08 ちょっとした約束
評価ありがとうございます。
「体はもう大丈夫なのか?」
「はい。おかげさまで熱も下がりました」
楓が起きた時間は午後7時。辺りはすっかり薄暗くなっている時間帯だった。
その間水樹は特にやることも無かったため、らしくも無い勉強に取り組んでいた。その時に楓は目を覚まし、体温計で熱を測ると体温はすっかり落ち着いていた。
「結局、貴方は学校を休んだんですね」
楓はベッドに座りながら水樹に話しかける。
「ああ、別に大したことじゃなし」
「そうですか…………それで、貴方は今何をしているんですか?」
そう言って楓は水樹の取り掛かっているものを指差した。
「ん?勉強だよ。らしくも無いけどこれしかやることも無かったし」
「見せてください」
「お、おう…………」
差し出された楓の手に困惑しながらも、水樹は開いていたノートを楓に渡した。
「意外に解けていますね。ですが最後の問題、計算ミスしてますよ?」
「え?うそ」
「本当です」
その言葉を気に楓は丸テーブルの向かい側、ではなく水樹のすぐ隣に腰掛けた。
「ここです。簡単なミスですが」
「あ、ホントだ」
今更だが楓は頭がいい。今までに行われた高校一回目の中間テストでは堂々の一位を取っていた。対する水樹も並の高校生よりは頭がいい方に部類される。学年で掲示されるテストのトップ50の中には何かしら名前を載せていた。案外遊びに現を抜かさなければ成績も自然に上がるものなのだろうか。
それでも一位の楓の存在によりそれよりも順位が下の人間、特に水樹のような中途半端な人間はよりかすんで見えるのだった。
「分からないところがあれば教えますが…………そんなにじろじろ見てどうかしましたか?」
気付けば水樹は楓を見ていた。
「あ?いや……生活破綻者ってところを除けばやっぱり何でもできる女神様なんだなって」
勉強もできて、女子の中では運動神経がいい方に部類される。極めつけはこの容姿。ただ一点残念のは生活能力の無さだった。
「余計です」
「す、すまん。でも勉強は今の問題で終わったから大丈夫。ありがとう」
「そうですか…………では私は何をすればいいですか?」
「はい?」
「ですから、その…………感謝の気持ちです。いつもいつも貴方にはお世話になってばかりなので…………」
楓の視線は水樹を捉えることなく、地面を向いてほんのり頬は赤かった。どうやらこれは楓なりの感謝の意思表示なのだろう。
そんな楓の様子がとてつもなく可愛く、自然に水樹もそんな視線を天井に移していた。
「別に気にしなくていいって、どうせバイトでやってることだし」
「それでも、何かしないと割に合いません」
どうやら本当に何かしないと気が済まないらしい。
ここまで強引な楓の姿は当然学校で見るはずもなく、水樹は多少困惑した。
「それならいち早く一人で生活できるくらいに…………」
「それは私の問題です。もっと…………その、貴方の役に立てるようなことをですね…………」
そして暫く水樹は顎に手を当て考え耽る。
「だ、だったら今日みたいに少しでも時間があるとき、勉強を教えてよ」
「勉強ですか?」
「うん、勉強。それだけでいいから」
「そ、そうですか。貴方がそれでいいのなら私は良いですけど」
「じゃ、そういうことで」
会話の波が収まった。
そしてお互いがようやく互いの距離を意識した。
今の距離は少し動くだけで互いの肩が触れ合う距離。水樹の鼻には洗剤の匂いと女の子独特の匂いが入り込み一気に顔が赤くなる。
楓もまたらしくない強引な行動をとったことに羞恥の針が降り切れ顔が真っ赤だった。
「そ、それよりも水面さんはお風呂に入ったら?少しはさっぱりするだろうし。その間俺は夕食作っておくから」
「そ、そうですね。夕食の方はお願いします」
その後の二人の食卓はいつも以上に緊張した空気が立ち込め、それはもうお互いが居心地が良くないと感じる空間だった。
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