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魔獣戦記  作者: Meg
13/14

第五話/01

始まりの三人と言えば赤、青、黄ですよね(特オタ感)


 ノア──魔力を持たず、魔術を行使できない人類。

 リリン──魔力を持ち、魔術を行使する、ノアとは異なる生命体である人類。

 魔獣──リリンを喰らい力を得る、人智を超えた異形の化け物たち。

 魔獣討伐部隊の一員として選ばれた鵠は、いずれ再び来たる戦いに備え、よるとの戦闘訓練を始めて二週間が経った頃だった。

 だが、未だ友人に一撃どころかかすり傷さえ負わせられていない鵠の中には、少しずつ焦りが生じ始めていた。


「──強化魔術もできている時とできていない時がある。教えた通り日常生活でも意識しているかい?」

「意識してるけど、そうすると物とか壊しそうで怖いんだよね……」

「普段できねー事を戦闘でやろうとしたって無理な話だぞ。未だにお前受け身取るのも下手じゃねーか」

「うぐぅ……」

「……でも、この二週間で随分と進歩したんじゃないかな。剣も随分と使いこなせる様になったと思うし」


 辛辣な明貴とフォローを入れてくれるよる。

 まるで鞭と飴の様な二人だが、弁当を食べる鵠の肩はシュンと下がっていくばかり。

 伊織が他の友人たちと昼食を採っているのを良いことに、三人は誰もいない屋上で誰にも聞かれてはならない会話を遠慮なく交わしている。

 もうすぐにでも雨が降り出しそうな空の色は、まるで鵠の心の色合いそのものの様だった。


「明貴とよるはいつから戦える様になったの?」

「俺は物心付く前から陰陽術を叩き込まれてたからなぁ……」

「僕も気が付いた時には、って感じだから、上手いアドバイスが出来ないね」

「そっかぁ」


 結局は魔力の使い方を己の身体に叩き込むしかないのだと、行き詰まっては振り出しに戻って。

 その繰り返しだが、よるの言葉や明貴の指摘を信じて、日々成長していると前向きに修行に励む他ないだろう。

 そんな時だった。


「──!」

「……召集か」


 不意に、己が左手の指輪を見下ろしたよると明貴。

 指輪が熱くなるのは任務の招集が掛かった証。

 そうは言ってもまだ午後の授業が残っているが、人命のかかった任務と学業では前者の方が優先されるのは仕方がないだろう。

 ──とは言え今後の学校生活に差し支えないか不安気な面持ちの鵠の胸中を察したのか、よるは曖昧に笑いながら語った。


「此処の学長や理事たちはリリンの存在や僕らの立場を認知している。だからある程度は融通を利かせてくれるよ」

「そうなの!?」

「魔術師の家系の大半はこの学校に集まるからな。数学の沢松先生だってリリンだぜ」

「……一体どうやって見分けてるの?」

「そんな訳で鵠、俺たちは支部に行ってくるから適当に誤魔化しておいてくれ」

「は?そんなこと言われたって……!?」

「すまないが頼む」


 鵠の返事を待つより前に屋上を出て行ってしまった二人の背中を見送る鵠は、取り残された虚しさに再び肩を落とすのだった。

 ──雨が降る前に教室に戻ろうと屋上を後にし、五時限目が始まる前には案の定よるや明貴のことを伊織を始めとしたクラスメイトに問われる鵠だが、此処はしらばっくれる他ない。

 始まった授業に集中しなければならないのに、明貴たちが赴いた任務の内容が気になって仕方がない鵠は、教師の声に耳を傾けながらも何処か上の空だった。

 二人が戦わなければならない敵はどんな魔獣なのだろうか、自分にも召集が掛かるだろうか、実戦に行って今までの訓練が役立つだろうか……。

 そんなことばかりが頭を駆け巡る鵠にとって、教師に問題を当てられなかったことは僥倖だっただろう。

 表面上は何とか平然を装って授業を終え、今にも雨が降り出しそうな空の下で伊織と肩を並べて下校時間を迎える事が出来た。


「降ってくる前に家着けたら良いな……それにしても、明貴もよるくんも急にどうしたんだろうね?」

「ね?」


 等と、一見他愛もない会話を装ってはぐらかしていた。

 ──その瞬間である。


「っ!」

「えっ?」


 自身の顔を目掛けて突進してきた小さな何かを、間一髪の所で捕まえた鵠。

 手の中で不快な感覚を残して潰れ死んだ〝それ〟の正体はミツバチ。

 しかし、これがただの蜂ではないと気が付けないほど、こと魔術に関しては疎いとは言えなくなった鵠であった。


(魔力を感じる……)

「びっくりした……鵠、そんな反射神経良かったっけ?」

「い、いや、びっくりしてつい……」


 強化魔術の訓練を繰り返していなければ出来なかった芸当だったが、咄嗟の行動を笑って誤魔化すのも一苦労だ。

 この蜂がミツバチに似た魔獣なのか、それとも魔術を施されているのかまでは判断が付かない。

 ──ICIOLの支部に行って確かめて貰うべきかと、ミツバチの死骸をハンカチに包んだ鵠は、伊織と駅で別れ帰るフリを装い踵を返す。


(公衆電話……あった)


 街角に設置されているそこに入り込み、人目が無いことを確認した鵠は習ったばかりの数字を順番に押して行く。

 すると、公衆電話内がエレベーターの様に降下し、暗い暗い地下へと潜り始めた。

 ──都内全ての公衆電話には転移魔法が施されており、魔力を持つ者が特定の番号を押すとICIOL日本支部へと移動できる。

 そう天恵に教えて貰っていた鵠だが、説明を受けていたのといざ自分でやってみるのとでは訳が違った。


(いよいよ私も魔術社会の一員、って感じがしてきたな……)


 やがて目的の場所に辿り着いたことを知らせる軽い音と共に開いた扉の向こう側では、人の往来が忙しなく流れ続けていた。

 ICIOL日本支部のエントランスは白を基調とした楕円形の広々とした空間で、各局や各部署に応じた窓口に人が集まり続けている。

 まるでノアの世界で言うところの〝役所〟を連想させる場所で、鵠は目当ての窓口に立つ男性に声を掛けた。


「えっと……〝治安維持局魔獣討伐班〟の宮簀です。月舘局長にお会いできますか?」

「……!担当の者を寄こしますので、少々お待ちください」


 名を告げた途端、目の色を変えた男性局員は手元のタブレットを手早く操作する。

 そうして待っていれば十分も経たない内に現れたのは、肩で息をしながら駆け寄って来る天恵だった。


「光さん」

「く、鵠さん、良かった、丁度君にも召集が掛かるところだったんだ」


 それは、先に呼び出された明貴やよると何か関係のある事案なのだろうか。

 詳しいことは局長室でと、案内される鵠は──やはり周囲からの好奇の視線を浴びながら──真っ直ぐに目的の場所へと向かう。

 そこで鵠を待っていたのは創石と、予想に反してよるのみで、明貴の姿は何処にもなかった。


「あれ?明貴は?」

「土御門くんなら海外の任務に行ったよ」

「……海外?明貴が?」


 修学旅行ですら乗り物での移動を嫌がっていた明貴が、長時間の移動を要する海外への赴任など大人しく受け入れるとは到底思えない。

 そう訝しがっているのが顔に出たのか、よるは曖昧に笑いながら「第四号機が連れて行ってくれたんだ」と語る。

 ……恐らくは全力での抵抗を示したのであろう明貴と、それを取り押さえる翡翠色の兵器を思い浮かべた鵠も、乾いた笑いしか零せなかった。


「宮簀くん、早速で悪いが君にも任務だ」

「あ──その前に、これを見てもらっても良いですか?」


 ハンカチに包まれていたミツバチの死骸を見せた途端、創石やよるの目の色がほんの僅かだが変わったのを鵠は見逃さない。

 

「……これは何処で」

「飛んで来たのを捕まえたんです。先日の土蜘蛛の件もあるし、魔力を感じたから一応報告した方が良いかなって思って……余計なことでしたか?」

「いや、良く報告してくれた」

「鵠、僕と土御門くんも此処に来るまでに全く同じ蜂に襲われたんだ」

「え……」

「これは十中八九〝今回の件〟と関係があるだろう」

「?」

「今朝、郊外の山奥で〝大百足(おおむかで)〟が発見されたと報告が入った」


 大百足。

 日本のみならず東アジア各国でその名が見られる、代表的な妖怪の一種。

 最も有名なエピソードとしては、三上山の龍神の一族と敵対した果てに藤原秀郷によって退治された大百足の話だろうか。

 土蜘蛛が実在するのだから大百足とて実在してもおかしくはないと、今や鵠の脳は如何なる怪異や物の怪の存在も現実のものとして受け入れる柔軟性を養っていた。


「今回の大百足と先の土蜘蛛の件、恐らくは〝同一犯〟だろうと九条から報告が入っている」

「同一犯……?」

「元々あそこは土蜘蛛の封印場所だったのだが、何者かによって意図的に開かれた痕跡が見つかった」

「……!」

「〝蟲使いの魔術師〟による一連の犯行と見て捜査を進めて来たが、今回のよると土御門くん、そして宮簀くんへの攻撃で確信した。犯人は間違いなく〝ムーン・チャイルドの所有者〟に狙いを定めた」

「……」

「治安維持局局長として、大百足討伐並びに犯人確保の任務へ『月舘よる』、『宮簀鵠』の出動を命ずる。異論は無いね?」


 厳格に告げられる声にただ頷く鵠の頬を、緊張の汗が一筋伝った。


「先に現地へはアンドレーエ医師が向かっている。合流し、任務に当たってくれたまえ」

「はい……!」

「──イデアス、来てくれ」

「アスラ、おいで」


 指輪に語り掛けた途端、突如虚空に現れた燃え盛る炎と激しい水流の中から人影が姿を見せる。

 イデアスとアスラ──それぞれの所有者を不敵に見下ろすムーン・チャイルドたちと共に向かう任務を前に、鵠は言い表し難い胸騒ぎを覚えていた。

 土蜘蛛たちに人間を襲わせ、蜂で鵠たちの命を狙い、今度は大百足を(けし)かけようとしている何者かの存在。

 一体何を目的としているのか、その全容が全く見えない不気味さは鵠の中に恐怖にも似た戦慄を齎す。

 ──果たして、今回の任務を成し遂げ、生き抜くことができるのだろうか……?

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