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私は兄で出来ている  作者: 渡里あずま


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第二話

 高志は見た目もだが、もう一つ注目を浴びる要素がある。それは、芸能事務所『カラット』の社長令息ということだ。

 そんな高志まで、咲姫の面談に乱入したことで校内に残っていた生徒達は大騒ぎになった。その為、面談はひとまず終了となり、咲姫は遼と帰宅することになったのだが。


「……何で、お前まで」

「えー? 一人だけ逃げるなんて、ずるいよ。遼さんー」

「人聞きの悪い言い方をするな」


 帰りをスムーズにする為、遼はマネージャーを車で待機させていた。そして、その後部座席に咲姫と共に乗り込んだのだが――高志まで、一緒に乗ってきてドアを閉めてしまったのだ。

 生徒達に囲まれる前に、と車は発進されたがおかげで遼の機嫌は悪い。そして、そんな遼と拗ねたように反論する高志に挟まれ、咲姫はやれやれとため息をついた。

 ……高志と遼は、初対面ではない。

 遼が『カラット』に所属していることもそうだが、実は両親が生きていた頃、高志は咲姫の家に預けられていたことがあり。咲姫とは、幼なじみと言えなくもない関係なのだ。


(まあ、親が死んで今の学校に転校してからは、表立っての接触は控えてたけど)


 遼の存在とどこで繋がるか解らないのもそうだが、高志自身がとにかく目立つ。それ故、下手に注目を浴びたくない咲姫は、高志にも学校では話しかけないように頼んでいたのだが。


「遼さんのことがバレたなら、俺だって解禁しないと!」

「当然みたいに言うな」

「だって、他の奴らに咲姫ちゃん取られたくないしー」


 何故か解らないが、高志は昔から咲姫を好きだと言ってくる。

 咲姫としては幼なじみ以上の気持ちがないのと、何より悪目立ちしたくないので距離を置いているのだが、それでも誕生日とホワイトデーはかかさずプレゼントが届く。咲姫は、応えることが出来ないからとプレゼントやチョコを渡していないのに、だ。

 それは妹である咲姫を溺愛している遼としてはおもしろくないらしく、流石に捨てこそしないが家に送られてくる(学校や外では会わないので)それらを忌々しそうに睨んでいる。そう、今のように。


「語尾を延ばすな。あと、咲姫はお前のものでもないし、そもそも高校生なんて結婚相手としては論外だ」

「……そうか?」


 そこで二人の会話に、運転をしていたマネージャーが割り込んできた。

 スーツ姿がサラリーマンではなく、ボディーガードに見える彼は遼だけではなく、咲姫や高志のことも知っている。そして信号待ちをしながら、彼はバックミラー越しに咲姫達へと視線を向けてきた。


「確かに、坊ちゃんだけどよ……芸能人もイケそうだけど、将来は会社を継ぐって言ってるし。社長令息、悪くないだろう?」

「……恋人と、結婚は違う」


 尋ねられたと言うかお勧めされたのは咲姫だったが、マネージャーからの言葉に答えたのは遼だった。

 その後、気まずい沈黙が落ちたが――しばらくして家に到着した為、これ幸いと遼と二人で降ろして貰い、高志達と別れたのである。



 ……包丁禁止、は遼が家にいない時のルールだが。

 遼が家にいる時は、そもそも咲姫は何もしない。そう、今のように。


「ご飯出来たぞー」


 セーラー服からゆったりとしたワンピース(遼の好みの森ガール風)に着替えて、リビングで勉強をしていた咲姫に声がかかった。

 冷凍庫には、遼が仕事でいない時の為に休みの日に作り置きした料理が入っている。けれど今日のように、家にいる時は作りたてにこだわって、楽しそうに朝食や夕食を作る。


「いただきます!」

「いただきます……ん、美味しい」


 四月だから、と作られた春キャベツの炊き込みご飯を一口、食べて咲姫は呟いた。途端に、遼がパッと顔を輝かせる。


「そうか!?」

「うん。この、豚の角煮も美味しい」

「そっかぁ~」


 面談の時の爽やか好青年ぶりが嘘のように、今の遼は咲姫の言葉にデレデレだ。もっとも、こんな大甘な遼のことも好きなので咲姫も面倒がらず、ちゃんと「美味しい」と伝えることにしている。


(……結婚して家を出たら、伝えられなくなるから)


 声に出さずに、そう続けて――ごちそうさま、と言うとまた遼はくるくると働き出す。

 食べ終えた食器を洗い、片付けて。お風呂の準備をするのも遼だ。そして、風呂上がりの咲姫の髪をタオルとドライヤーで手入れをし、自分がお風呂に入った後、お風呂掃除もする。

 朝は朝で、咲姫を起こして朝食を食べさせて。制服に着替えると、長い髪を梳かしてくれる。仕事の時以外、おはようからお休みまで咲姫は遼に構い倒されていた。

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