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第18話 ギルド受付女子高生⑨

 私は階段を見上げた。先程と同じようにギルド長が立っている。もっとも、その顔は少し焦っているようだったが。今日ギルドでやらなきゃいけない最大の仕事は終わった。私は大きく息を吸った。


「ギルド長! 気分が悪いので今日はお休みを頂いてよろしいですか!?」


「あ、ああ。……大丈夫だ。宿に帰ってもらって大丈夫です」


 彼はこれからハメ依頼の根回しがある。私に構っている暇はないらしい。


 サトルを含めロビーの視線が私とユキを行ったり来たりしている中、ずんずんと扉に進んだ。


「どいて!」


 エリザだったか、エルフの魔法使いを押しのけるようにして扉を開けた。


 エリザが驚いた表情を浮かべるが、彼女のことは無視した。


 ギルドを出た途端、こらえていた涙が溢れた。晒し者にされたことなどどうでもいい。人が死ぬ。私が選んだせいで。私の行動の結果で。


 涙は宿に着くまでずっと止まらなかった。


 今回のハメ依頼の内容は非常にシンプルだ。偽の依頼でサトル率いるブシドーとジョルトのパーティーは人気のない郊外のポイントまで馬車で向かう。先行して五人の冒険者が潜んでおり、馬車を降りようとするサトルたちを中と外から挟み撃ちにする。この上なく単純な仕掛けゆえに対応は難しいだろう。


「あのガキがどんなに強い剣持ってようが、戦うつもりがない時に不意打ちしちまえば関係ねえ」


 私とギルド長の打ち合わせの後に執務室にやってきたジョルトはそう話した。その後は仲間とブシドーのどの女とやりたいかで下品に盛り上がる。


 今回のハメ依頼では、殺す相手はサトルのみで、三人の女については『殺してもいいが、可能であれば生きて引き渡すこと』とされていた。領主とその息子が彼女らをどうするつもりなのかは想像に難くない。


 夕方過ぎにユキが宿に帰ってきた。私はベッドの上で天井を眺めていた。食欲がわかない。ユキは一人で一階の食堂へ行った。


 翌日。目の下にクマを作ったまま受付についた。昨日の騒動を知っている冒険者たちはよそよそしかったり、私とユキを見比べてニヤニヤしている。別に構わない。機械的に朝のラッシュをさばいていく。


 そして人の出入りが途切れがちになった時間に、それは起こった。


 冒険者ギルド入り口の扉に赤い線が走った。次の瞬間には、建付けられている壁ごと切り破られていた。


 派手な音がして壁と扉がギルドの木の床に崩れる。


 立っていたのは、右手に赤く光る刀を持ったサトルだった。左手には黒いボールのようなものを持っている。サトルが左手のものをギルドに投げ込んだ。


「いやあああああ!」


 ミリさんが悲鳴を上げた。黒い塊はボールじゃなかった。男の、生首。目を見開き、食いしばっているかのように歯を見せている。見慣れた顔。双剣使いジョルトの首だった。


 ブシドーの三人の女が戸口に立った。女騎士が負傷しているようで、猫族の肩を借りている。


 サトルが中に入ってきた。怒りで目がつり上がっている。彼と対面すると、肌がチリチリと熱い。赫緋かくひの刀のせいだ。前に赤髪と戦ったときとは比べ物にならない熱量だった。


「ギルド長は、どこだ」 


 カウンターの中をねめつけたあとに彼は言った。ユキが私をかばうように前に出た。


「二階の、執務室です」


 彼はギロリと階段の上を見た。


 何も言わず階段を上がっていく。彼が手に持つ刀が壁に突き刺さり、熱したナイフをバターに滑り込ませるように、たやすく壁が融け切れていく。


 エルフのギルド長が姿を表した。右手に杖を、左手に触媒の小瓶を持っている。平静を装っているが、その目には動揺が見える。


 エルフは呪文の詠唱とともに杖を振ると、先の尖った氷の塊がサトルに恐ろしい速さで飛んでいった。だが、壁に突っ込んだ刀を構え、正確無比に氷塊を切り落とす。ギルド長を睨んだまま一段一段登ってくるサトルに対し、どのような抵抗も意味を成さないと悟ったのか、彼は杖を下ろした。


 サトルがギルド長の正面に立った。


「僕を、ハメたな」


「……どうやらそのようで」


 彼の態度が気に触ったのか、舌打ちを一つしてサトルが刀を振り上げた。ギルド長が目を閉じる。


「あ、あの!」


 私は自分にできる限りの大声を出した。サトルとギルド長の、そして一階にいたすべての人間の視線が刺さるのを感じる。


「お茶にしませんか、執務室で。水薬を使ってエカテリーナさんの治療もできますし。ブシドーの皆さんが受けた精神的肉体的苦痛について……埋め合わせをどういった形でするか話し合いましょ」


 サトルが私を睨みつけた気がした。私は精一杯の勇気を出して胸を張り、その顔をまともに見返した。今日この場で、これ以上の人死はごめんだ。


 彼は沈黙の後、赫緋(かくひ)の刀をゆっくりと鞘に納めた。いつもの顔に戻り、階段の上から彼のガールズを見下ろす。


「みんなおいで。サチさんの美味しいお茶をいただこう」


 安堵のため息が口から漏れる。


 よかった。本当に。  


 あとはユキに美味しいお茶の入れ方を教われば、何とか今日を乗り切れそうだ。


 ふと見下ろすと、床に転がったジョルトの生首が恨みがましく私を見ていた。


「ごめんなさい」


 私は口に出してそう言った。でも、きっと彼は許してくれないだろう。


 一昨日、三つ目うさぎの串焼きを食べながら宿に帰った私とユキは、ブシドーがハメ依頼にかけられる可能性について話し合った。その数日前にサトルが領主の息子の腕を折ったことは耳ざとい冒険者から聞かされていた。


 心が荒むようなひどい仕事の中で、せめて人として、受けた恩には恩で返したい。ガーシュウィンがどう考えているかは知らないが、それが私とユキにとってのアンダーグラウンド・ハローワークの理念だった。私はサトルに命を助けてもらった借りがある。だから一度だけ、彼の味方をすることにした。


 宿で勉強する用に借りていたギルドのモンスター図鑑の余白を小さく切り取り、メッセージを書き込む。あとはこれを周囲に気づかれず渡すだけ。


 サトルはダメだ。彼は私から何か貰えば、大喜びでその場で中身を確かめるだろう。他のメンバーで、私が不意に近づいても武器を抜かなそうな人に渡すことにしよう。


 そのためにユキと仲違いしたような芝居を打つところまで話は詰めてあった。


 洗った串に墨をつけて書く関係上、メッセージはシンプルなものになる。


『依頼は罠。注意しろ』


 その時は気づかなかった。だが思い返してみると、恩には恩で報いる理念や気持ちの割り切り方は、まさにアウトローの考え方そっくりだった。



最後までお読みいただきありがとうございます。

創作の励みになりますので、「面白い」「続きが気になる」「二人に無事でいて欲しい」

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