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青い鳥が連れてきた結婚相手  作者: 都宮 アキ


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青い鳥が連れてきた結婚相手【前編】

前編は暗めです。苦手な方は後編がアップされてから読まれることをオススメします。

「あら……? あなた、怪我をしているの?」



 キャロライン・モールトンは木立の陰にひっそりと横たわる小さな青い鳥を見つけた。

 折れてしまっているのか翼の一部が血で滲んでいる。


 キャロラインは眉根を寄せて青い鳥の前に跪いた。



「うちへおいで……手当をしてあげる」



 膝の上にハンカチを広げるとそこへ青い鳥をそうっと移した。

 優しくハンカチでその体を包むと、キャロラインは持っていた買い物籠の上にそっと乗せるのだった。


 キャロラインは青い鳥が驚かないように静かに、だが、急いで自分の屋敷へと帰った。



「ただいま帰りました……」



 使用人が使う勝手口から中へと入り、キャロラインは買ってきたものをキッチンに置くと、青い鳥を抱えて二階の自室へと急いだ。


 すると、



「お姉さま、いつ帰ってらしたの?」



 少女に声を掛けられ、キャロラインはぎくり、として慌てて持っていた青い鳥を少女に見られないように隠した。



「……ついさっきよ、シャーロット」

「それならお姉さま、早くオレンジのジュースをちょうだい。私、喉が渇いて仕方がないの」

「え、ええ、分かったわ」

「本当に分かってる? 私、喉が渇いて死にそうよ。すぐに用意してお部屋に持ってきてね。もう私待てないんだから」



 少女――シャーロットはそう言ってキャロラインを追い越した。


 キャロラインはシャーロットの姿が見えなくなってから静かに息を吐き出した。

 青い鳥が妹のシャーロットに見つからなかったことにホッと胸を撫でおろした。


 キャロラインはひとまず自室へと急いだ。

 そして青い鳥のために簡易的なベッドを机の上の果物入れに作りその上に移した。

 それから、すぐさまキッチンに引き返し、買ってきたオレンジを絞ってシャーロットの部屋へと持っていった。



「シャーロット、入るわよ」



 ノックをして中へと入る。

 そうすればベッドに入るシャーロットがキャロラインのことを待っていた。



「わぁ! オレンジジュース!!」

「はい、どうぞ」

「ええ」



 シャーロットはキャロラインからオレンジジュースが入ったコップを受け取るとすぐに口を付けた。かと思うと、すぐにキャロラインに突き返した。



「いらない」

「ど、どうして?」

「だって、まずいんだもの。こんな酸っぱいオレンジジュース、私飲めない」

「でも、せっかく買ってきて作ったのに……」

「とにかく飲めないものは飲めないの!! もういらないから片付けて!!」



 シャーロットがそう叫んだ瞬間、扉がノックされいきおいよく開いた。



「どうしたの!? シャーロット! そんなに大きな声を出して! 体に障るわよ!!」

「お母様! 聞いて! お姉様ったら私に酸っぱいオレンジジュースを飲ませるのよ!! 私は嫌だって言うのに、無理やり飲ませようとするんだから!」

「なんてこと! キャロライン、どうしてシャーロットに意地悪するの!」

「ちがっ! そんな意地悪だなんて、私してない!」

「またそうやって誤魔化そうとして! いつも言ってるでしょ! シャーロットは体が弱いんだから優しくしてあげなさい、って! もしもシャーロットに何かがあったらどうするの!?」

「っ! ……はい、お母様……すみません……」

「私に謝っても仕方がないでしょう」

「……ごめんなさい、シャーロット……味見をしてから作るべきだったわ……」

「そうよ! お姉さまは気が利かないんだから!!」

「次から気を付けるわ」



 キャロラインはそうしてコップを持ってシャーロットと母親がいる部屋をすごすごと出た。

 部屋を出たところでオレンジジュースを飲んでみたが、キャロラインには十分甘く感じられた。


 いつもこうだ。

 この家はシャーロットを中心に回っている。

 キャロラインはやるせない思いを抱きながら隣にある自分の部屋へと入っていった。



「お待たせ……遅くなっちゃったね」



 キャロラインは果物籠の中にいる青い鳥に声を掛ける。



「ピー……」

「痛いわよね。すぐに治療をはじめましょう」



 キャロラインは青い鳥の折れた羽に手を当てる。

 そして、



治癒魔法(ヒール)



 呪文を唱え、魔力を注ぐと、青い鳥の羽がほんの少し光った。

 光が治まると青い鳥は「ピィッ!」と少し元気な鳴き声になった。



「ごめんなさいね……私がもっと魔法が上手ければすぐに空が飛べるようになれたでしょうけど……このくらいしかできなくて」



 キャロラインは青い鳥に謝る。



「毎日、治癒魔法(ヒール)を掛けてあげるわね。しばらくすれば飛べるようになるわ」

「ピィ、ピィ!」



 青い鳥はキャロラインに向かって何度も鳴いて、じっと見つめるようにする。

 その愛くるしい姿にキャロラインは自然と笑顔になった。

 先ほどの出来事でささくれ立った気持ちがほんの少し癒された気がした。







「お父様、今日はお薬買えたの?」



 シャーロットの無邪気な問いかけが食卓に響いた。

 それを受けて、壮年の父親は食事の手を止め、申し訳なさそうな表情になった。



「ああ、ごめんよ、シャーロット。最近薬が値上がりしていてね、中々手に入らないんだ」

「そんなぁ……」

「ねぇ、あなた、なんとかならないの? このままじゃあ、シャーロットが夜苦しくて眠れないわ」



 母親が父親に訴える。

 すると父親は「そうだな……」と困ったような反応をした。


 そんな両親とシャーロットの会話をキャロラインは夕食の配膳をしながら聞いていた。


 父親は顎を撫でながら天井を見上げた。



「何か売れるものがあればいいんだが……キャロライン、何かなかったかな?」

「……お父様、そんなものこの家にはもう無いわ……」



 祖母からの貰ったダイヤのネックレス。

 叔母から貰った異国の人形。

 両親から貰った社交界用のドレス。


 すべてシャーロットの薬代に消えた。



「……残ってるのは土地ぐらいなものです……」

「土地? ダメよ!! おじい様が残してくだった大切な土地なんですもの! それに、土地を売ったら周りからどう思われるか……」



 キャロラインの言葉に母親が猛反対する。

 

 キャロラインはただ事実を言っているだけだった。

 それなのに母親の反応はまるでキャロラインを責めるような態度のもので驚く。


 そしてシャーロットは母親に同調する。



「そうよね、伯爵家の土地を売ったってなったら笑われちゃうわ」

「シャーロットの言う通りよ。物事を分かってるわ」

「……それならお金はどうするつもり……?」



 キャロラインは純粋に質問を投げかけた。


 給金を払えなくなり使用人を辞めさせた。

 節約のため、蝋燭を使わないようにしたり、食費を抑えたりしているが限度がある。



「もう私たちには土地しか残ってないわ」

「だとしても、土地だけは絶対にダメよ」

「そうだわ! 私いい方法を思いついた! キャロラインお姉様が外に働きに出ればいいのよ!!」

「えっ!?」



 シャーロットの提案にキャロラインは耳を疑った。


 働きに出る?

 私が?

 この家の家事はすべて私がやっているのに、さらに外へと働きに出るの?


 家事のせいで社交界デビューも見送った私にそんな時間、どこにあるというの?



「そうね……それはとてもいい考えかもしれないわ、シャーロット。キャロラインは体が丈夫だし、働きに出ればお給金であなたの薬が買えるしね。――ねぇ、あなた、早速、働き口を探してきてくださいな」

「ま、待って! もしも私が働きに出たらこの家のことはどうするの? 家事はお母様がするの?」

「そんなの、お姉様が通いで両立すればいいじゃない」



 シャーロットは困難なことをさも簡単だと言いたげに言ってのけた。

 これにキャロラインは言葉を失う。


 これ以上、自分の時間を使って、この家に尽くせと言うの?

 キャロラインの中にそんな言葉が浮かぶ。


 

「――まぁ、それは追々でいいだろう。叔父さんにもう少し金が借りれるか聞いてみるよ」



 会話は父親の言葉で終了を迎えた。







 家族の夕食が終わると、いよいよキャロラインの夕食の時間だ。

 キャロラインは自分の分のパンと少量のスープを持って部屋へと向かった。


 部屋に戻ると青い鳥が「ピィ」と鳴いた。



「ご飯を持ってきたわよ」

「ピィピィ!」

「ふふふ……かわいい」



 果物籠の中の青い鳥はキャロラインを歓迎するように鳴いて小さな足でキャロラインの方へと近づいてきた。

 キャロラインはその姿に心奪われる。


 自分のパンを青い鳥が食べやすいように小さく千切る。

 そしてそのパンを指先に載せて青い鳥に差し出せば、青い鳥は小首を傾けながらキャロラインの指先に嘴を近付けパンを食べ始めた。



「そんなに急いで食べなくても大丈夫よ。いっぱい食べてね」



 キャロラインは次から次へとパンを千切っては青い鳥にあげた。

 青い鳥はキャロラインを信頼しているのか遠慮なく食べていた。


 キャロラインはそんな無垢な姿に癒された。



「あなたのこと、ブルーって呼ばせてね」



 青い鳥だからブルーと名付け、キャロラインが微笑めばブルーは「ピィ!」と鳴いてキャロラインを見つめた。



「気に入ってくれた?」

「ピィピィ!」

「良かったわ。私の名前はキャロラインよ、ブルー。ちょっとの間、よろしくね」

「ピィ!」

「ブルー、明日は果物を持ってきてあげるわね。少し酸っぱいけど、甘いオレンジよ」

「ピィピィピィ!!」

「ふふっ」



 勢いのあるブルーの鳴き声にキャロラインは思わず笑う。


 それからキャロラインは日々の家事に加えて、毎日ブルーに治癒魔法(ヒール)を掛けてあげながら世話をした。

 仕事が増えた形だったが、ブルーが懐いてくれたのでキャロラインにとって全く苦にならなかった。


 ブルーの存在はキャロラインの生活に潤いを与えたようだった。


 数日後、ブルーはキャロラインの治癒魔法(ヒール)により、籠からキャロラインの肩に飛び乗るくらいの距離なら飛べるようになっていた。



「ピィーピィー!」

「まぁ、上手。これなら、明日にはもう治りそうね」

「ピィ!」

「明日、買い物から帰ったら元の場所へ戻してあげるわね」



 ブルーはキャロラインの腕を嬉しそうに行ったり来たりしながら羽を何度も羽ばたかせた。


 その姿を見てキャロラインはため息を吐いてしまう。



「いいわね、ブルーには素敵な羽があって。私もあなたみたいな素敵な羽が欲しいわ。そうしたらこの家を飛び出せるのに」

「ピィ、ピィ?」



 キャロラインの言葉を理解してるわけではないだろう。

 だが、タイミングよく、ブルーは首を傾げ、不思議そうに鳴いた。


 キャロラインはそんなブルーの頭を指先で撫でる。

 ゆっくり優しく。



「……もしも私がこの家からいなくなったら、この家はどうなるかしら?」

「ピッ」

「ねぇ、ブルー聞いてくれる? 父も母も妹に掛かり切りなの。妹の体が弱いから仕方がないのかもしれないけど……」



 キャロラインは誰にも言えなかった胸の内でつっかえていた思いをブルーにだけそっと吐き出した。



「シャーロットの病気のことを正規のお医者様じゃなくて、占い師の方に聞いて薬を買ってるのよ? そのせいでお金は無くなって、モールトン家の令嬢なのに、私は社交界デビューもできなかったんだから」

「ピー……」

「きっと私はこの家で死ぬまで妹に尽くすのね……結婚も出来ずに……」



 キャロラインは永遠に変わらない今の生活を想像し気が滅入った。

 ずっとシャーロットに振り回されるのかと思うと将来を楽観しできない。


 その時だった。

 ブルーが嘴を開くと今までにない綺麗なさえずりで歌い出した。


 その歌はキャロラインの胸の中に爽やかな春の風が吹き抜けたようだった。


 明日のお別れは寂しい。

 だが、これは元の自然の姿に戻るだけだ。

 明日は笑顔でブルーを見送ろうと、キャロラインは心に決めた。


 キャロラインはその夜、ぐっすり眠ることができた。


 ブルーが大空を飛ぶ夢を見ながら。







 朝、キャロラインはブルーの歌声のおかげですっきりと目覚めることができた。

 普段はしない鼻歌を歌いながらキャロラインは朝の家事をはじめる。


 屋敷の主だった部屋の掃除に洗濯。

 食事の用意。


 いつもより体が軽いおかげか家族たちが起きてくる前に家事が終わった。



(今日は少し遠出をしていつもとは違う店でブルーの好きそうな果物を買おうかしら?)


 

 キャロラインはウキウキしながら今日の計画を立てていた。



「――ねぇ、お姉様。昨夜、とても綺麗な鳥の歌声がお姉様の部屋から聞こえてきたの」

「えっ……」



 家族が揃っての朝食。

 一人家族のために配膳をしていたキャロラインはシャーロットの指摘に冷や水を浴びせられたような気分になった。


 ブルーの存在を知られたらきっとシャーロットはブルーを欲しがる。

 そうなってはブルーはもう外に出られなくなってしまうかもしれない。


 キャロラインはそう思って咄嗟に嘘を吐いた。



「そうかしら……? ……ぐっすり寝ていたせいか気が付かなかったわ」

「本当に? 私ははっきり聞こえたのよ。お姉様の部屋から。とても澄んだ、綺麗な鳥の声が」

「さぁ、知らないわ」

「そう……」



 シャーロットがじっと見つめてくるのでキャロラインは視線を合わせられなかった。


 ブルーのことがバレたかもしれない――

 早いうちにブルーを外に逃がさないと――


 キャロラインは食器を洗いながらそう考えているときだった。



「ギギギィィィィィィィィッ!!」



 屋敷に聞いたことのないようなブルーの悲鳴が響いた。



「な、なにっ!? ブルー!!」



 キャロラインは食器を放り投げ、慌てて自室へと向かった。

 すると部屋にはシャーロットがいて、その足元には果物籠の中にいたはずのブルーが力なく落ちていた。

 


「ブルー!! ブルー!!」



 キャロラインはブルーに駆け寄ると慌ててその小さな体を救い上げた。

 ほんのりと温かい小さな体。

 だが、すでに息絶えていた。



治癒魔法(ヒール)!」



 キャロラインが魔法を使う。

 しかし治癒魔法(ヒール)は息絶えたものには意味がない。


 ブルーの体は何度も光るがつぶらな瞳は閉じられたままだった。



「ああ……ああ……ブルー……かわいそうに……」



 キャロラインは嘆き、それから顔を上げるとシャーロットをキッと睨みつけた。



「シャーロット! なんてことをしたの!!」

「その鳥が悪いのよ。私が歌えって言っても歌わないから。私のせいじゃないわ」

「そんなことで殺したの!?」

「だって、歌わない鳥なんていらないでしょ!」




 あまりにも身勝手なシャーロットの言い分にキャロラインは驚愕した。

 目の前に立つ少女は自分が何をしたのか本当に分かっているのだろうか。

 キャロラインは恐ろしい化け物に見えて仕方が無かった。



「そもそも、お姉さまが嘘をついたのがいけないのよ! こんなに綺麗な鳥を独り占めして! ずるいわ!!」



 シャーロットはそう叫び怒りの表情を浮かべる。


 そしてその声を聞きつけて両親がキャロラインの部屋に飛び込んできた。



「どうしたんだい、シャーロット!」

「そんなに大声を出したらまた倒れてしまいますよっ!?」



 父親と母親が交互にシャーロットを心配する。

 それでシャーロットは今度は涙を流し始めた。



「うわーん! お父様! お母様! お姉様が酷いんです! うわーん!」

「シャーロット、落ち着いて。何があったの? お母様に教えて」



 母親は激しく泣くシャーロットの元に駆け寄るとその背中を何度も撫でた。

 するとシャーロットはしゃくりあげながら説明をはじめた。



「ひっく、うぐっ、お姉様が私に内緒で綺麗な鳥を独り占めしていたんです……それに私は気が付いて、歌を聞かせて欲しくて……そうしたら鳥が落ちて死んでしまって、歌を聞けなかったんです……うぐっ」

「まぁ、なんてこと!!」

「それは本当なのか、キャロライン!」

「それは……」

「どうしてシャーロットに嘘をつくの!」



 両親に責められてキャロラインは動揺した。


 嘘をついたのは事実だった。

 それはこれまでのシャーロットの行動を見てあえてついた嘘だ。



「し、自然に返すつもりだったのっ! だから、お見せするとかえって別れがつらくなるかと思って……」

「嘘よ! お姉さまは私が可愛がられてるのがうらやましくて、そういう意地悪をしたんだわ!」

「ああ、シャーロット、もうそんなに怒らないで。お父様がきっと素敵な鳥を買ってきてくださるわ」

「キャロライン、お前にはほとほと呆れた」



 父親はキャロラインを蔑んだ目で見た。



「可愛い妹に優しくできないなど、お前がそんなに心が汚い人間だとは思わなった」

「お父様……」

「お前はしっかりした娘だと思っていた、キャロライン。だが、それは間違いだったな。――私が許可を出すまでこの部屋で反省していなさい。外に出るのを禁じる」

「そんなっ!!」



 両親とシャーロットが部屋を出る。

 キャロラインも慌てて部屋を出ようとするが父親に突き飛ばされた。


 そしてキャロラインが床に倒れている間にドアの鍵が外から締められる。

 キャロラインは立ち上がってドアに駆け寄ると何度もドアを叩いた。



「お父様! お父様! 許して!! ああ、お母様、助けて!」



 ドンドン、とドアを叩いても反応がない。



 声を張り上げても外に人のいる気配はない。



「シャーロット! お願い! ――ここから出してっ!!」



 キャロラインの訴えは誰にも届かない。



 キャロラインはしばらく声を上げ、ドアを叩き続けたが何も反応が返ってこないことでやがて諦めた。


 そして、部屋の奥で横たわるブルーの死骸を手で掬い上げた。



「ブルー、ごめんなさい……私が助けなければあなたは今頃空を飛べていたでしょうに……」



 キャロラインの目に涙が浮かぶ。

 ぽたり、とブルーの体に一粒の涙が零れ落ちた。


 一つ、二つ。


 ブルーの体をキャロラインの涙が濡らしていく。


 キャロラインはしくしくと泣きながら、その亡骸をハンカチで優しく包み込んだのだった。

 




*




「……キャロライン」



 水晶玉を覗き込んでいた男はポツリと名を呟く。


 男は二十歳前後で黒髪に眼鏡を掛けていた。


 慌ただしく席を立つと部屋の隅に掛けてあった黒いローブを羽織った。

 そして壁に立てかけてあった魔石が付いた杖を手に持つと、窓を大きく開いた。



飛翔魔法(フライ)



 呪文により男の体が浮き上がる。かと思うと、勢いよく部屋を飛び出した。


 男は目的地に向かって真っ直ぐに青空を飛んでいった。

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