101.可能性の瞬間
おそるおそると、宙に浮かんで輝きを放ち続けるそれに手を触れた。
すると――。
「むっ」
『どうしたんですかシリルさん』
「エネルギーが……入ってきた」
『ええっ!?』
驚くエマをよそに俺は自分の手の平をじっと見つめた。
これは……間違いない。
「竜玉とちょっと違う感覚だけど、エネルギーが補充されたのは間違いない」
『本当ですか!? じゃあ、これからはこっちでエネルギー補充が出来ますね!』
「いや……そんな美味い話でもないようだ」
エマは興奮したが、俺は微苦笑した。
『ど、どうしてですか?』
「今のやつ、竜人変身で使ったエネルギーと補充した分のエネルギー。差し引きで……ちょっと黒字ってところだ」
『ちょっと黒字、ですか?』
「ああ。正直……ご飯一杯分の黒字だ」
『それは……効率悪いですね』
「そうだなあ、使い物にはならないな」
俺はますます苦笑し、エマはちょっとだけシュンとなった。
エネルギー問題。
それは俺について回る問題、ここしばらくの間、ずっと何とかしなければと思っていた最重要課題だった。
竜人に変身してからというもの、常にエネルギーに頭を悩まされてきた。
それをうちのドラゴンたちはみんな知っている。
エマもそうで、今もまるで自分の事のように喜び、そして消沈した。
「まあしょうがない。多少でも黒字だし、こういう方法を覚えておけばどこかで役に立つかも知れない」
すぐに役に立つとかじゃないけど、これはこれで大きな収穫だ。
それをそっと胸の奥にしまい込んで、本来の目的であるトタンに意識を戻した。
最後に融合させた分のトタンを拾い上げると。
『あっ』
「どうしたエマ」
『シリルさん。さっきのはクズ鉱同士をぶつけたのですよね』
「そうだけど――むっ」
聞き返しかけて、俺はハッとした。
そしてパッと自分の手を、持っているトタンをみた。
『さすがシリルさんです。そうです、それを使ったらどうなるのでしょう』
「さすがなのはエマだ。盲点だった、ありがとう」
俺はエマにお礼を言って、強めに撫でてやった。
エマは目を細めて嬉しそうにした。
完全に意識の外だった。
それは、トタンが「すでに融合した後」というもののせいだったのが大きい。
融合したものを更に融合させる、という発想がなかった。
それをエマは気づかせてくれた。
「やってみるから、ちょっと離れてて」
『はい!』
エマは大きく頷き、俺に言われたとおりコースから距離を取った。
俺は俺で、コースのスタート位置に戻った。
そこに立ったまま、両手でそれぞれトタンを一粒ずつもった。
そして――
「変身」
いつものようにそれを唱えて、トタンをコースに沿って投げた。
竜人の超越したパワーと、コースを使った加速にトタンを乗せた。
トタンはものすごい勢いで加速してすっ飛んでいき、反対側でぶつかり合った。
ぶつかったトタン同士は融合した。
『成功ですね!』
エマは無邪気に喜んだ。
確かに、融合という意味では成功した。
成功した……のだが。
「ダメだな……」
反対側まで向かっていき、融合トタンが発するエネルギー体に手を触れて、そのエネルギーを体に取り込んだ。
見た瞬間察していたが、やっぱりそうだと確信した。
『だめって、何がですか?』
「エネルギーが小さい。これだと完全に赤字だ」
『そ、そうなんですか?』
「ああ、トタンもトタンで高いものだし、こっちはまったく使い物にならないな」
『そうですか……すみませんシリルさん、私のせいで……』
「何を言ってる、エマのおかげで大成功だ」
『ええっ!? ど、どういう事ですか?』
シュン、と落ち込みかけたエマがものすごく驚いた。
『ダメだったんですよね、トタンの融合』
「ああ、ダメだった」
『なのに大成功ですか?』
「そうだ。よく考えてみろ、今の結果って、言い換えると『融合物次第でエネルギーの量が違う』って事だろ?」
『えっと……はい。そうですね』
頷きつつも、だから? って顔をするエマ。
飲み込みが今ひとつついて来れてないみたいだ。
そんなエマに、俺は結論をいった。
「つまり、どこかに大きく黒字になるような組み合わせもあるかも知れない、ということだ」
『……あっ』
俺に言われて、エマはハッとした。
そんなエマを、さっき以上の強い力で――でもドラゴンには心地いいくらいの力で撫でた。
「ありがとうエマ、素晴らしい気づきだ」
『えへへ……』
エマを撫でつつ、俺は考える。
鉱融合……予想以上に大きな可能性を秘めてるやり方だったな。