姫路さんの耳元で愛を囁きたい衝動に駆られるが、それは我慢だ。それに愛を囁くには段階を踏まなければならない!


「そっちの2人、たぶんこのカメの倒し方知っているんですよ。で、頭は危険みたいなんです……。通話してもらえませんか?」

「へぇ! わかった! ありがとう」


 姫路さんがケントたちへの通話しているころ、俺はフルダイブをオフにして、スリープタートルを検索する。

 が、曖昧だな。カメの攻撃方法が詳しく載っているわけじゃなく、むしろスリープタートルがどのような存在であるか、ということが書かれている。


『基本眠っていて、起きているときはその重さを利用したスタン攻撃。ダメージは大。だが、攻撃は緩慢で、非常に倒しやすい。フィールドボスになった場合、位置取りさえ間違えなければ、倒しやすさは全モンスター中一番だ。なお、スリープタートル眠っている理由の大半は――』

あぁ、これか!


「姫路さん、ブレスがきますよ! 睡眠ブレス!」

「え! 本当っ?」

「ケントに叫んでもらいましょう。離れろって」


 俺の言葉を受けて、慌てる姫路さんと、舌打ちする脇の2人。コイツらぁ! 責めはしないが、敵愾心はこっちだって一杯だ。舌打ちされる云われはない。


『――なお、スリープタートルが眠っている理由の大半は、自分の睡眠攻撃を、鼻から吸い込んでしまうため』


 なんてドジっ亀だ!

 ウェブページを閉じて、フルダイブする。

 肌に風のあたる感覚が戻ってきた。と、同時に俺は走り出す。しかしどこまでがブレスの範囲になるかわからない。


 〈睡魔〉に襲われると、急激に動きが鈍くなる。睡眠攻撃と言わず、長時間ログインしていると〈睡魔〉状態になるのだが、それは運営側からしたら、重度のネットゲーマーを休憩させる最終手段として用意したのかもしれない。

 だが、ここはフィールドだ。

 そのままログアウトすればアバターはそのまま残ってしまい、キルされるだけ。かといって〈睡魔〉状態のまま戦えば、スキルもまともに使えなくなり、最終的には〈睡眠〉状態に変更されて、戦闘続行不可能だ。揺すれば〈睡眠〉が〈睡魔〉状態まで落ち着くが、ちゃんと〈睡眠〉させるか、魔法で解除するくらいしか、〈睡魔〉を消すことはできない。


「あ、やべぇ!」


 スキルを弄りながら走っていると、いままで見たことのないモーションに入ったスリープタートル。俺の攻撃は間に合わないだろう。

 〈鷲の目〉でケントたちの行動を確認するが、余裕で逃げおおせる距離とは言えない。蜘蛛の子を散らすように、みんなバラバラに逃げているが、アイツのブレスはどんな範囲なのだろうか。あのデカさ、そして経験者が離れたあの位置から考えて、俺も食らうのではないかと不安になる。


 息止めていれば大丈夫なのかな――そう考えていた俺は、実に浅慮だった。


 スリープタートルは、後ろ足に体重をかけ、前足を持ち上げ、グググと全身を使って首を天高く伸ばしていく。

 デカい! あと怖い!

 緩慢な動きにも関わらず、その動作には明確に生き残ろうとする意思があるように思えた。そしてあの高所から繰り出されるブレス……。どんな範囲か想像もつかない!


 ブペッ――!


 あの高所から繰り出されるブレスの破壊力は……えっと、んっと、ブレス?


 あ……ありのまま、今、起こったことを話すぜ!

 アイツ、天高く唾吐きやがった。


 ビチャビチャビチャと、雨のように緑色の唾が降り注ぐ。すぐさまラージシールドに隠れたが、俺の巨体が半分以上は見えている。〈防御範囲〉がなければ、ケントたちのように、俺も唾の餌食になっていた。そのケントたちは足を引きずりながら必死に移動しているが、しっかり〈睡魔〉状態だろう。南無三。

 俺は盾に隠れながら近づくが、スリープタートルはすでに後ろ左足からバランスを崩して倒れ込もうとしている。これじゃ、本当に姫路さんや後ろ2人以外全滅してしまう。


 上に向ける盾を、ラージシールドからレザーバックラーに変更する。唾の雨も落ち着き始めているので、俺にとっては向かい風だ。


 ケントたちの集団とは距離はあったが、俺はラージシールドを思い切り振るう。


 なにかに当たった感触とともに、ゾンビように移動していた数人のプレイヤーが、ゴロゴロと転がっていく。


「いてぇ!」

「うおっ!?」

「デスしたくなきゃ走れ! 誰か抱えてやれー!!」


 俺から〈スタンアタック〉を受けた2人のプレイヤーは、〈睡魔〉状態を 〈気絶〉状態に上書きされながらも、よたよた走り出す。さっきよりはスピードアップしたことで、成功を確信する。

 実際〈気絶〉状態にする必要はない。もともと〈スタンアタック〉で〈気絶〉する確率なんて10パーセント以下だからね。ようは、〈睡眠〉を上書きできる異常攻撃を付与させた武器で殴ればいいのだ。

 この方法を確立させたことで、俺の両親は24時間以上ぶっ通しで遊び続けることに成功している。


「ぐはっ!」

「ひでぇ!」

「走れ走れー!!」


 〈防御範囲〉でラージシールドを振るうことで、2m以上のレンジを手に入れた〈スタンアタック〉は、ドコドコとプレイヤーたちの〈睡魔〉を打ち消していく。楽しい。

 これほど合法的にプレイヤーを攻撃することなんてないだろう。ニヤニヤしていた俺にとって、予想外の自体が起こった。


 俺のパーティーメンバーがまとまっていたので、ラージシールドを振るったところ、ミシィ! と大きな音を立てて、ラージシールドが砕けってしまった。


「だぁこなくそ!」


 ケントたちを見ると、幸い全員吹き飛ばせたようだ。その表情は非常に不愉快そうではあったが、命の恩人だぞ。ラージシールド買ってよね! さて俺も離脱しよう。

 スリープタートルの落下地点を想像しながら離れると、途中〈睡魔〉を通り越して〈睡眠〉しているプレイヤーを発見する。


 これから起こる事象を考えれば、俺はここでこのプレイヤーを助けるべきではなかった。後悔はいくつかある。

 ――発見しなければ良かった。

 ――助けようとしなければ良かった。

 ――攻略のしかた知っている2人に、最後までくっついていれば良かった。

 などなど。


 ラージシールドがなくなったので、横に倒れているプレイヤーをすれ違いざまに、拳を使って吹き飛ばした。

 だって、抱え直したら俺も亀の下敷きになりそうだったから。


『〈破戒僧〉を取得しました』


 視界を邪魔するメッセージに違和感を覚えながら、俺は〈無手威力Lv38〉〈一点突破〉〈鉄拳〉を付与させたグローブで殴りつけたプレイヤーのほうを見ると――あぁ、綺麗な消滅エフェクトを撒き散らせながら、消えていく最中だった。



「うわああああああああああああああ!!!!!!!」



お気に入りに入れてくださっているユーザーがとうとう1000人に達しました――

評価してくださった方々も90人を超えていて――


PCの前でしばらくその数字に見とれていたら、バレンタイン過ぎていました

読んでくださったユーザーの皆さまからのプレゼントだと思って、完結させるまで書いていきますので、よろしくお願いいたします!!


ありがとうございます!!



※数字言うとイヤラしいんですかね……お気に入り解除する方が増えて心が折れそうに。いや、単純に飽きられただけですよね!…………うぐぐ

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