53.さあ夜の始まりだ!
その日は幾度かの戦闘と休憩を経て、日が暮れる前に野営の準備を済ませる。
戦闘は強敵続きで、だいたいレベル30前後の魔物ばかりと遭遇できた。
おかげでタマのレベルは早くも7になり、タマ2号も11に上がった。
夜は徹夜できるようになった俺が不寝番だ。
ふたりにはぐっすりと眠ってもらう。
「ふたりとも俺のことは気にせず、ゆっくり眠ってくれ」
「なんか悪いね」
「う~、私はもうクタクタだから、遠慮なく寝させてもらうね」
タマはあっという間に眠りにつく。
クーラも外套に包まるが、ふと何かに気づいたように顔を上げた。
「イズキ。結局、【夢魔】はどうしたの?」
「取得したけど?」
「…………」
タマと俺とを視線が行き来している。
クーラは「ほどほどにね?」と意味深な言葉を残して眠った。
余計なお世話だ。
俺は夜の森の空気を肺に入れ、剣を抜いた。
【並列思考】により、現在の俺は4つの思考を同時に行うことができる。
まずひとつ目は、この身体を使っての剣の訓練だ。
休憩のときに教わった武器術を習得すべく、素振りを繰り返す。
体力を消費するので、定期的に〈クリエイト・ポーション〉で体力回復薬を生成して飲むのも忘れない。
ふたつ目は、魔術の訓練だ。
【森の魔王】と【夜の魔王】によって魔力は常に回復し続けている。
その魔力を無駄にしないため、魔術を使い続けるのだ。
消費する魔力の配分に気をつければ、常に魔術を行使し続けることができる。
魔力が使いたい放題なんて機会はこれまでなかったから、こんな贅沢な訓練はしたことがない。
魔術の腕を格段に伸ばせるだろう。
みっつ目は、周辺の警戒だ。
【聴覚】【聞き耳】【嗅覚】という人狼族の感知能力に常に意識を向け続ける。
よっつ目は、【夢魔】を使ってタマの夢の中に侵入する。
目的はもちろん――
 




