第4話:沈黙の少女と、ことばの鍵
村の朝は早い。
土を耕す音。家畜の鳴き声。パンを焼く香ばしい匂い。
悠斗は、村の暮らしにも少しずつ慣れてきていた。
「これが毎日続くなら、少しは落ち着けるかもな……」
そんなことを思いながら、村の道を歩いていると、花を抱えた小さな女の子が、じっと彼を見つめていた。
「……ん?」
女の子は何も言わず、じっと悠斗の顔を見上げている。
金色の髪を編み込みにして、ふわっとした麻の服を着ていた。
「あ、こんにちは。……君、名前は?」
少女は何も言わず、首をかしげた。
代わりに、懐から小さな木札を取り出し、見せてくる。
そこには、こう書かれていた。
【黙】
(……“黙”って、名前じゃない。これ、“しゃべれない”って意味か?)
そこに、少女の母親らしき女性が走ってきた。
「あら、ごめんなさい! この子、リーネっていいます。声が出せないんです。生まれつき……って、神殿では言われてました」
「リーネ……そうなんですね。大丈夫ですよ」
悠斗は、そっと微笑みかけた。
リーネはにっこり笑って、また木札を掲げて見せる。
その行動には、言葉以上の想いが込められているように感じた。
(……この文字、“変字”で視れば何かわかるかも)
そっと、【黙】の一文字に“鑑定”の視線を向ける。
──【黙】→《黙:禁の呪い。感情を声にする行為を制限する封印文字》
(やっぱり……! これは、呪いだ)
悠斗は息をのんだ。
この世界では、“意味”がそのまま力になっている。
つまり、【黙】という文字そのものが、リーネの声を封じているのだ。
(……やってみるか)
リーネの目を見て、優しく聞いた。
「リーネ……ちょっと、この文字、変えてもいい?」
少女は一瞬、不安そうな顔をしたが、やがて小さくうなずいた。
悠斗は札に手をかざし、意識を集中する。
「『黙』を……『話』に、変字える」
木札の文字が、かすかに光を放ち、《話》へと変わった。
そのときだった。
「……お、おにい……ちゃん?」
風のようにかすれた声。
けれど、確かにリーネの口から“声”が出た。
「リーネ!?」
後ろで見ていた母親が、息をのんで駆け寄る。
「声……リーネ、声が……! しゃべったの!? 本当に……?」
リーネは、自分の唇に手を当て、何度も何度もつぶやいた。
「はなせる……ほんとに、はなせる……!」
悠斗の胸に、じんわりと温かいものが広がった。
──文字を変えたことで、救えた命があった。
そう実感したのは、このときが初めてだった。
その直後――。
「カン、カン、カン!! 村の北門に魔物出現!」
警鐘が鳴り響いた。
悠斗は振り返り、空を見上げた。
今日のガチャを、まだ引いていない。
「……世界のルールがわかってきた。じゃあ次は、勝つ番だな」




