突然のできごと
そして迎えた結婚式当日。
アリーシャは純白のドレスを身にまとっていた。
お手製のベールをかぶった姿で、両親と顔合わせをしたアリーシャは泣かないようにするので必死だった。
ここで泣いてしまっては、せっかくやってもらった化粧が台無しになってしまうからだ。
「え!? ラルフまた熱出しちゃったの?」
「ええ……。ほら、子どもって興奮すると熱出たりするでしょう? 大好きな姉様の結婚式だからって昨日の夜もなかなか寝付けなかったみたいで……」
「そ、そんなぁ……」
可愛らしい衣装をラルフのためにと用意していたというのに。
濃紺の背広に瞳の色と同じ蝶ネクタイ。
短パンにサスペンダーをつけ、靴下は少し長め。
背広と同色の帽子まで用意したというのに着てもらえないなんてと嘆きつつも、すぐに意識を切り替えた。
「体調は大丈夫そうなの?」
「ええ。ただの知恵熱みたいなものだから、二、三日寝てれば大丈夫ってお医者さんも言ってたわ。侍女を一人つかせてるし、心配いらないわ」
「そう……」
とはいえ残念なものは残念なので、アリーシャはしゅんっと落ち込んでしまう。
「ラルフは残念だけれど……、今日はあなたの晴れ舞台なんだから、そんな顔しないで」
「……そうね」
確かに義母のいう通りだと、アリーシャはすぐに口端を上げた。
今日はお祝いの日だ。
主役であるアリーシャが悲観的でどうすると、力強く拳を握り締めた。
「今日は全力で楽しんでみせるわ!」
「そうよその意気よ! 今日はあのダニエルとバーバラもくるんだから、幸せオーラを見せつけてやりなさい!」
「ええ、ええ! そうよ。今日はあのダニエルとバー…………ん?」
アリーシャははたと動きを止めた。
今義母はなんて言ったかと、耳を疑う。
「…………ダニエルとバーバラ?」
「ええそうよ。あのクソガキどもよ」
「…………くるの?」
「ええ。招待状を送ったもの」
「――忘れてたぁっ!」
義母に前科があることをすっかり失念していた。
婚約発表の時にもあの二人を呼んだのだから、結婚式にも呼ぶ可能性があったのに、そのことを綺麗さっぱり忘れていたのだ。
「私が娘の幸せな姿を見せつけて、鼻で笑ってやるチャンスをみすみす逃すと思う?」
「…………オモイマセン」
これに関しては浮かれてその可能性に気付かなかったアリーシャが悪い。
やってしまったとうなだれるアリーシャの肩を、義母は楽しそうに叩く。
「そんなに気にすることじゃないわよ! あなたはただ結婚をすればいいだけ。向こうが勝手に悔しそうにするだけよ」
「……まあ、そうだけれど」
それだけで済めばいいのだが……とアリーシャが不安に駆られた時だ。
控室の扉がノックされた。
「お時間です」
「――」
「いよいよね。私は客席にいるから」
「あ、はい……」
どうしよう、緊張してきたとアリーシャは胸元を押さえる。
ドキドキとうるさい心臓に大きく息を吸って吐けば、それを見ていた父がアリーシャの手をとる。
「大丈夫。お父さんがついてる」
「……うん。ありがとう、お父様」
そして結婚式が始まった。
アリーシャは父とともに会場に入り、真っ赤なカーペットの上を歩く。
たくさんの参列者からの拍手を浴びながら歩き、先にいるブランの元へと向かう。
彼もまた真っ白なスーツを着ていた。
黒い髪と真逆な色味なのに、なぜこんなに似合うのだろうか?
この人が自分の旦那様になるのだと思うと、嬉しいやら緊張するやらでわけがわからなくなりそうだ。
父と繋がっていた手を誘導されて、ブランと腕を組む。
「――娘のこと、頼みます」
「はい。必ず守ります」
二人のそんなやりとりにすら泣かそうになり、アリーシャはベールの下の顔を歪ませた。
せめて誓いのキスを終わらせるまでは泣いてなるものかと目元に力を込めていると、父が義母の元へと向かった。
「…………」
牧師が誓いの言葉を述べる中、アリーシャはゆっくりと瞼を閉じる。
ここまで本当にいろいろあった。
ありすぎて意味がわからなかったほとだ。
あんなに結婚はしないと息巻いていたアリーシャが今、誓いの言葉を言おうとしているのだから、全く人生というのはなにが起こるかわかったものではない。
「――汝、ブラン•ウィットはアリーシャ・マグラウェンを妻とし、妻を想い妻のみに添うことを誓いますか?」
「――誓います」
本当にこれで、ブランの妻になれるのだ。
彼との出会いは突然だったけれど、きっとこの先も二人仲良く同じ時を歩めるはずだと確信している。
「汝、アリーシャ・マグラウェンはブラン・ウィットを夫とし、夫を想い、夫のみに添うことを誓いますか?」
これで、新しい人生が始まるのだ。
「――誓います」
アリーシャ・ウィットとしての人生を――。
そう思った時だ。
巨大は破裂音とともに、会場が大きく揺れた。
「――なに!?」
アリーシャは慌てて音のしたほうを見た。
そちらは会場の入り口で、そこからもくもくとねずみ色の煙が立ち上っている。
一体なにが起こったのかと確認するよりも早く、アリーシャはものすごい力で押し倒されていた。
――ブランの手によって。
「――見つけたぞ! BLUE BLOOD!」




