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先輩と巨漢

「あなたが日向景ね!」

「・・・・?」

 時間が止まったかのように、沈黙の時間が流れていく。

「どうされたんですか?」

 たまらず俺がそう聞くと、目の前に立っている人気子役、環ちゃんは俺のほうを向いて言った。

「私、日向景のファンなの」

「ファ、ファン?」

「そうよ。ありがたく思いなさい!」

 初対面から超上から目線な環ちゃんは、景の目の前まで来て、

「私、あなたの芝居とても好きなの! 同じ女優同士ともだちになりましょう!」

 景は踊りた様子で俺の方を向いている。

「な、何とか言ってやれよ」

 俺が景にそういうと、景は目の前にある環ちゃんの頭をなで始めた。

「わかったわ、友達になりましょう」

 落ち着いた声で言っているが、その表情は満面の笑みを浮かべている。

 頭を撫でられ、子ども扱いをされるのが嫌なのか、環ちゃんは、

「ちょっと、私子供じゃないんだから。こう見えてもあなたよりテレビ歴は長いのよ! 先輩と呼びなさい!」

「うん、わかったよ。環ちゃん」

 環ちゃんの話を一つも聞き入れず、景は頭をなで続けている。

 俺はその間に割り込むようにして、環ちゃんに話しかけた。

「それで環ちゃん、後ろの人は?」

「ああ、この人は私のマネージャーのアレクサよ」

 外国人なのか?、環ちゃんの後ろに立つ巨漢は、ぬっと前に出てきて、俺に名刺を渡した。

「初めまして、アレクサです。」

 慌てて俺も名刺を取り出して、アレクサに渡す。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 アレクサは受け取った名刺をしばらく見つめて、鋭い目つきで俺と景を見比べた。

「兄妹というのは本当のようですね」

「そ、そうですか? あまり似ていないと思うんですけど・・」

「いえ、似てますよ。瞳の奥で燃え盛る炎、心の奥底に眠る小川のような優しさ。うん、とても似ている」

「あ、あはは、面白いですね・・」

 カタコトの日本語で発せられる俺たち兄妹に対する感想はよくわからなかったが、環ちゃんが補足を入れてくれた。

「アレクサは少し変わっているのよ。あと、日本語はまだ勉強中だからたまにおかしなことを言うのよね」

「よくそれでマネージャーが務まってるな」

「まあね、アレクサがいるだけで身の危険はないもの」

 それもそうだ。環ちゃんのような小さな子の隣にいると、その大きさがより一層引き立つ。

「そうだ、環ちゃん! 私、環ちゃんのサインが欲しいの」

 景がバッグから色紙を取り出して、環ちゃんに渡す。

「私のサイン? ふん、まあいいわ。人気女優で先輩の私のサインだものね。仕方ないわ、書いてあげる」

 相変わらずの上から目線だが、景はそれすらも可愛いと思っているのだろう。

 すらすらとサインを書く様子を見ると、さすが人気子役といったところだろうか。

「私も景ちゃんに聞きたいことがあるの!」

 初対面でいきなり名前で呼ぶ環ちゃんだが、当の本人は嬉しそうだ。

「なあに? 私にできることなら何でも言って?」

「私、あなたの芝居について聞きたいの。どうしてあんなに役に入り込めるの?」

「役に入り込む?」

「うん!」

 景はぽかんとしている。

 それもそのはずだ。景は役に対して意識などしていない。台本を読んだり、リハーサルをしているうちに自然と役が体に入り込んでいるのだ。

 たまに役に入り込み過ぎて、撮影期間中は家でも口癖や口調が変わるほどだ。

 急に黙りこくってしまった景を見て、環ちゃんは不思議そうな表情をしていたが、はっと思いついたように言った。

「さては、人が多い場所では教えられないのね。いいわ、向こうの別室の控室に行きましょう」

 そういって環ちゃんは景の手を引っ張って立ち上がらせた。

「アレクサ、撮影までまだ時間あったわよね」

「ええ、だいじょうぶですが」

 アレクサは俺の方を見た。

「ああ、景もしばらくないから大丈夫だ」

 環ちゃんは嬉しそうな表情で景を連れ去っていった。


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