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102.小さな太陽

 俺はエマと一緒に、融合してつくったトタンをもって、坑道から外にでた。

 作れた数は意外にも少なくて、エマが少し運んで、俺が両手で抱えて――で持てる程度の分量だった。


 それを持って外にでると、待っていたジャンヌとカトリーヌ嬢がパッと顔をあげ、ジャンヌはこっちに駆け寄ってきた。


「お疲れ様ですシリル様! どうでしたか?」

「そこそこってところかな」


 そういって、持ち帰ったトタンを見せた。


「これでどれくらいの命の雫が作れるのでしょうか」

「それはクリスに聞いてみないとわからないな」

「あっ、そうですよね」

「おわりましたの?」


 小走りで近づいてきたジャンヌと違って、優雅に歩いてきたカトリーヌ嬢がようやく話しかけられる距離に近づいてきた。

 同時にパトリシアもやってきたから、俺とエマはトタンをパトリシアに渡した。

 パトリシアはトタンを丸呑みした。


 ただの大型種じゃない、俺の竜具で受肉したパトリシアは、食事がいらない代わりに、口から飲み込んだ物を体の至るとこに運ぶことが出来る。

 極論、俺達を飲み込んでも、来たときに座っていたところに移動させられる。


 もちろん食事はやろうと思えば出来るから、いろんな意味ですごいドラゴンになった。

 そんなパトリシアがトタンを飲み込んでいるのを横目に、カトリーヌ嬢に返事をする。


「ああ、終わったよ。すごく助かった。礼を言う」

「これくらいたいしたことはありませんわ」

「そうか。ブーケ男爵はどうなんだ。これをたてに迫られたりとかは」

「感謝はしますわ」

「……」


 ……なるほど。

 感謝の言葉だけで十分って事か。


 おそらくは本気でそう思っているんだろう。

 良い悪いではなく、住んでる世界による価値観の違いか。


 まあ問題ないならそれでいい、例え問題があっても起きたときに助ければいいだけだ。


「それよりもシリル様、何かいいことがあったのですか?」

「うん? なんで? 顔に出てた?」


 俺は自分の顔をベタベタと触ってみた。

 坑道から出てからは普通に振る舞っていたはずだと思ってたんだけど。


「シリル様はなにも。ただ、エマの方がすごくうれしそうだったから」

「エマが?」


 俺はエマの方をみた。

 エマと目があった、確かに彼女は嬉しそうにしている。


「なるほど、それで感じ取ったのか」

「ではやはり?」

「ああ、トタンとは違う、予想外の収穫があった」

「そうなんですね、よかったです」


 ジャンヌが素直に喜んだ。

 それをみたカトリーヌ嬢が、なぜかちょっとぶすっとした顔をして。


「ちょっとあなた」

「え? はい、なんでしょうか」

「あなた、ドラゴンの顔色がわかるんですの」

「はい。シリル様のドラゴンはみな表情が豊かですから、わかりやすいです」


 ジャンヌは無邪気に答えて見せたが、それがちょっとよくないかもしれないと俺はおもった。

 というのも、俺の目にはカトリーヌ嬢の不機嫌が映っていたからだ。

 嫉妬、もしくはそれに近い何かの感情が、カトリーヌ嬢の顔からにじみ出ている。


 これはよくないヤツかもしれない、そう感じつつも。


「パトリシアも、シリル様が戻ってきて嬉しそうにしてます」


 ジャンヌはカトリーヌ嬢のネガティブな感情にまったく気づく気配もなく、質問の先を答えた。


「そうですの」


 カトリーヌ嬢はますます不機嫌になった。

 ふしぎな物だ。

 ドラゴンの表情とか雰囲気とかにはあれほど敏感なジャンヌなのに、同じ人間であり目の前にいるカトリーヌ嬢が向けてくる負の感情にまったく気づく気配がない。


 なんだか面白いなと思ったが――面白いと思ってるだけにはいかなかった。


 カトリーヌ嬢は明らかに不機嫌になっている、話を逸らさないと。


「実際にやって見せよう。二人は何か鉱石をもってたりはしないか?」

「鉱石ですか?」


 ジャンヌは少し考えて、袖の中から何かを取りだした。


「金貨、も鉱石にはいるのでしょうか。トタンつながりで黄金を持っておこうって思って持ってきました」

「バッチリだ。一枚だけか?」

「は、はい。あればなにかに使えるかもしれないと思って、念の為に……です」

「そうか。いやジャンヌは悪くない」


 ジャンヌを慰めつつ、金貨を受け取る。

 これを二つに折って使ってみるか――と思ったその時。


「金属じゃなくてもよろしいんですの?」


 カトリーヌ嬢が聞いてきた。


「どういう事?」

「これ――ダークストーンというものですの」


 カトリーヌ嬢は黒い石を取り出して、俺に見せた。


「ダークストーン。はじめてきいた」

「金属ではありませんの、特殊な石が高温で凝縮されて出来た物ですの」

「なるほど」


 俺はそのダークストーンを見つめた。


「黒い……いや、それ以上だ」


 彼女が持っているダークストーンは「黒色」を越えていた。

 そこにあるが、何もないように見える。


 漆黒を更に越える――無だ。


「すごいな、これ」

「安眠のために持ってるのですわ。屋外ではさすがに効きませんが、寝室のようなところで取り出しておけば余分な光を吸い込んでくれますわ」

「なるほど、そりゃ便利だ」

「すごいです、そんな大きなダークストーン、普通はほとんど手に入りません」

「ふっ、これくらい、我が家の力をもってすればたいしたことはありませんわ」


 カトリーヌ嬢は上機嫌に言った。

 ジャンヌが持ち上げたことで機嫌をよくしたようだ。


「そんなに高い物なのか?」

「同じ大きさで、黄金の十倍は」

「うおっ!」


 さすがに驚いた。

 黄金の十倍って、べらぼうに高いじゃないか。


「そうしたらそれを借りるのは申し訳ないな、使ったら壊すし」

「構いませんわ」


 カトリーヌ嬢はダークストーンを俺にさしだした。


「いいのか?」

「これくらい大したことありませんもの」

「うーん、わかった、じゃあ使わせてもらう。ありがとう」

「ふふん」


 カトリーヌ嬢は胸を張って、大いばりで満足げだった。

 俺はダークストーンと金貨をそれぞれ両手にもって、深呼吸する。

 金属じゃないダークストーンでいけるのかという心配はあったが、とりあえずやってみることにした。


「変身」


 加速台がないから、竜人に変身して、高速に移動して左右から金貨とダークストンを投げて、ぶつけ合った。


 次の瞬間――


「きゃあああ!」

「な、なんですの!?」


 驚く二人、俺も驚いた。


 金貨とダークストンがぶつかり合って、融合した。

 融合したそこで、まるで小さな太陽のように、ものすごい光が放たれている。

 見たことのない、ものすごいエネルギーだった。

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