49 少し遅れた引っ越し作業
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「今日はよろしくお願いします」
週末、青空の元に水樹や楓をはじめ五人がおんぼろアパートの前に集合していた。
各々が動きやすいジャージといった服装に身を包み準備万端。
楓が揃った面々にお辞儀をして今、大作業が始まろうとしていた。
「という訳で、今日はよろしく頼む」
「まぁ、私も写真の時協力してもらったお礼がしたかったから気にしないで」
「そうそう!俺も未来もこれぐらいどおってことないから!」
「ありがとう。だったらお言葉に甘えさせてもらう」
「おうよ!」
「それに冴枝さんもありがとう」
「そんなに気にしないで!私も暇だっただけから」
千歳もまた事情を知っている人間である。こうして仮もないのに手伝ってくれるあたりは人の良さを感じる。
本当は水樹と楓だけで解決するべき問題なのだろうが、こうして協力を快くひきうけてくれるのは水樹も楓も気分がよかった。
「それにしても冴枝さんが二人の事情を知ってるとは思わなかった」
今日初めて千歳と顔を合わせた未来は素直に思ったことを口にした。
「あーそれは俺も同感だわ」
「まぁ、色々あってな」
「そうそう。色々あって」
水樹の言葉に続けて話す千歳。ちなみに千歳はは相変わらず昔の姿を感じさせない学校の人気者の姿だった。
そして今の水樹と千歳はあれからすっかり気兼ねなく話せる中に戻っていた。普通に現在会話をしているのが何よりの証拠だろう。
「じゃあ始めるか。取り敢えず重い荷物は俺と春馬が運んで、比較的軽いものとかは三人で運ぶ感じで」
水樹の提案に各々が反応し、作業が開始された。
水樹と春馬はタンスやテーブルといったものを2回のアパートの部屋から外に出し、トラックの荷台へ移動させる。
このトラックはアパートの大家さんのもので、荷物を引き取り退去すると相談したら快く運搬を引き受けてくれたのだ。
水樹と春馬は黙々と重い荷物を運ぶ。
季節は9月半ば。そろそろ涼しく感じる時期だが、重いものを往復で何度も運ぶうちに二人の額からは汗が吹き出ていた。
「流石にそろそろ疲れてきたな」
「ああ。流石に運動部でも結構キツいわ」
ある程度区切りがついた頃、春馬と水樹はアパートの階段、少し日陰の部分に腰を下ろし休憩していた。
「向井さん、峰崎くん」
そして休憩する2人の後ろから声をかける存在が一人。
「水面?」
そこにはジュースの缶を二本持った楓の姿があった。
「あの、手伝ってもらっているのでお礼も兼ねてコレを」
そう言って楓はジュースの缶を二人に差し出す。
「ああ、ありがとう!水面さん」
「ありがとう」
二人は楓から缶を受け取る。
そして缶を開け、一気に中の飲み物を飲み干した。
「いや〜ほんとにありがとう!流石水面さんだね!未来もこのくらいしてくれたら.....」
「ハルくん?」
そんな陽気な春馬の声とは裏腹に氷のように冷たく鋭い未来の声が春馬にかけられた。
「あ、いや、その......」
「ちょっとこっちに来てもらおうかしら、ハルくん?」
「は、はい」
そうして連行される春馬。
その場には水樹と楓がポツリと残された。
「あれは怒らしたな」
「そうですね」
そして残された2人は日陰で細々と会話を始める。
「それにしても、最近水面って気が利くというか....周りをよく見るようになったというか、変わった感じがする」
「はい?」
「いや、今はこうして飲み物くれたし、この前もなんだかんだで迎えに来てくれたんだろ?」
それは千歳とのデートの終わり際。駅にきた楓の目的は水樹を迎えに来たというものだった。
「これくらい私にもできます」
少し視線を逸らしながら楓は答えた。
「おっとそれは失礼」
「バカにしてます?」
「いやいや、そんなことは無いですよ?」
「絶対バカにしてますね」
「まあ少しは?」
「もぅ」
ちょっとしたじゃれあいのようなものだった。水樹は内心、あれだけ冷たい氷のようだった少女がここまで軟化するようになったのは予想外だった。だがしかし本音を言えば今の楓は悪くないと思っていた。
それから二人はしばらく休憩を挟んだ後、再び作業を再開した。
何故か春馬は休憩した後の方がげっそりとしていた理由は言うまでもないだろう。
そして休憩を挟んでからおおよそ1時間弱で全ての荷物をトラックの荷台に運び終えた。
こうして楓の荷物を移動させる引越し作業の前半戦は無事に終了したのだった。




