71.個の力が戦場を左右する
敵は攻めてこなかった。
故に外壁で弓と魔術を構えている連中の出番はなし。
当然だ、同盟軍は時間がかかるとはいえ待ちに徹していればランドモッタは勝手に干上がるのだから。
門が開かれる。
攻めてこないならば、こちらから攻めるしかない。
予め〈マインド・リンク/相互〉をクーラとタマにかけておく。
本来、〈マインド・リンク〉は術者と対象が表層意識で会話する魔術である。
クーラとタマにかけた場合、俺とクーラ、俺とタマは表層意識で会話できるが、クーラとタマは会話ができないのだ。
その欠点を克服するのが【魂触】による相互オプションである。
このカスタマイズにより、俺とクーラとタマは相互に表層意識で会話が可能となっている。
戦場で口を動かすのは意外と面倒くさい。
特に魔術を駆使する俺とクーラにとっては、起動句を唱える以外のやりとりを表層意識でのやりとりに置き換えるだけで、戦闘への集中力がかなり変わるのだ。
俺の【並列思考】はひとつを周辺警戒、ひとつを中級以上の魔術構築、ひとつを〈瞑想〉に割く。
杖の武器術であった〈瞑想〉は、現在【魂触】により格闘ツリーの下に移動させられている。
すなわち格闘術〈瞑想〉となったわけだ。
効果は自然治癒能力の向上。
杖術〈瞑想〉は魔力のみの回復であったが、格闘術〈瞑想〉は魔力に加えて怪我の治りも早くなる。
その分、魔力の回復効率は悪くなってしまったが、杖が必要ないという点で圧倒的に優れているため、格闘術として使うことにした。
また事前に【剣】に連動していた〈マナ・ドレイン〉を【刀】に移動してある。
これで〈瞑想〉も相まって魔力切れはまずないだろう。
俺は切り込み役、タマとタマ2号は投擲による牽制や妨害、クーラは俺とは反対側で立ち回ることになった。
人数の少なさに不安はあるが、どのみち相手は3倍いるのだ。
数を減らすことを優先すれば、やってやれないこともないだろう。
門が開いてゾロゾロとランドモッタ軍が進軍する。
俺たちが3人パーティで行動するように、傭兵たちや住民らも知った者同士で組んで戦いに臨む。
当然、連携などは考えられていない。
統率の取れていない烏合の衆が、同盟軍に向かって行って大丈夫なのかという心配は無用。
同盟軍も似たようなものだからだ。
同盟軍の編成は常備軍である騎士や兵士を除けば、他は傭兵でこちらと同じくパーティ単位で動く。
そもそも同盟軍からして2国それぞれ別個の指揮系統のもとで動くのだから、互いに連携など取りようがないのだ。
魔術という銃や砲となりうる攻撃手段が存在するため、どうしても隊列を整えても魔術一発で崩される。
だから戦争は、自然とこのような散兵的なものとなったらしい。
クーラからが進軍の暇つぶしにそんなことを解説してくれた。
「弓ぃ、撃ち方ぁ、始めぇ!!」
弓の射程内に入ったようだ。
同盟軍から歓迎の矢の雨が降らされる。
『風で逸らすから俺の後ろから離れないで』
『了解』
『分かった~』
風の支配者で空気の層を生み出し、俺たちに直撃しそうな矢の軌道を逸らす。
俺たち以外の味方は盾を掲げながら走り始めた。
一方的に撃たれるのを嫌がったのだろう。
だが距離がもう少し縮まれば魔術の射程圏内に入る。
『俺とクーラは中級攻撃魔術を準備。射程に入ったら撃ち込むぞ』
『〈ファイア・ストーム〉でいいかな?』
『いいよ。俺も同じの撃つから』
俺の〈ファイア・ストーム〉はカスタマイズがされているから、クーラのものより広範囲を巻き込める。
「魔術ぅ、撃てぇ――!!」
同盟軍が魔術を構える。
こちらも射程内に入ったので、準備していた魔術を行使した。
「必要諸元入力、〈ファイア・ストーム/広範囲化〉!」
「〈ファイア・ストーム〉!」
両軍の間で魔術が飛び交い始める。
俺とクーラの〈ファイア・ストーム〉は投射型ではなく指定した地点を中心に炎の渦を発生させるものだ。
範囲が重複しては意味がないので、俺はクーラの撃ち込む先とズレた地点を目標にした。
前面に展開していた同盟軍に火の手が上がる。
『よおし、突っ込むぞ!』
『あんまり突出しすぎないでよ、イズキ』
『私を置いていったら駄目だからね~』
『大丈夫、ふたりの位置は常に把握しているから』
『え、どうやってるんだいそれ』
『イズキくん、頼もしい!』
同盟軍も矢と魔術を撃ちながら前進しはじめた。
あっという間に距離が詰まり、白兵戦が始まる。
「必要諸元入力、〈ファイア・ストーム/広範囲化〉!」
【並列思考】で準備していた二発目を放ち、風を纏って炎の渦の中に飛び込む。
俺の周囲は常に風の防護により酸欠に陥る心配はないし、火炎の熱も遮断する。
これらの効果はほとんど無意識に発動していた。
風の支配者は、意図せずとも俺に都合のいいように風の方が動く。
極端な使い方をすれば魔力を消費するが、それでも【魔力の極意】を材料にしただけあってコストパフォーマンスは抜群だ。
追い風と〈疾風刃〉に相当する武器術はノーコストだし、風属性に限っては中級攻撃魔術に相当する規模ならノータイムで撃てるだろう。
炎の渦に焼かれた瀕死の傭兵を抜き放った刀『白牙』が放つ風刃の一閃で薙ぎ払う。
剣術でいえば〈烈風刃〉という周囲を薙ぎ払う技に相当するだろう。
風属性の武器術に相当するものならば、風の支配者はいくらでも再現できるのだ。
『タマ2号、設置したよ! どんどん投げていくからね!』
『悪いタマ、もう少し前進する』
『もー! 早いよ!』
だって接敵した連中、全滅しちゃったんだもの。
横目にランドモッタ軍の動きを確認する。
ほとんどは一進一退の攻防を展開しているが、ザクザクと同盟軍を削って前進していく3人組がいる。
アリオスティンとその従者だ。
……やっぱ強いな。
アリオスティンは言うまでもないが、従者のふたりも悪くない。
クーラには劣るが、その辺の傭兵よりは確実に強い。
向こうが突出するのに合わせてこちらも切り込んでいこう。
敵軍を削った先で落ち合えると、いい感じに安全も確保できそうだ。
「〈ファイア・ボルト〉!」
下級魔術を撃ちながら『白牙』を振るう。
祭りは始まったばかりだ。




