52.こういう展開を求めていた
タマと街の外で合流する。
タマを【完全獣化】させて思い出したのだが、【完全獣化】すると理性が獣になる。
この状態のタマを街の外で待たせると何が起こるかわからないので、【完全獣化】して金貨袋を担いだタマを俺が塀の外に送り届け、【完全獣化】はその場で解除させることにした。
ちなみにタマ2号は砂のボディを首輪型にして、タマの首にくっついて護衛中である。
魔物であるタマ2号は生物であるため、【完全獣化】の荷物扱いにできないのだ。
常にタマの首輪でいれば、落として失くす心配もないだろう。
「お、いたいた。タマ、誰にも見つからなかったか?」
「うん、誰にも見つからなかったよイズキくん」
「よし、じゃあ次の街へ行くか」
金貨の入った革袋が重そうなので、俺が担ぐことにした。
街に入る時にはまた工夫が必要になるが、今度は俺が塀を越えればいいかとも思う。
戦闘力に不安のあるタマを単独行動させたくない。
「クーラ、できれば戦闘しながら進みたいんだが、魔物と遭遇しやすいルートはあるか? タマとタマ2号を鍛えたい」
「それは難しいよイズキ。基本的に街道沿いは兵士によって魔物が掃討されているから、ほとんど遭遇しないよ。街道を完全に外れて森の中に入ったり山に入ったりしないと」
「面倒だな……」
人類にとっては街の外に広がる農村を守るためにも、魔物は積極的に狩っているらしい。
大量の人口を維持するのも大変だ。
その点、魔族は楽だ。
なにせそこら中にいる魔物は食べ放題。
木々には季節に関わらず何らかの木の実がなっている。
この世界の森は地球に比べてかなり豊かだ。
「とはいえ、タマとタマ2号が弱いままだと旅に支障が出るのは確かかもしれないね。どうしようかイズキ、街道を無視して国境近くの街まで山を突っ切ってみる?」
「いいねえ。俺も久々に戦いたくてウズウズしてるんだ」
「えー、ふたりとも好戦的だな~。わ、私ついていけるかな~?」
というわけで山歩きと相成った。
俺とクーラは旅慣れているが、タマは歩くのも遅いし体力もない。
いきなりハードなコースをとったが、迷宮都市でダンジョンに潜ることを考えれば、このくらいは慣れてもらわないとこまる。
タマとタマ2号は既に俺のダンジョン探索メンバーに入っているのだ。
山に分け入ってすぐに魔物の匂いを感知した俺たちは、当然ながら遭遇戦を選ぶ。
タマはタマ2号を地面に降ろし、人型ボディを形成して準備万端だ。
ちなみにタマ2号の武器はナイフだ。
右手と左手に、持つのではなく4本ずつ埋め込まれている。
テキトーに振り回せば当たるし、取り落とすこともない。
そしてタマ自身には【魂触】で【投擲Lv2】を与えてある。
投げるものはナイフ。
タマ2号と武器を共用できるため、【弓】ではなく【投擲】を選んだのだ。
それに【投擲】なら記憶ツリーの中にあるので、練習すればすぐに取り戻せる。
徹夜し放題になったため、夜の暇な時間にでも習得しなおせばいいだろう。
なお魔術のみならずスキルすら与えられると知ったときのクーラの反応は見ものだったが、……まあ今はどうでもいいか。
さて遭遇した魔物はフォレスト・タイガー、レベル35というなかなかの強敵だ。
タマとタマ2号を中心に戦ってみたかったが、少し相手が悪い。
「タマ2号はタマの護衛に専念。タマは味方に当てないように気をつけて。俺とクーラで倒す」
「え、なんか凄く強そうな虎だけど……」
クーラの腰が引けているが、気にしない。
全力出せばクーラなら1対1でも勝てる相手だ。
……逆に言えば全力を出さないと負けるくらい強いんだけどな。
俺とクーラの武器はそれぞれ剣だ。
クーラは短剣も使えるが、魔物相手にリーチの短い武器は使いづらい。
「いっくよー!」
タマの気の抜けた声で戦端が開かれた。
タマの投げナイフが真っ直ぐに虎に飛ぶ。
良い投げっぷりだったが、さすがにこのレベルの虎だとあっさり避けてくる。
「〈疾風刃〉!」
「〈閃光突き〉!」
俺の〈疾風刃〉とクーラの〈閃光突き〉が虎に向けて放たれる。
ナイフを回避して体勢を崩している隙に武器術を叩き込むはずだったのだが、虎は剣を恐れることなく突進してきた。
俺の剣閃が虎の顔面を切り裂き、クーラの刺突が虎の胴体に突き刺さったにも関わらず、俺に噛み付こうと虎は大きく口を開く。
「〈ウィンド・カッター〉!」
面食らった俺は、咄嗟に風の刃を口の中に撃ち込む。
さすがの虎もこのダメージではそれ以上の猛攻は無理らしく、これが決定打となった。
防御をかなぐり捨てて攻めてきたのには驚いたが、数の差と実力を覆すためにはこのくらいの無理をしなければならないと虎は判断したのだろう。
「いやぁスリリングないい戦いだったぜ。こういうのを俺は求めていた!」
「一歩間違ってたら大怪我じゃ済まなかったよ……」
「あ、私のレベルが上がった!」
さすが35レベルの虎だ。
タマのレベルも6になろうというものだ。
「よし、この山はなかなか楽しめそうだ」
「こういう凶悪な魔物がいるから手付かずなんだろうね、この山は……」
「よしタマ2号、首輪に戻って」
タマ2号は人型だとあまり早く歩くことができない。
そのため普段は首輪型で携帯しておき、ボディは都度形成する運用にしている。
「ところでクーラって、結構いろんな武器術を使えるよね。どこで覚えたの?」
「本神殿だよ。本神殿には人類の領域に送り込む密偵を育てる養成所があるんだけど、そこでしごかれたんだ。短剣と格闘は必須で、それ以外にひとつ以上の武器の鍛錬が義務付けられていたね。武器術はそれぞれの先生に教わったよ」
魔族にもそんな教育機関があったのか。
「休憩のときに教えてよ。俺はまだ、〈疾風刃〉しか使えないんだ」
「いいよ。……でもタマはどうする? 投擲の武器術は僕も知らないけど」
「そうだなあ。当分は武器術なしで頑張ってもらおう。というかレベル上げるのが優先だろ。俺が武器術を習得したの、レベル10代後半になってからだったぞ」
「そうか。自然に身につけられることもあるらしいし、タマの努力と才能に任せてみるのがいいか」
「よっし~、私の凄い才能が開花するのを期待しててね!」
前向きなのはいいことだ。
低筋力で高器用の猫人族だから【投擲】はピッタリだし、うまく上達してくれることを祈ろう。




