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青い鳥が連れてきた結婚相手  作者: 都宮 アキ


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2/2

青い鳥が連れてきた結婚相手【後編】

後編になります。

 キャロラインの父親は家族が寝静まった頃、一人、書斎で手紙を書いていた。


 内容は親戚に借金を依頼するものだった。


 ペン先が金額の部分で止まる。



(薬代を一か月分……いや、半月……十日……返済のことを考えると、あまり無理はできんな……)



 これまで何度も借金を繰り返している。

 幼い子のためだから仕方がないと親戚も多めに見ていてくれているが、ここ最近は態度が冷たい。


 あまり大きな金額を言って断られたらと思うと、金額に悩んだ。


 そんなときにモールトン家の玄関のドアノックが叩かれた。

 静寂を破るノック音は使用人がいない屋敷に何度も何度も響く。


 その音は書斎まで届き、父親はこんな夜更けに誰だろうかと思った。

 父親はペンを置くと玄関に向かった。

 その間もドアノックが続く。

 父親はドア越しに誰何の声を投げかけた。



「誰だね」

「――夜分遅くに失礼。僕はノア・ハイウェルと言う。キャロライン・モールトンを嫁に貰いに来た」



 初めて聞く男の声だった。

 声の感じから歳は若そうだ。


 しかしそれより何よりノアという男の発言に父親は目を瞠った。

 それから怒りがふつふつと沸き起こった。



「何を馬鹿なことをっ! キャロラインを嫁に?? 野菜の注文じゃないんだ! いきなり来て、そんなことを言ってまかり通るわけがないだろう!!」

「非礼は詫びる。だが、どうしてもキャロライン嬢が嫁に欲しいんだ。その代わり、支度金は言い値で払おう。僕にはそれだけの財産がある」



 ノアは堂々とした態度でそう言い切った。

 憤慨していた父親はそれに虚を突かれて少し冷静になる。


 財産があるノア・ハイウェル。

 それに父親は心当たりがあった。



「ノア・ハイウェル……もしや、天才魔術師のノア・ハイウェルか!?」



 弱冠十歳にしてすべての魔法を習得し、いくつもの魔法を開発したと言われている希代の魔術師。

 歳は確か、今年で二十歳だと聞いていた。


 父親からの問い掛けにノアは即答した。



「ああ、そうだ」

「……まぁ、話を聞くだけならいいだろう。入ってくれ」



 有名人ということもあって父親は気が変わったのか扉を開けた。


 するとそこにいたのは噂に違わぬ二十歳ぐらいの男だった。

 魔術師らしく黒いローブを身に着け、手には魔石がはめ込まれた長い杖を持っていた。

 背は高く黒髪で、目が悪いのか眼鏡を掛けていた。


 父親はノアを応接間に通した。



「それで、支度金は言い値で払うと言ったが、本当に言い値かね?」

「ああ」



 ノアはあっさりと答えた。


 父親はこれに思案する。


 キャロラインを嫁に出すということはこの家の家事の担い手がいなくなってしまうということだ。

 使用人の仕事をタダで押し付けられる存在がいなくなるのは痛い。


 だが、支度金を使えば借金が返せる。

 いやそれどころかシャーロットの薬代も気にしなくていい。

 売り払った数々の家財も買い戻せる。


 そんな思いから父親は一瞬にして必要な金額を計算し、ノアに恐る恐る尋ねた。



「……それなら、二千万はどうだ?」



 父親が提示した金額にノアは眉を顰めた。



「随分吹っ掛けるな。一般的な支度金の二十倍じゃないか」

「娘に価値を付けられるわけがない、というものだろう?」

「なるほど……それはもっともだ。――いいだろう。その額を払おう」

「何っ!? 本当にいいのか!?」

「ああ。男に二言はない」



 そう言ってノアは目の前のテーブルの上にローブの下から出した透明な石を置いた。



「これは僕が作った魔石だ。売れば、軽く二千万にはなるだろう」

「これが、二千万……」



 父親は「失礼」と断って魔石を手に取る。

 魔石をランプの明かりで透かして見れば中には複雑な魔方陣が組み込まれていた。


 魔法知識に明るくない父親が見てもそれが高級品ということが分かった。



「見る奴が見ればもっと高値を出すかもな」

「――待っててくれ。娘を呼んでくる」



 父親は応接間を出ると飛ぶようにしてキャロラインの部屋へと向かった。

 そして外から掛けておいた鍵を開け、ベッドで寝ているキャロラインを起こしに掛かった。



「キャロライン! キャロライン! 起きなさい!!」

「ん……ぇ、おとうさま……?」

「お前を嫁に貰いたいという人が来た! 早く起きて部屋を出なさい!」

「ま、まってくださいっ。……えっ、嫁? 私を? いったいどなたが?」

「お前も名前くらいは聞いたことがあるだろう。天才魔術師のノア・ハイウェル殿だ」

「ノア……ハイウェル……え、ええ、聞いたことがあります。確か宮廷魔術師様ですよね? どうしてそんな方が私を……? 何かの間違いでは?」



 寝起きのキャロラインは父親の言葉を理解するのもやっとという感じだった。

 それが父親にはじれったかった。

 父親はキャロラインの腕を掴んでベッドから引っ張り出した。



「いいから来い!」

「痛っ! お父様、そんなに引っ張らないでっ……!」

「お前が愚図だからだろ! 早くしろ! ハイウェル殿がお前を望んでいるんだ!! お前のつまらん疑問は捨て置け!!」

「やめて、お父様、自分で歩きますから、そんなに引っ張らないでっ」



 父親は引きずるようにしてキャロラインを部屋の外へと連れ出した。

 その騒ぎを聞きつけてか、隣の部屋の扉が開いた。



「――……どうされたの?」



 寝ぼけ眼のシャーロット。

 シャーロットは目を擦りながら父親とキャロラインの姿を見つめていた。


 父親はシャーロットの質問に得意満面の笑みで答えた。



「キャロラインを嫁に取りたいという方が来たんだ」

「お姉様を? どなたなんです?」

「天才魔術師のノア・ハイウェル殿だ」

「えっ!? なんでそんな凄い人がお姉様を選んだの!? お姉様、知り合いだったの!?」

「い、いいえっ! お会いしたことも無いわっ!」

「なんでそれで選ばれるのっ!?」



 シャーロットはキャロラインを睨む。



「ずるいわ! 私がお嫁さんになりたい!」

「シャーロット、ノア殿はキャロラインを望んでるんだ。それは無理だ」

「そうかしら? ノア様が私を知ったらきっと結婚したいって言うに決まってるわ」



 父親はシャーロットの言葉に戸惑った。

 確かに、シャーロットは父親の目から見ても美しい少女だ。


 しかし、ノアはキャロラインを所望している。

 下手なことをすると大金が手に入らなくなる可能性がある。


 父親がそんな風に思案していたときだった。

 シャーロットが明るい声を上げた。



「そうだ! お姉さまが会ったことないというのなら、ノア様はお姉さまの顔を知らないはず。だったら、私がお姉さまとして結婚すればいいのよっ! あぁ、なんて素敵な考えかしら!」



 自分の考えに酔いしれるシャーロット。


 だがその提案を聞いてキャロラインはぎょっとする。



「そんな騙すようなことはできないわっ!」

「どうして? だって、体は弱いけど、私はお姉さまより若くて可愛いのよ? 私と結婚した方が絶対にいいじゃない!」

「シャーロット……」



 妹の態度にキャロラインは言葉を失った。



(こうなってしまってはもうシャーロットは止められんな……まあ、落ち着いて考えてみればシャーロットの考えも悪くないかもしれん……ノア殿が顔を知らなければ入れ替わっても気づかれんだろう……)



 父親はそう結論付けた。

 そして覚悟を決めるように溜息をついた。



「……シャーロットの言う通りにしよう」



 そうしてキャロラインの腕を放した。



「キャロライン、お前は部屋に戻れ」

「……分かりました」



 父親はキャロラインがおとなしく自室に戻るのを確認したのち、元のようにドアに鍵を掛け、シャーロットを連れて一階の応接間へと向かうのだった。







(……騙すようなことをして本当に大丈夫なのかしら……)



 部屋に戻されたキャロラインは眠れずにベッドに腰掛け、ハンカチで包んだ青い鳥をゆっくりと撫でた。

 もうすっかり体は冷たくなっている。

 その事実にキャロラインはまた涙が込み上がってきた。



(ブルー……ごめんなさい……あなたのことを守れなくて……どうか、天国で幸せに暮らしてね)



 そうやって失われてしまった小さな命を悼んでいたところ、部屋のドアが突如激しく叩かれた。



「――キャロライン! いるんだろう!! キャロラインっ!!」

「えっ……?」



 知らない男性の声が自分の名前を呼んでいる。

 キャロラインは訳も分からずドアの向こうに聞こえるように声を上げた。



「えっ、ええっ、私はここにいるわっ」

「ああ、良かった! ここを開けてくれ!」

「私には開けられないの。外から鍵が掛かっているから……」

「分かった。――ドアから少し離れていてくれ」



 そう男が言ったかと思うと、ドアノブがぐにゃりと歪み、泥のように溶けてしまった。

 キャロラインはそれに驚いていると、ドアが大きく開かれた。



「キャロライン、やっと会えたっ!」



 入って来たのは身長が高い黒髪の魔術師の恰好をした若い男性だった。


 知的な雰囲気をまとった素敵な男性にキャロラインは一瞬心を奪われかけた。

 だが、疑問の方が強かった。


 彼は自分を知っているようだったが、キャロラインにはまったく見覚えがなかった。



「……どなた?」

「僕はノア・ハイウェルだ。君を助けに来た」



(この方が天才宮廷魔術師様……でも、私を助けに来た? どういうことなのかしら……)



 キャロラインの疑問はますます深まるばかりだ。

 そこへ廊下の向こうからドタバタと足音を立てて父親がやってきた。



「ノア殿、困りますっ! 家の中を勝手に動き回られてはっ!!」

「ハッ! 妹を姉だと偽って何を言う。こうでもしなければキャロラインには会えないだろう」



 息せききってやってきた父親。

 ノアはそんな父親を鼻で笑い、それから鋭い視線を向ける。


 そして父親から遅れて呼吸を乱したシャーロットもキャロラインの部屋に辿り着いた。



「はぁ……はぁ……ノア様……待って、ください……」



 体が弱く、体力のないシャーロットは一階から二階へ急いできたせいで息も絶え絶えといった感じだった。


 ノアはシャーロットの姿に眉を顰めると、杖を一振りさせた。

 するとシャーロットも父親もその場でぴたりと動きを止めた。

 だが、目だけはキョロキョロとしている。


 その異様な姿にキャロラインは思わずノアに問いかけた。



「何をしたの?」

「意識はそのままに体の動きを止めたんだ」

「どうして……」

「この二人は少しうるさ過ぎるからね。君とゆっくり話したかったんだ。なに、五分もすればまた動けるようになる」



 ノアはそうしてキャロラインに笑いかけた。

 眼鏡の奥の瞳が嬉しそうにしていた。



「まずは礼を言わせてくれ。あの青い鳥――君で言うところのブルーを助けてくれてありがとう」

「魔術師様の鳥だったんですね。……でも、私がブルーと名付けたのをなぜ知っているんですか?」

「ノアでいい。――あの鳥は僕の魔法で生み出したものでね。僕の目となり耳となり、あらゆる土地を偵察に行ってくれていたんだ。その最中に鷹に襲われて怪我をして飛べなくなってしまったんだ」



 ノアはなんてことないようにキャロラインに説明した。

 しかし、そんなこと普通はできない。


 キャロラインは心の底からノアを尊敬した。

 それと同時に急に恥ずかしくなった。



(ということは、私のつまらない愚痴を聞かれていたのね……)



 家庭の事情を人様に聞かれたなんて。

 キャロラインは顔から火が噴出しそうだった。


 それから慌てて枕元に置いてあったブルーを手に取りハンカチに包んだままノアに差し出した。



「ごめんなさい……ノア様の大切な鳥を死なせてしまって……」

「大丈夫。魔法で生み出したって言ったろ? 僕の魔力を注げば――」



 ノアがハンカチに手をかざした。



復活魔法(リザレクション)……」



 ノアの落ち着いた声が静かに部屋に広がる。

 するとハンカチは眩い青い光に包まれた。


 キャロラインは堪らず空いている方の腕で目を覆った。

 やがてハンカチが何やら温かくなってきた。

 それからもぞもぞと動くような仕草をする。


 キャロラインが目を開くと、ちょうどハンカチの中から嘴を使ってブルーが起き上がってくるところだった。



「ブルー!」

「ピィ!」

「ああ、良かった! 本当に良かった……っ!」



 キャロラインはブルーが動き出したことに喜び涙を流した。


 ノアは微笑んで、そうして部屋の奥にある窓を大きく開いた。

 強い風が中に入り込んでくる。


 カーテンがはためく中、ノアは言った。



「さぁ、行こうか。キャロライン」

「ピィ!」



 ブルーはキャロラインの手から飛び立ち窓から飛び出すと瞬く間に巨大な鳥になった。

 ノアは窓の桟に乗り、キャロラインを誘い出すように手を伸ばす。


 キャロラインは差し出されたその手を取ろうとして、そして一瞬迷い手を引っ込めた。


 ――ノアと共に行く。

 となれば、もうこの家に帰ってくることはなくなるだろう。

 そうしたらこの家は一体どうなってしまうのだろう。


 そう思うとキャロラインは気安くノアの誘いに乗れなかった。


 ノアはそんなキャロラインのことを急かさず根気よく手を差し出し続けた。


 そしてキャロラインが迷い続けていると、



「なによこれっ!! ふざけてるわっ!!」



 父親より先に魔法が解けたシャーロットが叫んだ。

 シャーロットの下半身はまだ魔法が掛かったままで動けないようだが動く上半身は癇癪を起したように激しく腕を振っていた。



「私は愛される存在なのに、なんでお姉様がノア様に選ばれるのっ!?」



 顔を真っ赤にし、髪を振り乱しながら叫ぶシャーロット。

 シャーロットはキャロラインのことを恨みがましい目で見た。



「お姉様は私の世話係なのに、こんなことありえないわっ!!」

「……あなたはそんな風に私のことを思っていたのね」



 キャロラインはすっと頭が冷えた気がした。


 ずっと家族の一員として、家族のために、家族を支えてきたのに。

 実の妹からそんな風に思われているとは思わなかった。



「……私は、あなたのことを思ってこれまで色々としてあげていたけど、どうやら間違ってたみたいね……」

「何を言っているの? お姉様が間違っているのはいつものことじゃない。だから、ノア様と一緒に行くなんて絶対にしちゃダメよ! それこそ間違いなんだから!!」



 シャーロットの言葉にキャロラインの心はどんどんと離れていく。

 目の前の妹が知らない人のように見えた。



「間違ってるのはあなたよ、シャーロット」

「はぁ?」

「病気だからとこれまで多めに見てきたけど、人を気遣う気持ちや常識が無さすぎるわ。そろそろあなたも大人になるべきよ」

「仕方がないでしょっ! 私だって好きで病気になったわけじゃないんだから!!」



 シャーロットが叫んだ。



「私は人の手を借りなければ生活もやっとなの! じゃあなに? そんな私は人に謝り続けなければ生きていけないの? 感謝し続けなければいけないの?」

「病気とは関係なく、人との関りには気遣いが必要よ。それに、病気だからと何をしてもいいわけじゃないわ」

「そんなことないわ! お姉様は間違ってる!!」



 シャーロットはもう聞く耳を持っていなかった。


 キャロラインは自分の言葉がシャーロットの心に届かないことにもう何も思わなかった。



「ねぇ、ノア様、そうでしょう? お姉様が間違ってるわよね??」

「いいや。世間一般的に君が間違ってるよ。言うことを聞かないからと鳥の首を絞めて殺すのも普通じゃない」

「なっ!?」

「でも、確かに君は哀れだ。病のせいで普通の生活が送れないんだから」



 ノアはそう言って、杖をシャーロットの向けた。



「だから、僕が治してあげよう――完全治癒魔法(ケアプリート)

「きゃっ!? な、なにっ??」



 するとシャーロットの体が青い光に包まれる。


 ノアは杖を下ろし、そして口を開く。



「どうだい? 僕の魔法で完全治癒させたから、もう病弱なんて言わせないよ」

「治った……? 本当に??」

「もちろん」

「本当に、治ったんだ……私、これで健康になれたのね!」

「ああ。――だから、これから君は言い訳が使えなくなるよ」

「? ……言い訳って?」



 喜んでいたシャーロットはノアに怪訝そうに見つめた。

 ノアは愉快そうに笑った。



「病弱っていう言い訳だよ。今まで病気のせいにしていろんなことから逃げられただろうけど、これからは自分でやらなくちゃならない」

「えっ……?」

「甘やかされた君にとってこれからは大変だろうね。僕は君のことを哀れに思うよ」

「そんな……」



 シャーロットはちらり、と隣にいる父親の姿を盗み見た。

 父親の方は魔法の掛かりが強いのか未だ硬直している。


 だが、唯一動く目が雄弁に物語っている。


 シャーロットは焦り、助けを求めるようにキャロラインに手を伸ばした。



「お姉様! どこにも行かないわよね!? 私の側にずっといてくれるわよね!?」



 キャロラインはその姿を見て、ニコリと微笑んだ。



「もうこの家には私がいなくても大丈夫ね」



 そしてくるりと身を翻し、キャロラインはノアの手を取った。



「ノア様。よろしくお願いします」

「ああ」



 ノアはキャロラインの体を抱き寄せると、飛翔魔法(フライ)を使ってブルーの体に乗り移った。

 そして自分の前にキャロラインを座らせると、そのままブルーの体を叩いた。


 次の瞬間、ブルーは大きく翼を打った。



「じゃあね、モールトン伯爵、そして、妹君。キャロラインは貰っていくよっ!」



 ノアはそう言い残すと、ブルーが空高く飛んだ。

 キャロラインが振り返ると窓辺には呆然と立ち尽くすシャーロットの姿があった。


 こうして空から見ると小さな屋敷だった。



「……君はもう自由だ」



 風を感じていたキャロラインにノアは言う。



「だから、君の自由にしていいよ」

「でも私はあなたのお嫁さんになるんでしょう?」

「それは君をあの家から救うための方便だよ。君を助けるのに、それしか方法が思いつかなかったんだ」



 ノアの言葉をキャロラインは一瞬信じた。

 だがそれにしては背中越しに伝わるノアの心臓の音がやけにうるさいように思えた。


 振り返ると、ノアは頬を染め顔を背けていた。



「……じゃあ、あなたは私をお嫁さんにはしてくれないの?」

「……こんな魔法馬鹿の嫁なんて、君が苦労してしまうよ」

「そうかしら? あなたのお嫁さんなら苦労も楽しそうだわ」

「……」

「それよりも、私は家事くらいしか取り柄がないから結婚しても楽しくないかもしれないわね」

「いいや、君にはたくさんの取り柄があるよ」



 そっぽを向いていたノアがキャロラインに向き直り、眼鏡越しにキャロラインの瞳を見つけた。



「ブルーの目を通して君の優しさに触れて惹かれた。もちろんそれだけじゃない。君の声が好きだ。君の笑顔が好きだ。家族に冷たくされてもそれでも懸命に仕事をこなす健気さに惚れた」



 ノアの言葉に熱がこもる。

 キャロラインの耳にもその熱が移った。


 見つめ合う二人。


 ノアはキャロラインの手をそっと取った。



「それなりには有名だけど、僕は魔法しか取り柄のない魔術師だ。それでも君が許してくれるなら、僕の妻になってほしい」



 ノアの目が嘘を言っていないのが分かる。

 キャロラインは自分の行いを見られていたことに恥ずかしさと誇らしさを感じた。



「――……私のことを知ってくれて愛してくれるというのなら、私はあなたに一生ついていきます」



 キャロラインはノアの瞳を見ながら手を優しく握り返した。


 空を飛ぶ青い鳥に乗りながらキャロラインはノアに抱きしめられる。


 キャロラインは目の前に広がる景色を見つめ、ノアの腕の中で笑みを浮かべた。




END

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