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第19話 ギルド受付女子高生⑩

 ブシドーが生還し、ギルド長が辛くも命を永らえた翌日、私たちの派遣期間は終了を迎えた。すっかり着慣れた受付の制服を返し、ミリさんにお別れを告げ、赤いローブに袖を通す。もらった金貨がずしりと重い。


 石造りの建物が並ぶ街を夕日が照らす。すれ違う人々はみなそれぞれの帰路についているようだ。


「どうするサチ。宿についたらすぐガーシュウィンさんのところに行くと思うけど、その前にあの串焼き屋さんで他のメニューにチャレンジしてみる?」


「うーん、無難に羊とか、せめてヤギとかそういうのならなあ」


「こっちの世界の羊って、私たちが知ってる羊と一緒ってことでいいのかな」


「馬は普通に馬だし、羊も多分そうなんじゃないかな。見た目は一緒でも味が違ったりするのかも」


 ユキの言葉に不意に私は吹き出した。


「え、なにサチ、どうしたの」


「んーん。なんでもない。ちょっとユキの嫌な女の演技思い出しちゃって。私怖い~って、すごくないですか?」


「もうやめてよ。必死だったんだから」


 ユキが私の肩をバンバンと叩く。我慢しようとしても笑いがこみ上げてくる。


「今まで見たことない超嫌な女っぷりで、あれなに、誰かモデルが居るの?」


「もう~、そんなのいないってば。強いて言うなら……と。サチ、あの人」


 私たちは足を止めた。黒い髪に白いコート、刀を腰に佩いた男が民家の壁に背を預けて立っている。私たちを見るなり顔を輝かせて歩いてきた。ちょうど進路を塞ぐように。


「サチさん。良かった会えて」


 彼は言った。


 ユキが私に顔を寄せて小声で言う。


「先に行って宿引き払ったりしておくね」


「ありがと、ごめんね」


 うなづいて足早に立ち去るユキの背中を見送ってサトルに向き直る。


「サトルさん、こんばんは。奇遇ですね、こんなところで会うなんて」


「君を待っていたんだ。今日が最終日って聞いてたから」


「そうだったんですか。何かご用事ですか?」


 サトルが大きくうなづく。


「ギルド長から聞いたよ。君たちはギルドの職員じゃなく、あくまで派遣だって。得体の知れない人材派遣会社で働かされているんだろ」


「……ええ」


「良かったら、僕たちブシドーに入らないかい。魔道具を使えば君でも最前線で戦えるようになるかもしれないし、そうでなくても身の回りのこととか食事の準備とかしてもらえるとすごく助かるんだ。あるいはそのうち家を買った時に、そこを任せるかもしれない。メイド長的な」


「つまり、私たちに仕事をくれる、と」


 実のところ、彼がそういう風なことを言ってくるんじゃないかという、うぬぼれに似た予感はあった。


「そう、そうだよ。一生僕が面倒を見てあげる。エカテリーナもエロッサもエリザも、最初はとっつきにくいかもしれないけど、とてもいい娘たちだ。きっと君とも仲良くなれる。魔法でも、剣術でも僕が教えてあげる。ね、そんな怪しい会社は若い女の子が働く場所じゃない。俺が君たちを、助けてあげるよ。それでね、君の新しい名前も考えてあるんだ」


 興奮しているのか、彼の声はどんどん大きくなる。その目は私を見ているような違うところを見ているような。


「エリイだ。素敵な名前だろ。僕は仲間の女の子たちをエで始まる名前に統一してるんだよ」


 なるほどね、それで彼女たちは名前がおかしかったのか。私は四本の指を立てた。


「四回。これが何の数字か分かりますか?」


「え、何? いや、全然わからないよ」


「サトルさんがうちの冒険者ギルドに来て、他の冒険者と揉め事を起こした回数です。その結果三人が骨折、一人が右耳を失いました」


「揉め事? それはだってあいつらが僕の女の子たちに色目を使ったりしたから」


 そう、文字通り色目を使っただけだ。なかには声すらかけていない場合もあった。


「私は!」


 もごもごと言い訳を並べる彼の言葉を遮った。


「名前を捨てて誰かの愛玩具になるつもりも、ここで一生を過ごすつもりもない。この世界で金を稼いで、ユキと一緒に必ず家に帰る。元の世界の、自分の家に。あなたのいう助けは一から十までピント外れ。私があなたを助けたのは一度命を救ってもらったからで、本当にそれ以外の理由はないの」


「で、でもそんな、危ないよ。君みたいな女の子がこの世界に一人でいるなんて」


 道の向こうに赤いローブ姿のユキが見えた。自分のと私の分、二つのスクールバッグを持っている。私は深呼吸を一つすると、ローブの下の裾をつまんで恭しくお辞儀をした。学生服のスカートがちらりと覗く。


「それではサトル様、お話が終わったようなのでこれで失礼いたします。私たちはアンダーグラウンド・ハローワーク。お金さえいただければ、決して逃げない優秀な社員を皆様の職場に派遣いたします。人手が必要な際は是非ご連絡を」


「待ってくれ、サチさん、サチさん!」


 彼の言葉を背に浴びながらカバンを受け取り、ユキの手を取る。


「ガーシュウィン! ドアを開けて!」


 私が声を上げると、目の前に木製のドアが出現した。細かい文字が曼荼羅のように模様を描いている。夕闇の雑踏の中、大声を出すサトルや突如現れたドアに注意を払うものはわずかだ。躊躇せずにドアを開けた。 


「よかったの?」


「あったり前じゃん。だってあいつ」


 ユキのことを助けるって言わなかったし、という言葉をギリギリで飲み込んだ。


「顔も性格も、全然好みじゃなかったし」


 くすりとユキが笑った。彼女は鋭い。多分私が気を使ったことに気づいているだろう。そしてそれを口に出して欲しくないと思ってることにも。


「それじゃユキ……行こっか」


 私たちは一歩を踏み出した。この街に、ギルドに、サトルに別れを告げる一歩を。








【業務報告書】


作成者: 大神田深雪


業務内容: 冒険者ギルド受付


従事期間: 四十六日


報酬: 伊藤美幸 金貨百六十枚(八百万円)+水薬一本(命のお礼にとギルド長がくれた)


    大神田深雪 金貨百六十枚(八百万円)


備考: この世界に有給休暇という概念があったことに驚いた。次はわたしも使ってみたい。


借金残高: 金貨九五四〇枚(四億七千七百万円)


最後までお読みいただきありがとうございます。

創作の励みになりますので、「面白い」「続きが気になる」「二人に無事でいて欲しい」

と思っていただけましたら、ぜひ星評価とブックマークをお願いします。


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