72.アリオスティンには失望した
『腕が痛いよ~』
『こっちも疲労が……キツいね』
タマとクーラが疲労により戦闘効率が下がった。
俺は【魂喰い】、【刀】に連動している〈マナ・ドレイン〉、格闘術〈瞑想〉により消費した分の体力と魔力を回復しているから、元気一杯だ。
……疲労のことはすっかり忘れていたなあ。
当たり前のことだが、普通、戦いが1時間も続けば集中力が切れてくるし、体力や魔力の消耗で戦闘能力自体が低下する。
そんな当然のことを俺はすっかり失念していたのだ。
敵中に切り込んで1時間程度。
既にタマとクーラは下げなければならない状態にある。
……まだまだ敵兵が沢山いるのになあ。
俺の率直な感想はと言えば、もったいない、これに尽きる。
せっかく大量の魂を獲得する機会だというのに、下がらなければならないとは。
そして疲労の問題は当然、アリオスティンにも同様だったらしい。
連中も下がり始めたのだ。
……俺はアリオスティンを過大評価していたらしい。
この戦争、俺とアリオスティンがいれば1日で決着すると思っていた。
なにせ俺とアリオスティンを倒しうる敵など、まずいない。
だから戦い続ければ、いつか同盟軍は瓦解するのだと思っていた。
それが疲労で撤退だと?
なんだその凡人みたいな理由は。
敵は元気なはずだが、俺とアリオスティンのパーティにより前線はズタズタにされ、その穴埋めをするはずの後続の傭兵や兵は尻込みしている。
だから俺たちは悠々と撤退できた。
同盟軍は追撃には出ず、ただ何もせずに指をくわえてランドモッタ勢の撤退を見送る。
アリオスティンも余力を残しているし、追撃に来たら俺たちに返り討ちにされるのでそれで正解なのだけど。
それにしてもヌルい。
魂を稼ぐ絶好の機会だと思っていただけに、普通の人は疲労して戦い続けられないという当たり前の常識を失念していた自分が恨めしい。
……これはひょっとして、殲滅戦にならないのではないか?
この戦いで両軍は、ランドモッタが何日か掛けて攻めればいずれ同盟軍を撃破すると理解したはずだ。
ならば同盟軍はランドモッタを攻めるしかない。
しかし攻めたところで、守る側となったランドモッタ勢から俺とアリオスティンがいなくなるわけではないのだ。
きっと酷い被害を出すことだろう。
その上で勝ち負けが見えない。
同盟軍としてはそもそもこの戦争、戦う前の降伏勧告で終わっていたという認識でいたはずだ。
もしランドモッタが抵抗に出たところで、兵力差は歴然としており、簡単に押し返すことが出来る。
そして時間が経つにつれ食料不足が致命的となり、結局ランドモッタは降伏せざるを得なくなる。
……これはもしかして、講和で戦争が終わってしまうのではないか?
被害を出さずに勝つつもりだった同盟軍は、被害が拡大する前に戦争を終えたいはずだ。
一方のランドモッタも、有利な状態でさっさと戦争状態を解消したいはず。
マズい。
俺は同盟軍を殺し足りないのに、戦争が終わってしまう。
目の前には、戦争という大義名分のもとに殺して構わない大量の魂があるのに。
ご馳走を平らげる前に時間切れだなんて、あんまりだ。




