もう一人の転生者
「て、転生者!?」
「うん、転生者」
シルジオさんは俺の近くにクッションを引っぱってきてそれに座り込む。
「僕の加護についても話しておこうか。僕は触った人物の情報を見ることが出来る。君の名前を言い当てたのも転生者だと気付いたのもその加護のおかげさ」
さっき頭に触れてきたのはそういうことだったのか。ん? でもそれだったら、
「俺に聞く必要ないんじゃないですか?」
「あぁ、実はこの力、触った時間が長ければ長いほど多くの情報を得られるんだ。さっき触ってわかったのは君の今と昔の名前だね。あまり長時間触られるのもいやだろう?」
なるほど、俺のアイテムの装備条件と同じようにこの人の加護にも制限がついてるのか。
「それで、なんで嘘ついたんだい?」
「うっ、じ、実は――」
そこで俺はこの世界に来たときのことをシルジオさんに話した。この世界について何も知らないまま飛ばされた事、ミヤカさん達と出会ったときの事、イルフの民の話を聞いたときの事を。シルジオさんはたまに頷きながら静かに俺の話を聞いてくれた。
「なるほど、現状を説明しても信用されないと思ったから記憶喪失のフリをした、と」
「はい……。異世界人って時点で信じられないだろうに黒人でサングラスの神様なんて更に信じられないだろうなぁって――」
「ちょっと待って、誰だいそれ?」
「え? エイディ様ですよ。この世界の管理をしている神様です」
「おかしいな、僕が転生したときはシャウル様っていう神様だったよ。見た目もそんな奇抜な格好じゃなかったはずだけどなぁ」
二人して首をかしげる。おかしいな、話がかみ合わない。しばらく考えていると、俺はエイディ様に出会ったときのことを思い出した。
「あっ、そうだ、確かエイディ様、最近この世界の管理を引き継いだって言ってました」
「ふむ、それじゃあホルム様は? こう、金髪でいかにも女神って感じの美人なんだけど」
「ホルム様だったら居ましたよ。この前、夢で会ったときはガッツリ寝てましたけれども」
俺のその言葉にシルジオさんは更に首をかしげる。
「うん? 君、この世界に降り立った今でも神と連絡が取れるのかい?」
「えぇ、俺が寝てるとき、たまにあっちから夢に現れますよ。シルジオさんはシャウル様? とは会ってないんですか?」
「この世界に転生するって決まったとき以来、会ってはいないねぇ。まぁ今度、神様達に会うことがあったらシャウル様が元気かどうか聞いておいてくれないかな」
「わかりました。今度いつ会えるかわからないですけど、憶えておきます」
少し話を聞くぐらい多分大丈夫だろう。そのシャウル様から世界を引き継いだのなら知り合いではあるだろうし。
「あとさっきの話の続きだけど、多分ノーワン君達に異世界人だって言っても問題ないと思うよ」
「えっ、それはどういう?」
「だってこの世界は――」
そのとき、いきなり大きな音を立てながらシルジオさんの家のドアが力強く開けられた。
「村長! ここに女の子いる!?」
ドアから入ってきたのは今の俺と同じくらいの身長の男の子、髪は黒色で頬に絆創膏を貼っていた。
「アレシュ、ドアは静かに開けなさいと何度も言っているだろう」
「そんなことよりお前だお前! お前を探してたんだ!」
アレシュと呼ばれた男の子はだいぶ興奮しているようで、シルジオさんの話を全く聞いていない様子だ。ん? お前ってもしかして俺の事か?
「一緒に来て! お願いがあるんだ!」
「えっ、ちょ、ちょっと!?」
「ハァ……、夕方までには戻ってきなよ」
アレシュに手を引かれて家の外へ引っ張り出されてしまう。シルジオさんの家から更に奥、もはや村の外とも言えるような森を突き進み、川辺へと連れて来られてしまった。
「ヨシ! ここでいい」
「一体俺――じゃないや私に何か用?」
「俺、お前が魔法使ったところ見てたんだ!」
アレシュは目を輝かせながら答える。どうやらアレシュは俺がこの村に来る途中使った魔法、氷周雪を何処からか見ていたようだ。
「お前の魔法この村の誰よりもすごかった! 村長にも負けてない!」
「あ、あぁそうありがと。んで私をここまで連れてきた理由は?」
するとアレシュは俺に向かって深々と頭を下げる。
「頼む! 俺に魔法のコツを教えてくれ!」
俺が聞きたいくらいなんですけど。
「俺、一応魔法を使えるんだけどすぐに魔力が無くなって使えなくなっちゃうんだ……」
そう言うとアレシュは石を拾って上へと投げる。案内役のお姉さんがやってみせた様に人差し指で石を操るが、途中で軌道がブレ始めて地面へと力なく落ちてしまう。
「だから、体から魔力が漏れ続けても平気なお前なら何かコツを知っているかもしれないって思って……」
え? 俺、魔力漏れ続けてるの? っていうかイルフって魔力が見えるのか。
そこで俺は村長にも同じ事を言われたのを思い出した。力がダダ漏れとはそういうことだったらしい。
「魔力がすぐなくなるって言われてもなぁ……。あっ、でもすぐ回復する手段なら多分あるかも」
「本当!?」
アイテムポーチに手を突っ込んで、青い液体の入った小さなビンを取り出す。ゲーム内では失ったMPを回復させるためのアイテムだった、『下級ブルーメイト』だ。
「コレ飲んでみて」
アレシュに蓋を開けて手渡す。一口飲んで顔を顰めていたが、その後、覚悟を決めて一気に飲み干した。
「ううぇえ……、なにこれマッズィ……」
反応を見るに、味はHP回復薬と大差ないらしい。
アレシュはもう一度、魔法を使い、石を宙に浮かせる。先ほどとは違って、石は人差し指が指し示す方向へスムーズに移動するようになっていた。
「すごい! 本当に魔力が回復してる!」
「よかったら少し分けてあげるよ。いっぱいあるし」
「ありがとう!」
アレシュはよほど嬉しいのだろうか。大はしゃぎしながら、次々と石を浮かせては川へと飛ばしていく。その光景をしばらく眺めていたが、先ほどシルジオさんが何か言いかけていたのを思い出し、俺は村長の家に戻ることにした。
「じゃあ私、シルジオさんのところに戻るからね」
「うん! ――えーっと……お前?」
そういや、名前言ってなかったな。
「アイリ、今度からはちゃんと名前で呼んでね」
「わかった! アイリ!」
遊び続けるアレシュを後にし、俺はシルジオさんの家へと歩き出した。




