28話「ラスボスだったけど、ラスボスじゃなかっ・・・た…?」
宮廷検察局から指定された面会場所は、王都の行政区にある一軒の迎賓館だった。
ガーランド公爵邸のような巨大な威圧感はないが、周囲には私服の魔導騎士たちが不自然なほど等間隔に配置されている。
「……本当に大丈夫なんですよね、アスノさん?」
ミーナが服の裾をぎゅっと握りしめ、不安そうに周囲を伺う。
「ああ。新聞を使って俺を呼び戻した以上、検察にとっても俺は公式な窓口が必要な重要人物だ。
ここで俺に不利益があれば、国の面目が丸潰れになるからな」
俺は自分に言い聞かせるように答え、建物の中へと進む。
「いいかアスノ。お前が勝手に一人で暴走しないように俺たちが付いてるんだ。変な気を起こすんじゃあないぞ」
アークがいつになく鋭い目で俺を釘刺す。
「……アスノ君。一人で全部抱え込まないで。私達もここに居るんだから、落ち着いて話し合ってきなさい」
エミルも、緊張で震えそうになる指先を隠すようにそっと拳を握り、俺を諭すように言った。
目的の広間へ近づくにつれ、扉の向こうから漏れ出す重苦しいプレッシャーが肌を刺す。
三人の顔色も目に見えて悪くなっていた。
重厚な扉が開かれた瞬間、室内の空気が物理的な質量を伴って押し寄せてきた。
(なんだ……この感覚は)
部屋の最奥、一段高くなった場所に置かれた黒檀の椅子に、一人の男が深く腰掛けていた。
漆黒の髪。燃えるような赤い瞳。 デニスの記憶が消失しかけている俺でも理解できた。
この男が、俺の兄――ギルバード・ガーランド
傍らには、腰まで届く黒髪が印象的な冷徹な美貌の女性。
そして反対側には、緑色の髪を短く整えた男が控えている。
「銀髪? ガーランド家の者は全て黒髪では?」
「案ずるな、彼奴は本物だ。魔力の質でわかる」
ただ座っているだけだというのに、ギルバードから放たれる圧倒的な覇気に心が折られそうになる。
俺は咄嗟に、情報を探ろうと《鑑定》スキルを発動した。
『ギルバード・ガーランド:Lv 85』
(なっ……!?)
読み取れたのはそこまでだった。 やり込み次第でレベル255まで上げられるこの世界において、
Lv 85という数字は、物語を締めくくるラスボスたちと同等の領域だ。
刹那、ギルバードの口角が僅かに下がった。 怒りというよりは、何とも言えない落胆と悲哀が混ざったような表情。
「……許可もなくスキルで内情を覗き見るか、デニス」
地響きのような低音が響いた。直後、部屋全体の空気が爆発したかのように膨れ上がる。
「ッ……!!」
凄まじい威圧感に、背後のアーク、エミル、ミーナが悲鳴を上げる間もなく膝を突き、地面に顔を伏した。
立っていられるのは、魔力を全開にして抗っている俺だけだ。
「14年ぶりに会う兄を、まずは値踏みするのがお前の挨拶か。……どこまでもガーランドの血に染まりきっているのだな……」
ギルバードがゆっくりと立ち上がった。
傍らの黒髪の女性が、過剰とも言えるその圧力を前に、たじろぐように目を見開き、兄の横顔を仰ぎ見ている。
俺の知るデニス・ガーランドは、ルートによっては強大な闇の力で世界を脅かす真の悪役へと変貌する。
だが、目の前にいる男はどうだ。 鍛え上げられた肉体と、すべてを平伏させる絶対的な覇道。
それは理不尽なまでの「強者」としての完成された姿だった。
(俺はラスボスの転生体だと思ったら別にラスボスが生えてきた
何を言ってるのかわからねーと思うがおれもわけがわからない…
頭がどうにかなりそうだ)
底の知れない深淵。兄という名の絶望を前に、俺の右手が僅かに震える。
「……お久しぶりです、兄上」
絞り出した言葉を、ギルバードは冷徹な眼差しで受け止めた。
この男に「武器を借りたい」などと言い出せる隙が、どこにある。
最悪の帰省は、まだ始まったばかりだった。
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