父からの呼び出し
「おまえと陛下との婚礼が決まった。」
部屋に入るなり、父から聞かされた言葉に、一瞬、私の動きは止まる。
あれから一刻程で、父からの呼び出しが掛った。
フレック兄様は帰っており、挨拶も出来なかった。
父の言葉で確信する。
フレック兄様は、私に会いづらかったのかと。
「かしこまりました。」
父に一礼し、了承の意を口にする。
「おまえは、何も聞かないのだな?」
父は娘の様子に、苦笑いする。
「私は、ローゼディスク公家の娘。全て理解しております。」
我が家は、裏部隊(隠密)を沢山抱えている。ローゼディスク公家が、帝国に吸収される前は、裏の情報収集で、各国の弱みを握り、国を守って来た。無論、情報収集以外のこともしてきたが…。帝国に吸収された今は、裏部隊は帝国に恭順の姿勢を見せ、仕えている。しかし、当時、帝国に譲渡したのは部隊の半数で、残り半数は、今でも公家に仕えている。裏部隊は秘密組織で人数の把握は陛下でも不可能である。また、譲渡したとはいえ帝国の裏部隊の第一の主は、ローゼディスク公家の当主である父に他ならない。
私自身も7歳の時から専属の隠密を抱えている。
父から託された者もいるが、自ら才を見出し、抱えた者もいる。
味方を作るには自らが行動し、見極めなければならない。
真の味方とは、自ら得るために行動してこそのものである。
当主である父も、私とは比べものにはならないほどの巨大な情報を持ち、背後で操っている。
父は娘の様子を見て、満足げに微笑む。
普段の父は家庭的で温かいが、国に関わることに関しては、私情をはさむことはない。
父の眼を見る限り、本気で獲物を狩るつもりでいるようだが、どこか引っかかる。
今はまだ、静観するという姿勢だ。
それに父は、どこか、この状況を面白がっている。
父は、傍から見れば、王家に誰よりも忠誠を誓っているようにも見えるし、私自身もそう思っていた。
陛下も父のことは、ある程度、信頼していると言っても良いだろう。
だが、今回のことを父が、何も陛下に進言せず、見守るのは何故なのか。
その理由が見当たらない。
王家の混乱を望んでおられる?とも考えたが、父に、そうしなければならない理由が見つからない。
「寵姫の裏におる者は中々のやり手だ。尻尾を出さぬゆえ特定が難しい。今回は長期戦となるだろう。そなたは持てる力で、人を惹きつけよ。陛下は子さえできれば、お前を遠ざけるだろうが、我が家にとって、そこは問題ではないな。むしろ遠ざけてもらった方が動きやすいな。そなたの身と産まれるであろう嫡男は我らローゼディスク公家が守り通そう。決して、寵姫に皇后の座を取られてはならぬ。我らは、陛下の為には動かぬが、国の為だけに動く。そなたの行動一つ一つが民へと繋がる。そのことを忘れてはならぬぞ。」
「肝に銘じます。」
一礼し、部屋を出ようとした時、父は呟いた。
「すまない。」
その父としての一言で、レイシアの心に迷いは無くなった。