09 今だに変化の兆しなし
本日二度目の投稿です。
次の日の朝、そこには二日連続で異様な空気が漂っていた。
否、異質なものが水樹が目覚めた時には存在していた。
「み、水面さん?」
水樹が布団から体を起こすと、リビングに立っていたのは楓の姿だった。
大き目の縦鏡を前に制服を着ているようだった。
「起きましたか」
「あの~何をなさってるんですか?」
「見て分かるでしょう。準備です」
「今なんと?」
「準備です」
「俺は夢でも見てるのか?」
水樹は立ち上がり両手をごしごしとこする。
「いや、夢じゃない」
「失礼です」
「す、すまん。それで…………一体どういう心境の変化だ?」
「と、特には。私だって一人で生活できるようになるためです」
ここに来てようやく、楓の行動に変化の兆しが表れ始めた。水樹はようやく初めの一歩を踏み出したと感慨にふけりながら歩き出し、数秒後。
水樹は再び落胆することになる。
地面に散らばる下着やらの服の数々。
目の焦点があいようやく気付く部屋の惨状。地面には足の踏み場もなく、準備していたという楓自身の服装も進展はしておらず、所々下着やら白い肌が姿を見せるけしからん格好になっている。
どうやら変化したのは楓の心構えであって、生活の能力が向上したわけではなかった。
「ごめん。この惨状を見たら素直に喜べないや」
「…………」
水樹は天国から一気に地獄に突き落とされたかのように肩を落とし、トボトボと洗面台に向かうのだった。
「」
それから一時間後、確かに楓の意識の変化で時間には余裕が生まれていた。
二人は既に朝食を食べ終わり、時間にはあと20分程度の余裕がある。
水樹は楓の後ろに立ち、以前と変わらず髪をといていた。部屋は相変わらず服が散乱しているため二人はベッドの上だ。どうやら着替えをする気にはなってもできることとできないことがあるらしい。
まあ水樹もそんなすぐに楓の生活が良くなるとは思ってもいなかったため存外平常心を保っている。
「すいません。お手数おかけして」
「いや、いいよ。俺もそんなすぐに良くなるなんて思ってなかったし」
「はい…………」
明らかにしょんぼりと項垂れる楓。
「で、でも水面さんが自分から早起きしてたことは正直凄いと思った。一体何時から起きてたんだ?俺よりも早かったよな?」
「三時です」
「三時!?」
水樹が起きる二時間前から楓はどうやらおきて準備をしていたらしい。
「私、風邪をひいた時に寝すぎたせいか夜まったく眠れず目が覚めたのだ丁度三時ですることも無かったので…………」
「あ、そう」
水樹の目が死んだ。
水樹は大きな勘違いをしていたのだ。楓の意識が変わり自分から早起きをしたわけではなく、寝すぎたせいで眠れず、しょうがなく準備をしていたということに。
「えっと…………つまり自分から早く起きようと思ったわけじゃないんだな?」
「…………そうなりますね」
つまりは楓の意識は大して変わってないということだ。
自然に目が覚めた。寝付けないからちょっと準備でもしてみよう、である。
まさに前途多難とはこのことだった。
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