24話「この時間が、これからもずっと続いてほしいと心から思った」
インザーの洞窟に一歩足を踏み入れると、地下特有の湿った冷気が肌にまとわりついた。
天井からは鍾乳石が垂れ下がり、時折、水滴が地面を打つ音が響く。
「アークが前衛、エミルさんが中衛で遊撃、ミーナは中央で魔法支援。俺は最後尾から全体を見る」
「了解だ」
「わかったわ」
「はいっ!」
三人の返事は力強い。だが、俺の表情が硬いのを見て取ったのか、
アークが俺の頭を軽く小突く
「背中を頼む」
ニッっと笑い、アークは先へと歩を進めた
「……ああ。任された」
俺は深く頷き、一行はダンジョンの奥へと進んでいった。
◆
下見で確認した最短ルートを通り、第三層の行き止まりへ到着する。
そこには、俺が先日物理的に開通させた大穴がそのまま残っていた。
「ここだ。この先に隠しエリアがある」
俺が先導して穴を潜ると、そこは別世界だった。
壁一面が魔鉱石で覆われ、虹色の輝きを放っている。その幻想的な空間を、ゼリー状の魔物が多数浮遊していた。
身体の中に宝石の核を持つスライム、「ジュエルスライム」だ。
「いたぞ! ジュエルスライムの群れだ!」
アークの声と共に、こちらの気配に気づいたスライムたちが一斉に動き出す。 その速度は異常に速い。
「速っ!? これじゃ狙いが……!」
「焦るなミーナ! 俺が足止めをする! 全員、俺が作る壁の中に敵を追い込んでくれ!」
俺は両手を広げ、闇魔法を展開する。
「ダーク・ウェブ!」
さらに、氷魔法で物理的な壁を生成し、コの字型の「キルゾーン」を作り上げた。
「今だッ! 追い込め!」
「了解!」
アークが剣の腹でスライムを弾く。逃げようとしたスライムは、俺が展開した見えない結界と氷の壁に阻まれ、逃げ場を失って右往左往し始めた。
「袋の鼠だ、叩け!」
「ヨシッ!」
「逃がさないわよ!」
アークとエミルの攻撃が炸裂する。 ジュエルスライムは防御力が極端に高いが、逃げ場さえなければサンドバッグだ。
硬質な音が連続して響き、やがてパリンッという音と共に魔物が砕け散る。
「倒した! すげぇ経験値が入ってくるぞ!」
「どんどん来るぞ! このまま狩り続けろ!」
俺たちは「キルゾーン」戦法を駆使し、効率的に狩りを続けた。
レベルアップの光が、何度もアークたちを包み込む。 圧倒的な成長速度。
ジュエルスライムの戦利品(高価宝石)を回収しつつ
俺はその光景を見ながら、確かな手応えを感じていた。
◆
数時間の狩りを終え、俺たちは休憩を取ることにした。
「ふぅー、動いた動いた! 腹減ったなぁ! 飯にしようぜ!!!!!!」
アークが収納魔法を開くと、そこから折りたたみ式のテーブルと、バスケットが出てきた。
中から現れたのは、エミル特製のサンドイッチや肉料理の数々だ。
「わぁ! エミ姉のお弁当!」
「わざわざ作ってきてくれたんですか? ありがとうございます」
「さあさあ、たくさん食べて! 魔法使ったからお腹空いてるでしょ?」
ダンジョンの中とは思えないほど、和やかなランチタイム。
アークが大きな肉にかぶりつき、ミーナがスープを配り、エミルがそれを見て微笑んでいる。
俺もサンドイッチを受け取り、一口食べる。美味い。
「アスノも遠慮すんなよ。お前のおかげで、俺たちとんでもなく強くなれたんだからな」
「そうですよ! 私、上位回復魔法覚えられましたよ!」
「私も身体が羽みたいに軽いわ。ありがとう、アスノ君」
三人が俺を見る。その目はとても暖かくて、ただただ嬉しかった。
俺はこの世界で、アークたちと共に旅をし、様々な物語を共に見届けることが目標だった
今、俺はその夢の真っ只中にいる。
この時間が、これからもずっと続いてほしいと心から思った。
休憩を終え、ステータスを確認する。
アーク:Lv15 → Lv42 ミーナ:Lv14 → Lv40 エミル:Lv26 → Lv45
十分な成果だ。ゲームなら中盤後期のレベル体だ。
俺もレベルが上がってLv66になった。
崖を崩れ落とした攻撃がスキルとして登録されたが、使う機会がこないことを願う
俺達は警戒を怠らず、気を引き締め直して狩りを続けた
◆
狩りを続けて、俺たちは隠しエリアの最奥部、崖のある場所まで移動していた。
眼下には底知れない暗闇が広がっている。
「あまり端に行くなよ。危ないからな」
「ああ、わかってる。 ミーナ!皆にライティングをかけ直してくれ」
「わかった!」
ミーナがパーティ全員に照明魔法をかける。
あたりが明るくなった
その時だった。
俺の《索敵》スキルが、爆発的な殺気を捉える
「ッ!? 下がれッ!!」
俺が叫ぶのと同時、頭上の岩棚から巨大な影が三つ、落下してきた。
ズドォォォォォンッ!!
凄まじい着地音と共に地面が揺れ、俺たちは体勢を崩した。
舞い上がる土煙の中から現れたのは、全身が筋肉の鎧で覆われた、五メートルを超える巨人――『ギガント・オーガ』。
その瞳は血のように赤く、手には巨大な棍棒が握られている。
(馬鹿な……!? こいつらは推奨レベル45以上のモンスターだぞ!? なんでこんな序盤のダンジョンに!)
「グルルルルゥ……!!」
オーガの一体が、一番近くにいたミーナとエミルに狙いを定め、棍棒を振り上げた。
速い! 巨体に似合わぬ剛速だ
「させねぇッ!!」
アークが吼える。 彼は瞬時に二人の前に割り込み、剣を構えて防御の姿勢を取る。
素晴らしい反応速度だ。レベル42のステータスがあるからこそ間に合った動きだ。
だが――相手が悪すぎた
ガギィィィンッ!!
「ぐぉッ……!?」
アークの剣が、棍棒の一撃を受け止めきれずに悲鳴を上げる。
圧倒的な質量差。アークの足が地面にめり込む。
オーガはその隙を見逃さなかった。
空いた左手が、アークの胴体を鷲掴みにする。
「がはっ!?」
「アーク!!」
ミーナの悲鳴が上がる。
オーガは捕まえたアークを、邪魔な石ころでも捨てるかのように、背後の崖へと放り投げた。
「しまっ――」
アークの体が宙を舞い、暗闇へと落ちていく。
「アーク!!」
俺は即座に魔力を放出する。
自身に身体強化魔法をかけて魔法有効範囲までアークに近づく
「《浮遊》! 」
俺の魔法が落下するアークを包み込み、
その身体を空中でピタリと静止させる。
「アスノ!?」
「そのまま動くな!」
「ガアアアアアアアアアアアッ??」
オーガが苛立ち紛れに地面を叩きつける。
ゴガァッ!!
その衝撃で、ミーナとエミルの立つ崖の岩盤が限界を迎えた。
「キャァァァッ!」
「エミルッ、ミーナッ!!」
足場が崩落し、二人の体が土砂と共に奈落へと投げ出される。
「くそっ!!」
俺は空中で体勢を反転させ、再び魔法を発動する。
「ミーナ!!」
俺は落下し始めたミーナにも浮遊魔法をかけ、アークの近くの空中へと固定する。
だが、エミルは。 エミルは崩落した岩石に巻き込まれ、さらに下へ、暗闇の底へと落ちていく。
「エミルッ!!」
遠い。魔法の射程外だ。
俺は限界まで魔力を絞り出し、重力以上の速度で急降下する。
風圧で顔が歪む。
視界が滲む。
エミルが、
俺に手を伸ばしている。
「アスノ……くん……ッ!」
指先が触れる。 あと少し。 地面はもう、すぐそこまで迫っていた。
「間に合ええええええええッ!!」
俺は叫びと共に手を伸ばし、エミルの手をガシッと掴んだ。
そのまま彼女の身体を引き寄せ、強く抱きすくめる。 直後─
ズドォォォォォォンッ!!
世界が揺れるほどの衝撃。俺たちは地面に激突した。
俺は自分の背中と魔力障壁をクッションにし、エミルへの衝撃を全て受け止める。
骨が軋み、肺の空気が強制的に吐き出される。
「が、はっ……!」
土煙が晴れていく。 クレーターの中心で、俺はエミルを抱いたまま仰向けに倒れていた。
腕の中のエミルが、恐る恐る顔を上げる。
「アスノ、君……?」
彼女に怪我はない。 よかった、守れた。
俺は安堵の息を吐き、身体を起こそうとして激痛に顔をしかめた。
エミルの顔色がサァッと青ざめる。
彼女の視線が、俺の左肩に向けられていた。
地面に叩きつけられた衝撃で障壁ごと肉が裂けたのだろう。
俺の左肩からは、鮮血が止めどなく流れ出していた。
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