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いや、実に面倒くさいクエストだった。
なにせ拘束時間が長かった……。
「ウキィ!! ウキィイイイ!」
「んだとエテ公! そんな理由で畑荒らすだけ荒らしやがって! 先生! お願いします!!」
先生――と呼ばれ、いままでの面倒なクエストを思い返しながら、俺は立ち上がった。
受けたクエストは5つ。
1つ目は、〈ネンベッツァ〉周辺のスライム狩り。これは簡単だった。スキルのレベルもあげることができたので、あぁ、こんなに簡単なら最初の街で戦闘ギルドのクエスト受けるべきだったな、と、そんな勘違いをしてしまうくらいだった。
2つ目は、やはり〈ネンベッツァ〉周辺のモンスターを狩る作業。スライム狩りの合間にやっていたので、いうほどの負担ではなかったが、ミーアキャットのような集団で近づくだけで警戒されて逃げられる。〈瞬足〉がなければイライラしていたことだろう。
3つ目は護衛任務。〈セントラルライセンス〉付近の、NPC村までNPCを護衛するのだが、走れよ! って思うくらい足の遅い農家のおっさんに、30分ほど付き添いながら歩くだけである。モンスターも通常通りしか出ないため、気を紛らわすことすらできない。ちなみに戦闘は2回だけだった。その2回で、走るなよ! って叫ぶほどNPCが後退する。非常に気だるいクエストだった。
そして4つ目の、これまた護衛任務。
NPC村の畑を荒らす、そこそこ知能の高い猿の群れを撃退することである。猿を待つこと1時間。ようやく畑を荒らしにきてくれた猿たちを討伐しようと立ち上がったが、村長にたしなめられた。
「いけませんよ冒険者さん。我々には言葉という戦術があるのですから」
NPCの村長は、どんなスキルがあるのか猿と話し合いを始めた。それを5分以上見せられ、ここでようやく俺は、先生――と呼ばれることになる。
鬱憤を晴らすように、畑を舞台に大立ち回りさせていただいた。
「ありがとうございました。おかげで猿に畑を荒らされずに済みました」
「いえいえ。冒険者として当然のことをしたまでですよ! ははっ!」
白い歯を見せながら、畑を踏みにじりながら、NPCの村を去る。猿だけにってね、ははっ!……ははっ!
ちなみにではあるが、畑を荒らしすぎたかな? と後ろをチラリと見ると、畑はその緑を取り戻していた。うん。ゲームで良かった。
ゲームで良かった……そう考えながら、一つ思い出す。
この〈Dragon of Licence Online〉というゲームが、MMOであるということだ。
なぜ俺は誰とも一緒に行動していないのだろうか?
でなければ、なぜ誰とも遭遇しないのだろうか?
バグか、それとも運営からの罠なのではないだろうか?
フィールドでモンスターを倒しながら、切なくなってきた。
一度フィリップに通話を入れてみる。
『相川さんいまなにしてるのー?』
『ギルドのみんなと料理挑戦中ー! あたしの工房、キッチン拡張しすぎちゃっててさー。もー毎日アメリカの通信販売みたいになってるんの!』
『ああ、なんか、ごめんね』
『いいよいいよー。それより今度おいでねー。料理教えてあげるから!』
二言三言とは、こういうものを言うのか……。
『あ、もしもしヒイラギくん?』
『クロカゼさんですか? あ、いまクーと一緒に――って突っ込んじゃダメだよ! すみませんまたあとでっ』
一言とは……。
晴天を見上げ、綺麗な空気を大きく吸い込む。
『〈孤高の人〉を〈山頂の挑戦者〉に変更しますか?』
高みに行っちゃうよおい!!
綺麗な空気は全部吹っ飛んだ。
孤独で頑張ること2時間半。腹も減ってきたので、一度街に戻ることにした。
4つのクエスト報酬を受け取り、次の街に行く算段をつける。
手始めに、これまで増えたライセンスとスキルを、一度整理しておこう。
ライセンス
〈盾使い〉〈剣士〉〈モンク〉〈山頂の挑戦者〉〈ボディービルダー〉〈初級鑑定士〉
〈ターザン〉
スキル
基礎
〈戦闘〉……敵と戦闘になった場合、攻撃ができる。
〈探索〉……フィールドで街道を外れることができる。
〈歩行〉……移動する速さがアップする。
〈作成〉……日用品、回復薬などの調合ができる。
〈育成〉……家畜を育てることができる。
盾
〈シールドバッシュ〉〈盾威力Lv18〉〈自動防御Lv7〉〈防御Lv18〉
〈防御範囲Lv25〉〈盾カウンターLv6〉〈スタンアタック〉
剣
〈一刀両断〉〈剣威力Lv12〉〈チャージスラッシュ〉〈五月雨〉
〈剣カウンターLv2〉〈スラッシュ〉〈受け流し〉
無手
〈クロスカウンターLv1〉〈一点突破〉〈ラッシュ〉〈鉄拳〉
〈無手威力Lv38〉〈コンビネーション〉
鈍器
〈打撃威力Lv2〉
補助
〈被衝撃軽減Lv3〉……受ける衝撃を軽減する。高レベルほど効果が上がる。
〈被ダメージ軽減Lv2〉……受けるダメージを軽減する。高レベルほど効果があがる。
〈鷲の目〉……遠くを視覚化できる。
〈深呼吸〉……息を吐き続けている限り、攻撃力が上がる。
〈森の人〉……森フィールドで、隠密行動が可能。第六感が発動しやすくなる。
〈クライミング〉……多少の出っ張りがあれば壁移動できるようになる。
〈猪突猛進〉……ソロで戦う場合、攻撃力が上がる
〈アクティベーション〉……身体を活性化させ、攻撃・防御を高める。
〈跳躍力Lv7〉……ジャンプ力があがる。高レベルほど効果がある。
〈マッスル〉……ポージングより効果が変わる。見せる人数によって向上する。
〈鑑定〉……鑑定済みアイテムが目視できるようになる。
特殊
〈調合Lv1〉〈調理Lv1〉〈孵化〉〈ダッシュLv15〉→〈瞬足Lv7〉〈採取〉
〈鉄加工Lv1〉〈革加工Lv1〉〈骨加工Lv1〉〈石加工Lv1〉
おお、盾スキルは揃ってきたな。盾ライセンス〈守人〉の取得まで、本当にあと少しだ。
メモ機能を用意し、今後のライセンス派生と、スキル条件を書き出していく。
〈盾使い〉→〈守人〉→〈守り手〉→〈守護者〉→〈守護神〉
〈剣士〉→〈剣豪〉→〈剣聖〉→〈剣王〉
〈モンク〉→〈修行僧〉→〈破戒僧〉→〈ファイター〉
戦闘職はこんなものか。〈モンク〉がどんどん落ちぶれていっているように見えるのが、ものすごく気になる。
ちなみに、双剣を使いこなせれば〈双剣使い〉にも派生できるし、そのまま上記のライセンスも取得できる。〈魔剣〉なんちゃらというライセンスもあるそうだ。
〈モンク〉もPKさえしなければ、そのまま〈僧侶〉や〈牧師〉〈神父〉などの職業のライセンスを取得できる条件の一つになるそうだ。そうすれば復活呪文とか使えるようになるのか。そう思うと、PKする気満々だった俺の心も、すこし揺らいでしまう。
問題は盾のライセンスだ。〈守人〉のライセンスの開放条件が、周囲のプレイヤーの護衛……。あの森でヒイラギくんとクーの補助に徹していれば、いまごろ〈守人〉を取得していたのだろうが、失敗してしまったな。
まぁ、ボッチはいまだけだし、進めていけばそのうち取得できるだろうと高をくくろう。あとは〈弓使い〉と〈槍使い〉と〈騎乗〉のライセンスがほしい。とりあえず、〈準騎士〉だけを目標に頑張ろうじゃないか。
膝に抱える卵がコツコツ動いているのは、とても微笑ましかった。
ログアウトして、陽の光で目を焼かれる。
なるほど15時か。脱水症状で死ななくて良かったよ。暑さと扇風機の風で、喉がカラカラになっている。
「腹、減ったな」
トイレに寄って、一階に降りる。父親の寝言を聞きながら、母親には内緒で冷凍食品を食べたった。
家族はそろってゲームの中だ。こっちは思うようにライセンスを取得できないというのに……。
〈Dragon of Licence Online〉にログインし直して、先ほどのメモを見返す。スキル会得だけなら、弓をもって森にこもることが一番いいのかもしれないが、そのやり方では家族とのライセンスの差が広がるだけだ。
5つ目のクエストは明日行われるので、とりあえず自室の工房を開発しようじゃないか。扉に手をかけると、
『50000kで工房を購入しますか?』
即答だ。所持金が底をついたが、ようやく購入することができた。
ドアノブを押す――おお、なんか感動ですな。
かびの臭いが鼻につく。なるほど、ミクリはこの臭いが嫌で窓を開けたのか?
両開き戸を開け、部屋を見渡す。
決して綺麗ではないが、ミクリの部屋と比べてさほど性能の差があるようには思えない。カマド、棚、机、カマドの近くには水道も用意されている。器具はそこそこあるが、NPCの店でいろいろ売っていたことを考えると、本当に最低限しか用意されていないのだろう。
机の上の箱を開けると、裁縫道具が入っていて、リアルすぎやしないかと切なくなった。
あ、忘れていた。
壁に引っかかっている人形の前に立つ。おそらく、工房専用のNPC。人形にしたことで、触っても怒られないNPCになっているのだろう。手に取った瞬間、首と胴体をつないでいた糸がほつれ出して、ゴソっと落ちた。
「うおおおおおおお!!!?」
怖いわっ! なんなんだよこのゲームのNPCは!
心臓がバクバクと脈打つなか、人形の胴体と頭を机の上に置く。
うむ、完全にチュートリアルですな。
棚も見ておきたかったが、とりあえずは〈布加工〉の仕組みを理解させていただこう。
箱から針と糸を取り出して、首を縫い付けることにしよう。
えーっと、大丈夫、中学のとき被服で多少は習っている。だから落ち着こう俺。糸を針に通して、ん、通らない、あぁ糸が解けた、舐めていいのか? お、糸がまとまった、糸を通して、お、できた、糸を指に絡めて、コロコロってやって、えっと、お、結べた、ふぅ…………よし!
「どうもー。この狩場一緒していいですかー?」
「どうぞー! パーティー組みますー?」
街の外れで、新人たちと戦いを楽しむことにした。
〈守人〉のライセンスも取得して、新人たちと手を振って別れたあと、俺はもう一度部屋に戻ってきた。
いやー、ライセンス取得はラッキーだったな。しかも、俺新人の中だと結構強いのね! ニヤニヤと笑いながら工房に入ると、夕日に照らされた部屋の中――
差し出すように首をもつ、直立不動の人形が立っていた。
俺はログアウトした。
お気に入りにしてくれている方と、評価してくれている方がどんどん増えて
いて、すごい励みになります! ありがとうございます!
指摘いただいたのですが、
ジャンル『ファンタジー』から『SF』にしたほうがいいんじゃないか
とのことでした。
しかし、途中で変えていいものなのかどうか……誰か教えてください!
あとレベルあるじゃん! って怒られました。本当にすみません!




