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103.全ての鉱物

 夜、坑道の入口前。


 今から街まで戻るのは――ということで、この日はここで野宿をする事になった。

 俺とジャンヌとカトリーヌ嬢はパトリシアの中にいる。


 パトリシアの内装(、、)が少し変わって、リビングっぽい空間になった。

 暖炉もあって、そこに火をおこしている。


 最初は体の中で火をおこしても大丈夫なのかともおもったけど、ドラゴンはたき火程度の火を熱いともおもわないようだし、なによりパトリシアの肉体は竜具での特別製だから、遠慮しないで暖炉に火を起こした。


 そんな、どこからどう見ても屋敷の一室の中で、俺とジャンヌ、そしてカトリーヌ嬢の三人が向き合って座っている。


 ジャンヌはそうでもなかったが、カトリーヌ嬢は好奇心全開って感じの表情できょろきょろ見回していた。


「どうしたんだ」

「以前にも、大型竜に乗せてもらったことがあるのだけれど」

「ふむ」

()が変わるのは初めて見ますわ」

「ああ、たぶんこの子だけなんだと思う」


 俺もいろんなドラゴンの種を知っていて、大型種の知識も一通りある。

 特に大型種は種類が少ないから、クリスの様な存在をのぞけば、全部知っていると自分では思っている。

 こんな風に、運搬部――つまり内装を自由自在に変えられる種は他にはない。


 パトリシアのオンリーワンということだ。


「たった一体っきりの特別な存在、ということですわね」

「そういうことだ」

「すごいですわ……そんな特別なドラゴンさえも従わせているなんて」


 カトリーヌ嬢は目をきらきらさせて、俺を見つめた。

 年頃の少女が憧れの人間を前によくするタイプの表情だ。


「あの……シリル様」

「うん? どうしたジャンヌ」

「先ほどの件ですが」

「鉱融合の事か?」

「はい」


 ジャンヌははっきりと頷いた。


「本当にエネルギーを取得できたのですか?」

「ああ、普段のに換算すると……ざっくり牛一頭分ってところかな」

「そんなに!」

「ああ、結構なエネルギーにはなった。なったが……」

「なにか気がかりなことが?」

「気がかりも何も」


 俺は微苦笑した。

 問題点ははっきりとしているだろ――と思ったが。


 ジャンヌの正体はお姫様。

 そのあたり(、、、、、)の感性がなくてある意味当然だ。


「コストが高すぎる」

「コスト……」

「牛一頭分のエネルギーにはなったけど、そのために金貨とダークストーンの価値は牛数十頭分だろ?」

「あっ……そういえば」

「緊急時に一セット持っておくのはありかもしれないけど、普段使いには程遠いな」

「そうですか……残念です」

「残念って?」

「はい。エネルギー問題って、シリル様の竜人変身のための問題じゃないですか」

「ああ、そうだな」


 俺ははっきりと頷いた。


 俺は、竜人の姿に変身した時に飛躍的に消費エネルギーが上がってしまう。


 それは普段とは比較にならないもので、普段の姿で炎弾を数百発分撃てるエネルギーが、竜人変身すると三秒以内で使い果たしてしまう。


 つまり、エネルギー問題はジャンヌの言うとおり、ほぼほぼ竜人変身のためのものだ。


「それが解決されれば、シリル様はずっと変身していられるのですよね」

「まあそうだな。用がないときはしないけど」

「シリル様の竜人変身って、すごく格好良くて素敵ですけど、早すぎて私の目ではほとんど追えないので、いつもちらっとしか見れなくてもどかしいのです」

「そういう見方もあるのか」


 ちょっとおかしくなって、小さく吹きだした。

 俺からしたら竜人変身は完全に「実用」的なものだから、そういう風に考えたことはなかった。


「コストと量のバランスが取れたのが見つかるといいな」

「はい!!」


 ジャンヌは身を乗り出すほどの勢いで同意してきた。

 よほどしっかり見たいんだな……ってのが伝わってきた。


「さっきからなんの話をしてますの?」


 カトリーヌ嬢の方を向いた。

 質問してくる彼女は、ちょっとだけ不機嫌な感じになっていた。


 自分が知らない話を延々とされて疎外感を感じてる――ってところか。


 俺はカトリーヌ嬢に説明した。

 竜人変身とエネルギー問題、すこしは話したけど、話してなかった分を補足で説明した。


 エネルギーのためにこれまで色々やってきた事を話した。


「例えばこのラルク・アン・シエルもそうだ」


 そういって、懐から常備分の万能調味料を取り出して、カトリーヌ嬢に見せた。


「そうでしたの……」


 カトリーヌ嬢はラルク・アン・シエルをみて、俺の顔をみて、それからジャンヌの顔を見て――と視線を俺達の間で行き来させた。


「ずっと、あのお姿……」

「どうした?」


 俺達を見比べたかと思えば、思案顔でうつむいてしまった。

 そして、何かを決意したような表情で顔をあげた。


「それ、わたくしにも協力させてくださいまし」

「協力?」

「はい。たくさんの鉱石を集めるようにお父様に頼みますわ。今のシリル様は、鉱石の種類があればあるほどよいのですわよね」

「そういうことになるな」

「では、かえったらすぐにお父様におねだりします。天然の鉱石は世界で九十種類くらいしかないと聞いたことがありますので、すぐにでも集まると思いますわ」

「九十? その程度しかないのか?」


 その事にちょっと驚いた。


「はい、それは私も聞いたことがあります」


 ジャンヌもカトリーヌ嬢の言うことに同調した。


「もっとあるってイメージだった」

「おそらく認識の違いだと思います。例えば青銅、赤銅、黄銅とありますけど、それらは全部『銅』という一種類だという考え方です」

「ああ、そういう分類だと九十種類なのか」


 俺は小さく頷いた。

 そういう話なら納得だ。


 少し考えて、カトリーヌ嬢に向き直る。


「じゃあ……お願いしていいかな。もちろん代金は――」

「そんなの頂けませんわ! シリル様のお役に立ちたいんですの」


 カトリーヌ嬢は更に嬉しそうに、更に目をきらきらさせてきた。


「そうか……じゃあありがたく」

「はい!」


 全ての種類の鉱石を集めてくれる事になったカトリーヌ嬢。

 その中に、鉱融合でコストパフォーマンスの高い組み合わせがあればいいな、と俺は密かに願ったのだった。

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