第3話:初めての依頼と、一文字の奇跡
「では……村の依頼、受けてみるか?」
村長の言葉に、悠斗は小さくうなずいた。
「どんな依頼なんですか?」
「西の森に“黒煙虫”が巣を作ってな。森の火薬草が全滅しかけている。火薬草はこの村にとって大事な資源でな……薬にもなるし、火起こしにも使える。もしよければ、巣の場所を突き止めてきてほしい」
「戦わなくてもいいんですか?」
「今回は“偵察”だ。戦う必要はない。だが、用心せよ」
村長は、手のひらほどの木の板を渡してきた。
そこには、文字が一つだけ書かれている。
【探】
「これは“探知板”だ。周囲に反応があれば光る。便利な道具だが、反応の種類まではわからん。おぬしの“変字”の力があれば、どんな敵がいるか分かるかもしれん」
「……やってみます」
⸻
村の出口で、悠斗は一度立ち止まった。
「……そういえば、ガチャ、引いてなかったな」
空に意識を向けると、昨日と同じく透明なウィンドウが現れた。
⸻
《今日の運命ガチャを引きますか?》
【YES】 【NO】
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【YES】を選ぶと、またしても空からカプセルが降ってきた。
コロン、カラン。
中から出てきたのは……丸っこい石ころ?
【★★☆☆☆:意思を持たない召喚石】
→“召喚”と書かれた場所に置くと、一度だけ小動物を呼び出せる。すぐ消える。かわいい。
「……うん。ハズレっぽい」
だが、とりあえずポケットにしまって森へ向かった。
⸻
森の中は薄暗く、鳥の声と、カサカサという小さな音が響いていた。
「探知板」は反応なし。
「……静かすぎないか?」
進んでいくと、ふと空気が変わった。
「……!」
板がうっすら光った。
文字は【探】――そのままでは意味が分からない。
悠斗は静かに“鑑定”の力を使った。
──【探】→《探:周囲に“熱と毒”を持つものが接近中》
「毒……!?」
慌てて後ろを振り返ると、黒い煙のような虫が、地面を這うように近づいてくる。
まるで霧の中から生まれた影のように――数十匹。
「うわ、やばいやばいやばい!」
悠斗は慌ててポケットの中の“召喚石”を取り出し、近くの岩に置いた。
すると、ふんわりとした光が立ちのぼり、小さなウサギのような魔物が現れた。
「きゅいっ!」
その瞬間、黒煙虫たちが一斉にそちらに向かって移動し始める。
「……あ、陽動になった!?」
わずかな時間。
悠斗はその隙に、木の陰を使って巣の場所を確認した。
岩陰に、黒くて大きな穴。そこからもやが絶え間なく立ちのぼっていた。
「ここだ……!」
ウサギの魔物は数秒後、黒煙虫に追われて光となって消えた。
だがそのおかげで、悠斗は巣の位置を突き止めることができた。
⸻
村へ戻ると、村長がゆっくりとうなずいた。
「よくやった。おぬし、“外れガチャ”すら使いこなすとは、面白い男だ」
「……本当はビビって逃げただけですけどね」
「それでもいい。運と知恵と、そして“言葉を見る眼”があれば、おぬしはこの世界で生きていける。……いや、きっと、何かを変えていくことになる」
悠斗は、何も答えなかった。
ただ少しだけ、心が軽くなった気がした。
そして夜。
彼は再びベッドに寝転びながら思った。
「……明日は、どんな文字が見えるんだろうな」