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顔に弱い

「どういうこと……!?」


 アリーシャは叫んでいた。

 パーティーも終わり客人も皆が帰った伯爵家の一室には、アリーシャと両親、そしてブランだけが残っている。

 そんな中で叫んだアリーシャに、義母はニヤニヤと楽しそうな笑みが止まらない。


「だから言ったでしょう? 素敵な相手を見つけてるからって!」


「――そっ、……それは……そうだけれど……!」


 アリーシャはちらりと隣に座るブランを見る。

 ただ座っているだけなのに、後光が差しているように見えるのは何故だろうか?

 相手としては申し分ない相手であることは間違いない。

 間違いないが……素敵すぎるから困るのだと、アリーシャはテーブルを叩いた。


「こんなイケメンが私と婚約するはずないわ! 一体なにを代償に差し出すっていうの!? ――まさか、伯爵家の全財産を……!」


「そんなもの、ウィット公爵家からしたら端ものだよ」


「自分の家のお金をそんな風に言わない!」


 確かにそうかもしれないけれど、そんなふうに言われると負けた気がして少し悲しい。

 だが財産ではないのなら一体なんなのか……。

 アリーシャは考えてハッと息を呑んだ。


「もしかしてなにかとんでもない秘密があるとか……!? 前妻を殺害してその遺産を……!」


「アリーシャ、本の読みすぎだよ。ブランは本当にいい青年だ。アリーシャのことをとても想ってくれている。だから婚約を進めたんだ」


「――そ、う、なの?」


「我々がお前のためになること以外をすると思うかい?」


 うんうんと頷く義母にも説得されてか、アリーシャはおずおずと居住まいを正した。

 確かにこの両親がアリーシャが不幸になることをするはずがない。

 ということは本当にこのイケメンがアリーシャとの婚約を認めたということなのか……? と隣を見ればバッチリと目が合う。


「心配かもしれないけれど、伯爵家にももちろんアリーシャにも不都合になることなんて一つもないよ」


「……でも、はじめて会ったのに」


 こんなにイケメンでしかも公爵という素晴らしい肩書きの男性なのに、婚約破棄令嬢のアリーシャと婚約するメリットがあちらにはない。

 しかも初対面の相手とくれば、疑うのも無理はないだろう。

 だというのにブランは軽く首を傾げた。


「はじめてじゃない。――君は気づいていないと思うけれど、俺たちはもう出会ってるよ」


「……え?」


 それはありえないはずだ。

 こんなに後光がさしているような存在、一度見たら忘れるはずがない。

 絶対に会ったことがないと断言するアリーシャだったが、ブランは楽しそうにくすくす笑う。


「いつかわかる時がくるよ。その時どんな反応してくれるか、今から楽しみだなぁ」


「…………それは今……教えてはくださらない?」


「お楽しみって大切だと思うんだ」


 あ、この人も両親と同じタイプだと、アリーシャは黙り込んだ。

 先に教えてくれれば下手に誤解することもなくスッキリするのに、その時のアリーシャの反応を見たいがために教えてくれない。

 父が名前で呼んでいたこともあり、これは相当気に入っているのだろうなとなんとなく察した。

 弄ばれている感じもしなくはないのだが、当人が話す気がないのならもうこれ以上アリーシャができることはない。

 むっつりと口をつぐんだアリーシャを見ていた義母が、微笑ましそうに口を開いた。


「とりあえずアリーシャが納得したようだし、これからは婚約者としてもっと交流したらいいじゃない。そのほうがアリーシャも彼の人となりがわかるから安心でしょう?」


「それはそうだけれど……」


 確かに彼という存在は知りたい。

 けれど面倒だと思われないだろうかとまたちらりと横を見れば、ブランは軽く頷いた。


「確かにそれでアリーシャが安心できるなら、喜んでお供させてもらいますよ。もちろん、アリーシャがよければだけれど」


「……そういうことなら、お願いします?」


 まあアリーシャから断ることはないだろう。

 どうせ婚約者となるのなら、お互いが知れたほうがいい。

 それなら同じ時間を過ごすのが一番だろう。

 ――と、そこまで考えてアリーシャはあれ? と小首を傾げた。

 婚約をすんなり受け入れてる自分がいることに、今更ながら気がついたのだ。

 結婚なんかするつもりなかったのに。


「じゃあさっそく、明日も会いにきてもいいかな?」


「ふえ? あ、……はい……」


 ああ、ダメだ。

 この顔に見つめられるとすぐに頷いてしまう。

 どうやらアリーシャはブランの顔にとても弱いらしい。

 否定するものも否定できず、アリーシャはただ頷くだけの人形と化した。


「あらいいじゃない! じゃあ明日は二人でピクニックでもしなさいな。ちょうど庭園が綺麗だから」


「いいじゃないか。どうせなら我々も出かけようか」


「いいわね! ――ラルフも連れて行くから、安心してちょうだいね」


 なにを安心するのだ。

 むしろラルフがそばにいてくれたほうが何倍も安心なのにと、ここにいない弟を思う。

 あとでお見舞いに行かないと……と思っていると、なにやら義母が肩を震わせて笑っていた。


「……お母様? どうしたんですか?」


「――いいえ。とっても楽しいと思っただけよ」


 楽しげな義母を不思議そうに見るアリーシャは、隣で不機嫌そうに瞳を細めるブランに気づかなかった。

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