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第28話 初めての水魔法とサフィアの実力

「では始めましょう。まずは基本の『水球ウォーターボール』の生成と制御です」


水球ウォーターボール

昨日先生が最初に見せてくれたやつか?


「では、実践の前に私が手本を見せましょうか」


アルノート先生が穏やかに微笑み、スッと片手を前に出す。

すると水が集まっていき、先生の手のひらの上でテニスボールほどの大きさの球体となった。

「水魔法で大切なのは『維持』と『循環』です。ただ水を固めるのではなく、常に魔力を循環させて形を保つのですよ」


先生が指をくるくると動かすと、水球はプルプルと震えながら星型やハート型へと滑らかに形を変えていく。

その見事な制御技術に生徒たちから「おおぉ……」と感嘆の声が漏れた。

さすがは先生、基礎魔法といえどレベルが違う。


「……とまあこれが応用ですが、いきなり形を変えるのは難しいですからね。まずは基本である球の形を作ってみましょう。では、ペアで取り組んでみてください」


アルノート先生の指示が飛ぶ。

生徒たちはそれぞれスペースを確保し、練習し始めた。


「では、わたくしたちもやりましょう」

「うん」


俺とサフィアは演習場のスペースを確保し、向かい合って立った。


「まずは私がやる。よく見てて」


サフィアが俺の正面に立ち、スッと右手を差し出す。

何もない空間から水粒が集まり始めた。

大気中の水分を集めているのか、純粋な魔力で生成しているのか。


「『水球ウォーターボール』」


彼女の掌の上で、ソフトボール大の水が完全な球体を維持して回転している。

表面が波打つこともなく、まるで研磨された水晶玉のように輝いている。

美しい。

魔法好きを名乗るだけあって実力も確かなようだ。


「綺麗……ですわね」

「水は心を表す。心を波立たせないこと。それがコツ」


サフィアが淡々と言う。

そして手のひらを握り込むと、水球はパシャリと弾けて霧散した。


「なるほど、心を無にするのですわね……」

「そう。焦らず、静かな水面をイメージして」


サフィアのアドバイスを受け、俺は自分の前に手のひらを出す。

深呼吸をする。

昨日のクエストの火魔法の二の舞にはならない。慎重に、慎重に……。


(イメージ……ポタポタと落ちる水……)


俺は恐る恐る、魔力をほんの少しだけ解放した。


「……『水球ウォーターボール』」


シーン……。

俺の指先に、ビー玉くらいの水滴がポチョンと浮かんだ。


「うーん……」

「小さい」


サフィアが真顔でツッコミを入れる。

うぐぅ……! さすがに慎重になりすぎたか?

もうちょい大きいのが出るかと思ったんだが。


「も、もう少し出力を上げますわ!」

(えーっと、もう魔力を解放して……これくらいか?)


俺はもう一度水の球をイメージし、魔力の供給量を増やした。


「『水球ウォーターボール』!」


その瞬間だった。


バシュゴオオオオオオオッ!!!!


「えっ」


指先から放たれたのは、可愛らしい水球ではなかった。

何かが破裂したかのような音とともに噴出する超高圧の激流。

それが、真正面でお手本を見せてくれていたサフィアを襲った。

回避不能と思われる至近距離。

俺が叫ぶより速く、サフィアの表情が変わった。

彼女の瞳が一瞬だけ鋭く光る。


「『水壁ウォーターウォール』」


バシャアアアアアン!!


俺の放った激流が、サフィアの鼻先数センチで展開された半透明の障壁に激突する。

凄まじい水音が響き渡り、行き場を失った水が爆発したように四方八方へ飛び散った。


「うわあああああっ!?」

「きゃあああああっ!?」

「なんだあ!?」

「雨!?いきなりなんなの!?」


周囲で練習していた生徒たちから悲鳴が上がる。

飛び散った水は雨のように降り注ぎ、演習場の一角を瞬く間に水浸しにした。


「はやく止めないと……!」


俺は慌てて魔力の供給を断つ。

水流が止まると、俺の前方だけ芝生がめくれ上がっていた。

そしてその中心には――


「ふぅ」


直撃こそ防いだものの、弾け飛んだ大量の水で全身びしょ濡れになったサフィアが立っていた。

美しい青髪が肌に張り付き、制服からポタポタと水が滴っている。

だが、その体に傷一つない。

あの至近距離からの放水を、とっさに壁を作って受け流したのだ。


「サフィア……?」

「驚いた」


サフィアが、濡れた前髪を払いながら言った。

その表情には、恐怖ではなく、純粋な驚きと好奇心が浮かんでいる。


「『水球』であれだけの水量を出すなんて。キミ、加減というものを知らないの?」

「わ、わたくしを誰だと思っていますの?これくらいできて当然ですわ!」


また暴走してしまったわけだが、こうなったらもう開き直るしかない。

しかし、不意打ちに近い暴走を防ぎきるとは……やはり彼女も相当な実力者だ。


「うん、わかってる。わざとじゃない。殺気はなかった。ただ魔力が規格外なだけ」


サフィアは魔法を使い濡れた制服から水分だけを分離させて服を乾かす。

服を乾かすなんて風魔法をイメージしてたがこんな使い方もできるのか。

そして、服から水分を抜き取ったあと、サフィアはニヤリと笑った。


「やっぱ面白い、キミの魔法。もっと見たい」

「えぇ……」


サフィアの視線に少し恐怖を感じていると、ふと背後の気配に気づく。


「あの~……セレスティアさ~ん……?」


恐る恐る振り返ると、そこには頭から足の先までずぶ濡れになったアルノート先生が立っていた。

他の生徒たちと一緒に先生も流れ弾を浴びてしまったらしい。


「ひぃっ!? せ、先生!?」

「素晴らしい水量ですねぇ……とても初心者とは思えませんよ……」


先生はニコニコしているが、その笑顔が逆に怖い。


「そ、そうでしょう! わたくし優秀ですから!」

「やりすぎです……みんなびしょびしょですよ……」


「はぁ……」とため息をつきながら、先生は魔法で自分と周囲の生徒たちの服に染み込んだ水分を一瞬で抜き取った。

さすがだ。これだけの水を扱えるとは。


「セレスティアさん、あなたの魔力量は素晴らしいですがもう少し『球』の形を意識しましょうか……このままだと演習場が池になってしまいます……」

「ええ……善処しますわ……」


周囲の生徒たちは、「関わったら死ぬ」という顔でさらに距離を取っていた。

こうして俺はサフィアという新たな生徒に出会い、水属性について学んだのだった。

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