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第31話 初めての座学

「リリィ、次の授業はなんですの?」

「教室で歴史の授業ですよ」


食堂での「肉祭り」を終えた俺たちは、廊下を歩きながらそんな会話をし、教室へと向かっていた。

今まで実技ばかりだったが、当然座学もあるらしい。

まあ、魔法学園だしな。知識も必要か。


教室に入ると、エリスがこちらに気づき、ブンブンと手を振ってきた。


「セレスティアさーん! こっちですよー!」


相変わらず元気だな、この女神は。

俺たちが席に着くと、エリスはニコニコしながら話しかけてきた。


「おやぁ?そのエルフの方はお友達ですか?新しいお友達ができたみたいでよかったです♪」

「ええ、まあ……少し個性的ですけれど」


俺が言葉を濁していると、サフィアがチラリとエリスを見た。


「……こんな人いたっけ? まあいいか」


サフィアは興味なさそうに呟くと、すぐに視線を外して席に着く。

もし目の前の人物の正体が女神だと知ったら、サフィアの性格上間違いなく興味津々になるだろう。

「未知の研究対象」として解剖されかねない。

危なかったなエリス。

まあこいつが負けるとは思えんが。


「では、授業を始める」


みんなが席についたところで年配の先生が入ってきて、午後の授業が始まった。

歴史の授業かぁ……この世界については何も知らないとはいえ退屈そうだなぁ。


「えー、では教科書の12ページを開いて……我がヴェリオサンドラル王国の成り立ちについてじゃが……」


教科書なんて持ってないんだが。

すると、隣のエリスが教科書を取り出し小声で囁く。


(どうぞ♪セレスティアさんの分ですよ♪)


さすが、相変わらず用意がいいな。

助かる~。ありがたく使わせてもらおう。


そして、先生が黒板に大陸の地図を描き始める。

ふーん。俺たちが住むこの国はヴェリオサンドラル王国といって、大陸の中央に位置する最大国家らしい。

そして、俺が通っているここが、国名を冠した中央の学園「王立ヴェリオサンドラル魔法学園」だという。


(へぇ……初めて聞いたな)


俺は頬杖をつきながら、ぼんやりと黒板を眺める。

転生してきてから魔法の練習ばかりで、国の名前すらろくに知らなかった。

まあ、知ったところでどうということもないんだが。


「……この国の王族であるヴェリオサンドラル家は代々強力な魔力を持っており、その血を引く今の殿下も当然優秀じゃ」


ヴェリオサンドラル家……。

そういえば、俺が逃げ続けているクロード殿下のフルネームも知らなかったな。

クロード・ヴェリオサンドラル……とかか?

国の名前をそのまま背負っているのか。

だが、俺には関係ない話だ。

関わりたくもないし。

先生の話は単調で、正直退屈だ。

歴史を学んだりするより、もっとこう魔法でドカーン!とかのほうがやりたいんだよなぁ。

それに……


(わからないことがあったら、こいつに聞けばいいんじゃないか?)


俺はチラリと隣のエリスを見る。

こう見えて女神様だぞ。

先生よりよっぽど世界のことには詳しそうだ。

エリスに聞いたほうが早いに決まっている。

もしテストとかあっても、エリスという最強のカンニングペーパーがいれば勉強なんてしなくても余裕なのでは?

てかこいつは何を思って授業の話を聞いているんだ?


「セレスティアさん♪」


ふと、エリスがくるりと俺の方を見る。

そして、俺の顔を覗き込みながらニッコリと微笑む。


「ちゃんとお話聞かないとだめですよ~♪」

「っ!?」


……読まれた。

こいつ、俺が「お前をカンニングペーパーにしよう」とした思考を読み取りやがった。

女神の勘、恐るべし。

俺はバツが悪くなって視線を逸らした。

ふと、隣を見ると……


「…………」


サフィアが微動だにしていなかった。

背筋をピンと伸ばし、教科書を広げ、真っ直ぐに黒板を見つめている。

意外にもちゃんと聞いてるのか……と思いきや。


「……スピー……」


寝てる。

目を開けたまま寝てやがる。

器用すぎるだろこのエルフ。

やはりあれだけの肉を食べて、このポカポカ陽気だ。抗えなかったらしい。

野生動物か何かか。


「……ふむ。そこ、サフィア君」

「……」

「サフィア君?」


先生が気づいて声をかけるが、サフィアは彫像のように固まっている。

美しい姿勢のまま、意識だけが森へ帰っているようだ。


「……サ、サフィア様、起きてください……!」


隣のリリィが、小声で慌ててサフィアの袖を引く。


「……ん」


サフィアがビクッ!として、瞬きをした。

そして何事もなかったかのように、スラスラとノートにペンを走らせる。

こいつ、寝てたこと誤魔化しやがった。

というか、何を書いているんだ?

チラリと覗き込むと、ノートには先生の説明ではなく「やりたい魔法実験」という項目で何かが箇条書きされていた。

怖いから詳しくは見ないでおこう。


(……このエルフ、やっぱり自由すぎる)


俺は呆れつつも、あくびを噛み殺した。

俺もそこそこ食べたしな。眠い。


「では、今日の授業はここまで。次回は建国の歴史について詳しく解説するぞ」


ゴーン……ゴーン……


終業のチャイムが鳴り響く。


「終わった……」


サフィアがパタンと教科書を閉じた。

その目は、授業中とは打って変わってギラギラと輝いている。


「行くよ、セレスティア」

「へ?」

「授業はもう終わり。つまり」


サフィアが立ち上がり、俺を見下ろしてニヤリと笑った。

嫌な予感がする。ものすごく嫌な予感が。


「私の実験の時間。食べた分は消費しないと」

「じ、実験って……何をしますの?」

「うん。色々。全属性の耐久テストとか、魔力回路の限界測定とか」


サラッと言ってるけど内容が怖い!

絶対にろくなことにならない。逃げないと。

俺は必死に逃げ道を探して、視線を巡らせる。

そこでふと、リリィの姿が目に入った。


(そうだ! リリィって確か……)


俺はリリィに詰め寄った。


「リリィ! あなた、部活に所属していると言っていましたわよね!?」

「え? あ、はい……今日も活動があって……」

「そうですわよね! わたくし、リリィの部活を見てみたいですわ!」

「えっ、私の……ですか?」


リリィが目を丸くするが、今はこれしかない。

俺はサフィアに向き直り、申し訳なさそうな(演技をした)顔を作る。


「というわけですのでサフィアさん、申し訳ありません! わたくし先約がありましたの!」

「……ちっ」


今舌打ちした? エルフが舌打ちした?

サフィアは不満そうにジト目でこちらを見ているが、無理やり連れて行くほどではないらしい。


「行きましょうリリィ! 遅れてしまいますわ!」

「あ、あのっ、セレスティア様、そんなに引っ張らなくても……!」


俺はリリィの手を取り、サフィアが気が変わらないうちに教室を飛び出した。

ごめんリリィ、巻き込んで。

でもあのマッドエルフの実験台になるよりはマシなはずだ!

こうして俺たちは、エルフの魔の手から逃れるように廊下を駆けていった。

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