危険な遊び場
少し短かったかなって思って話足しちゃいました。
本当に申し訳ありません。
「おやアンタ、見ない顔だね。外の子かい?」
森を抜けてシルジオさんの家の前まで来たとき、階段を下りてきたおばさんに話しかけられた。
「あっはい、そうです。ちょっと村長に用事があって」
「村長様なら今はいないみたいだよ。アタシも用があったんだけどドアを叩いても出てきやしない。多分、いつもの薬草採りに行ったんじゃないかねぇ」
「そうですか」
なら帰ってくるまでその辺りでも散歩してこようかな。船長達はまだ戻ってないみたいだし。
「それよりもアンタ、それ大丈夫なのかい? 魔力が漏れ続けてるけど」
この人もイルフだから魔力が見えるらしい。さっきから言われ続けているけど別に体が不調な訳でもないし、とりあえず平気だと言っておこう。そういえば何で魔力が漏れるのだろう? こうやって心配してくるってことは多分イルフにとって普通の事じゃないんだろうし、少し不思議だ。
「大丈夫です。なんともないですよ」
「そうかい、ならいいんだけど。しかしその魔力、うちのアレシュに分けてやりたいぐらいだねぇ」
「あぁ、アレシュ君のお母さんだったんですね」
「あれま、うちの子知ってるのかい?」
「えぇ、さっきまで一緒でした」
多分、本人はまだ川辺で魔法を使って遊んでいるだろうけれども。
「あの子は魔力が少ないのを気にしててねぇ。今すぐ村長様みたいになるんだーっていつも必死で。大きくなれば魔力の量も増えてくるって村長様は言ってるというのに……」
おばさんは困った顔でため息をついた。
「それに目を離すとすぐにどこかへ遊びに行っちまう! 困った息子だよほんとに」
「アハハ……」
確かに俺の都合を考えずにいきなり連れ出したりするし、用が済んだらほったらかしな辺りかなり困った子供といえる。
その後もおばさんのアレシュに対する愚痴を聞いていると村での聞き込みを終えたのか、船長とミヤカさんが戻ってきた。
「おう嬢ちゃん、親は見つかったか?」
「あっ船長……、いえ、まだ見つかってないです」
「おやおや、保護者さんかい」
一瞬、親なんていないと本当の事を言おうと思ったが躊躇ってしまい、つい否定の言葉が出てしまった。シルジオさんは俺の正体をバラしても平気だと言っていたがどうしても決心がつかない。
「大丈夫よアイリちゃん、私達が絶対に見つけてみせるから安心して?」
ミヤカさんの言葉が胸に深く突き刺さる。本当にこれでいいのだろうか、俺はこの人たちを騙しているだけじゃないのか。そんな罪悪感がだんだん大きくなっていき、心が苦しくなってくる。
「……嬢ちゃん、なんか悩みでもあるのか?」
「え……」
「人の顔ってのは何も喋ってなくてもいろんなことを周りに伝えるもんだ。例えば、今嬢ちゃんが元気ねえのも丸わかりだ」
船長は俺の頭に手を置いて優しく撫でてくる。父さんの手を思い出す大きな手で。
「言いたくなったらでいいからよ、俺達に言ってくれ。出来ることなら何でもしてやるからよ」
ノーワン船長は微笑みながら、俺を見つめてくる。
「ノーワン、そこまでアイリちゃんのことを……」
「ノーワン船長……」
ミヤカさんが目に少し涙を浮かべながら感動している。正直俺もここまで思われていたなんて衝撃的で泣きそうだ。ノーワン船長、のぞき趣味の変態だと思っていてすいませんでした。貴方こそ立派な船ちょ――
「見返りはそのおっぱい鷲掴みでいいから――」
「クズが」
前言撤回、お涙回収。もちろんミヤカさんが許すはずもなく、のぞき趣味のクズな変態は横から顔面をぶん殴られ、俺の視界から消えた。
「ソーデスネ、カンガエトキマス」
「ちょ、嬢ちゃん俺が悪かった! 助けっ――! 野生のゴリラが俺を襲ってるの! ノー! ダメ! ゴリラパワーキンジラレ――オボォッ!」
「死にたいならッ! そう言えッ! クズがッ!」
「アッハッハ! アンタ等漫才の才能あるよ!」
おばさんはボコボコにされるノーワン船長を見て大笑いしていたが俺は一切笑うことが出来なかった。違うんですよおばさんその人ウケ狙いとかじゃなくて本気なんですよ。
「ま、待てミヤカ! 一旦落ち着こう! とりあえず依頼の獣が見つかるまでは穏便にお願い!」
「チッ、仕事終わったら性根叩きなおしてやるわ……。それはそうと、これからどうするのノーワン、一番新しい動物の死骸でも5日前だったし」
「あぁ、どうすっかな。多分もうその死骸の辺りにはいねえだろうし」
どうやら聞き込みのほうでは、あまり進展はなかったらしい。やっぱり俺も手伝おうかと思ったとき、おばさんが不思議そうに口を開いた。
「なんだいアンタ等、最近見かける動物の死骸探してんのかい?」
「はい、私達はその原因を解明してほしいと村長から依頼を受けて来たんです」
「なぁんだそうだったのかい。アタシさっきそれを見かけたよ」
「本当ですか? それはどの辺りで?」
「あぁ、それがね――」
「――川に水を汲みに行った時見かけたんだよ。あの川辺は近くが子供達の遊び場になってるから村長様から皆に伝えるようお願いしに来ていたんだ」
「えっ?」
その言葉を聞いたとき、嫌な予感が全身を走り抜ける。――川? 俺がさっきまでいた場所が脳裏に浮かび、全身から汗が吹き出るのを感じる。勘違いであってほしいと心から願う。
「あ、あの! その川ってどこのですか!?」
「どうした嬢ちゃん?」
「アイリちゃんどうしたの? 川に何かあるの?」
「あぁ、それならこの村長様の家から更に奥の――っておい! 何処行くんだいアンタ!」
「――! あのバカ……!」
「アイリちゃん!?」
全力で先ほどまでいた場所へ走る。連れて行かれた川辺へ、アレシュがまだいるであろうあの川辺へ。
ただひたすらに走る。途中何度か転んだがそんなことはどうでもいい。
なんとか川辺まで辿り着き、俺は力いっぱい叫んだ。
「アレシューッ!」
すると、川の向こう側にアレシュの姿が見えた。先ほどと同じように石を浮かせて遊んでいる。俺の声でこちらに気がついたのか元気よく手を振ってくる。
「アイリー! どうしたのー?」
「この川近くに危険な動物が出るそうなんだ! 今すぐ村へ戻ろう!」
「えー? でもまだここで遊びたいんだけど――」
「村に帰ったら俺が遊んであげるから早く!」
アレシュが不満そうな顔をして、浮かせている石を落としたとき、後ろの草陰から突如、素早く巨大な影がアレシュに向かって飛び出した。
「――! テクニックコード! 雷電鳥!」
即座に魔本を取り出し、雷電鳥を使用して駆ける。雷の鳥となった俺は川を飛び越えて影に向かって突っ込んだ。しかし、
「グルァッ!」
「なっ!?」
影は即座に身を翻し、突っ込んできた俺を避ける。雷電鳥の勢いが殺しきれず、俺はそのままアレシュのすぐ横の地面へと土煙を立てながら着弾した。
「痛っダァ!?」
「アイリ! 何今の!? すごい! もう一回やって!」
「んなことやってる場合じゃないよ!」
アレシュが大喜びしながら駆け寄ってくるがそれを無視して先ほどの影を確認する。
そこにいたのは犬だった。しかし、俺が知っているような見た目をしていない。地面からその犬の背中までの高さが大体今の俺と同じ120cmほど、全身を覆う剥き出しの筋肉に鋭く曲がった爪。
そして何よりその犬は頭が二つあり、剥き出しの歯から唾液がダラダラと零れていた。
あまりに醜悪な見た目に目を逸らしそうになったが、後ろでアレシュが震えているのに気付いた。
「アレシュ、俺の手を握っとけ。絶対離れるなよ!」
「う、うん……!」
「ガルォォォォォォォオオオオオオオオ!」
雄叫びを上げる怪物に対し、俺は魔本を構えた。




