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第32話 魔法研究会と部長

「はぁ、はぁ……ここまでくれば大丈夫でしょう……」


俺たちは校舎の端にある、あまりひと気のない廊下まで走ってきた。

さすがのサフィアも、ここまで追いかけては来ないはずだ。

俺は呼吸を整え、隣で同じように息を切らしているリリィに向き直る。


「ありがとうリリィ。助かりましたわ」

「いえ、私も……サフィアさんの実験はちょっと怖かったので……」


リリィが苦笑いをする。

さて、勢いで逃げてきてしまったが、口実として「部活見学したい」と言ってしまった手前、見ないわけにはいかないだろう。

いつか見学したいと思っていたのは事実だ。


「それで、リリィの所属している部活というのは……」

「あ、はい。こちらです」


こんな広い学園だとすぐ迷いそうだなと思いながら、リリィについて行く。

リリィが案内してくれたのは、廊下の突き当たりにある古びた部室だった。


「ここが……魔法研究会の部室です……」

「魔法研究会……」


名前の響きは普通だ。

活動内容も名前の通り、魔法の研究なのだろう。

だが……部室の扉からなんとなく禍々しいオーラというか、ドス黒い何かを感じるのは気のせいだろうか。

俺はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る扉を開けた。


「失礼しますわ……」


中に入ってみると、意外にもそこは普通の部屋だった。

壁際にはたくさんの分厚い魔導書が並んだ本棚があり、中央には実験器具や羊皮紙、謎の石などが雑多に転がっている大きな机がある。

いかにも『研究室』といった雰囲気だ。

そして、その机に向かっている一人の生徒がいた。

何かを調合しているようでものすごい集中力を発揮しているのか、こちらにはまだ気づいていない。

ポーションでも作ってるのだろうか。


「あの……部長……見学したいという方を連れてきました……」


リリィが恐る恐る声をかける。

その直後だった。


ボオオオオオンッ!!


「ひぃっ!?」

「なんですの!?」


いきなり、目の前の生徒の手元が爆発した。

黒煙がモクモクと立ち昇り、部屋中に焦げ臭い匂いが充満する。

俺たちが硬直していると、煙の中から咳き込む声が聞こえてきた。


「けほっ、けほっ……あちゃ~、また失敗か~……」


その生徒がくるりとこちらを振り返る。

顔中煤すすだらけになっていた。


「配合を間違えた……?調整が難しいな~……ってあれ? リリィくん、いつの間に」


部長はキョトンとした顔をしていたが、すぐに俺の存在に気づいて目を輝かせた。


「てかその人誰!? もしかして入部希望者!?」

「い、いえ。わたくしは見学しに来ただけですわ」

「見学ぅ? そんなこと言わないでさ~! 入部してよ~! うち部員数ギリギリでさぁ~!」


部長がいきなり俺の手をガシッと掴み、涙目で訴えかけてきた。

勢いがすごい!初対面相手にこの勢い!

しかしギリギリってどういうことだ?


「ギリギリ?」

「はい……実はここ、3人しか部員がいなくて……」


リリィが横から補足してくれる。

3人? それは確かに廃部寸前かもしれないが……


「というわけでお願い! 君みたいな見学者は千載一遇のチャンスなんだよ!ジョイナス!」

「そんなこと言われましても……まだ何をするのかもよくわかってないですし……いきなり爆発しますし……」


俺はジリジリと後ずさる。

サフィアと似たような雰囲気を感じるぞ?

この学園の「魔法好き」はリリィ以外ろくな奴がいないのか?

冷静沈着な狂人がサフィアなら、こっちは騒がしい狂人だ。


「ていうか、あなたは誰ですの?」

「ああ! ごめんごめん、自己紹介がまだだったね!」


彼女はすすだらけの顔を袖でゴシゴシと拭き、自己紹介をし始める。


「私はベアトリス。この魔法研究会の部長だよ!」

「部長……あなたが?」

俺は目の前の、すすだらけの少女をまじまじと見る。

そういえばさっきリリィも部長って呼んでたな。こいつが……?


「まあ一応ね。君の名前は?」

「わたくしはセレスティアですわ」

「セレスティア……? なんか聞いたことあるような?」


ベアトリスが腕を組んで「うーん」と唸っている。

そしてポンと手を叩いた。


「あ、そうだ! 全属性使えるっていう噂のやつ! 確かそんな名前だった! 君がそうなの?」

「え、ええ……」


俺が頷くと、部長はさらに目をキラキラさせた。

獲物を見つけた肉食獣のような目だ。


「なら、なおさら入ってほしいよ! 全属性がいれば色んなことができそうだ! それに君が入ってくれるなら廃部からも逃れられる!」

「……わたくしを実験台にしようとしてません?」


やっぱりサフィアと同じ匂いを感じる。

俺がジト目で睨むと、部長はあからさまに視線を逸らした。


「そ、そんなことないよ! 私はただ純粋に魔法の研究がしたいだけなんだ! ここがなくなったら困るんだよぉ!」

「……」


目を泳がせながら言っているが、後半の「ここがなくなったら困る」という部分は本音っぽい。

俺はため息をつき、部屋を見回す。


「そもそも部員は3人いるんでしょう? もう一人はどこにいますの?」

「ああ、もう一人の子は幽霊部員なんだ。だからいないようなもんなんだよ」


部長はあっけらかんと言う。


「この学園だと、最低3人入れば部活として認められるんだけどね。ほぼいないやつをカウントしてくれなくて……あと色々あって生徒会から目をつけられちゃっててさ……」

「それは……部長がさっきみたいなことばっかしてるからじゃ……」


リリィが少し呆れ気味にツッコミを入れる。

なるほど、爆発騒ぎを繰り返していれば目をつけられるのも当然だ。


「ええ~、そうかなぁ? ってそんなことはどうでもいい!」


部長は強引に話を戻すと、俺の両手をガシッと握りしめた。


「全属性が扱えて有名人のセレスティアくんがいれば、さすがに廃部になんてできないでしょ! だからお願い! 魔法の研究するだけの部活だから! 怖くないから!」


部長が必死に頭を下げてくる。

まあ、ここまで言われると、さすがに無下に断るのも気が引ける。

それに……


(魔法の研究、か)


前世にはなかった「魔法」。

転生してからずっと感覚だけで使ってきたけれど、理論的に研究するというのは面白そうだ。

実験台になるのは御免だが、自分で研究するなら悪くない。


「……仕方ありませんわね。入って差し上げますわ」

「本当!?」


部長がパッと顔を上げた。


「ありがとう~! これで実験が捗るよ~!じゃあ早速……」

「……やっぱりやめようかしら」

「じょ、冗談だって! さあ、入部届書くよ!」


こうして俺は、爆発魔が部長を務める「魔法研究会」に所属することになったのだった。

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