46 修羅場?
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水樹と千歳は日が沈んだ午後8時に集合した駅に戻ってきた。
「今日はありがとう」
「いや、俺も楽しかったから」
「そう?なら良かった。最後のは少し誤算だったけど」
千歳の言う最後のというのは恐らく本屋のことだろう。本人も最初はなるべく隠し通したかったらしい。
「まぁいいだろ?」
「そうだね。別に水樹だし」
「お、おう」
「じゃあ私、もう一本電車だから」
「送らなくて大丈夫か?」
「いいよ、気にし....」
「峰崎くん?」
不意に聞き慣れた声が水樹の耳に届く。
水樹は声のする方に体の向きを変え、彼女を楓を見る。
「あれ?水面ちゃん?」
「水面?」
水樹も、勿論千歳も驚いた表情を見せる。
「えっと、水面はどうしてここに?」
水樹は楓に質問した。
楓が自発的に着替えて外出したのならそれは大きな進歩である。
しかし帰ってきた答えはあまりにも予想外で、
「峰崎くんが帰って来るのが8時頃と聞いてましたので....その迎えに、来たのですが。そちらは冴枝さんでしたか?」
水樹は迎えに来てくれたという楓の言葉に驚きを隠しきれなかった。
それは当然千歳も同じであった。
「そ、そうだけど。迎えにってどういうこと?」
「「あ」」
水樹と楓は揃って「やってしまった」という意味で声を揃えた。
そして説明せざるをえない状況に追い込まれた水樹は千歳に1から順に説明した。『迎えに来た』という言葉の真の意味、そしてどういう状況にあるのかを。
「えっと...つまり水面ちゃんの生活を改善する手伝いのため水樹君は水面ちゃんと一緒に生活していると」
「まぁ、そうだな」
「それにしては仲良さそうだけど、ホントにそれだけの関係なのかな?」
「ああ、それだけ、だが?」
「そう....」
取り敢えず千歳は納得してくれたらしい。
「それで、冴枝さん。なるべくこのことは口外しないで欲しいんだけど」
「うん。誰にも言わないよ。水樹君は優しいからそういうことなんだよね?」
「まぁ、そういうことで」
「あの、私からも質問していいですか?」
そして次に口を開いたのは楓だった。
「峰崎くん」
「は、はい」
「今日の用事は冴枝さんとだったのですか?」
「そ、そうだな」
妙な圧を感じてか水樹は反応が少し鈍っている。
「いわゆる....で、でーとですか?」
「まぁ、そうなるな」
「そうですか」
楓はそれ以上、水樹に質問しようとはしなかった。
しかしここで話は終わらなかった。
何を思ったのか千歳は水樹と楓のあいだに割って入り、楓の方に顔を向ける。
「冴枝さん?」
「あのね一応言っておくね」
「なんですか?」
「私、水樹君が好きなんだ。勿論一人の男の子として。ずっと前から」
「「!」」
それはいわゆる告白だった。
水樹は千歳の背を見ながら、楓は正面で千歳の本音を聞き驚く。
そして千歳は水樹の方に体の向きを変えた。
「ごめんね。こういう形で告白しちゃって。でもこうしないといけないって思ったんだ」
「え、えっと.....」
「別に直ぐに答えを出さなくてもいいんだ。卒業まで、卒業まで私は答え待ってるから」
千歳は最後にそう言って駅のホームへと姿を消した。
そして残された水樹と楓の間には話しづらい空気が漂っていた。
「か、帰るか」
「そ、そうですね」
水樹は勿論動揺しながら、楓に声をかけた。心なしか楓も動揺しているようだったが今の水樹にそれを感じ取る余裕は無かった。
(冴枝さんが俺を....好き?それも昔から?)
水樹は頭の中でその言葉だけがループしていた。
「あ、あの」
「は、はい」
「その....峰崎くんは答えをどうなさるのですか?」
「そ、それは....分からない。急すぎたから」
「そうですか」
「うん......そ、それよりも水面がまさか自分から着替えて外出するとはな」
水樹は無理やり話の話題を変えた。
少しでも状況を整理するために、今は考えたくないのだろう。
「私もやればできます」
「それを何で毎日やってくれないんだ」
「今日はたまたまです」
しかし会話はそれ以上続かなかった。
そしてお互い思うことがあるのか、結局大した会話をすることなく家にたどり着いた。